第45話 魔物との戯れを楽しんでくれたまえ!!

 両手両足、そして頭部を失ったフォドゥラが地面に倒れ込む。

 

 それに伴いリミッター解除の特徴だった青い炎が消え、完全に機能停止した事を意味するようになる。

 しんと静まる空間の中、エリカさんが声を張り上げた。


『やった……やったのよ!! ユアがネルソン帝国のファフニールに勝ったわ!!』


『オオオオオオオオ!!』


『聖女様よ、バンザイ!! バンザイ!!』


『バンザイぃ!!!』


 エリカさんに続いて、ナイトライダーの雄叫びが聞こえてくる。


 ちょっとびっくりしたけど……でも勝ったんだ私……何だが悪い気分じゃないな。


 さっきも言ったけど、フォドゥラを倒せたのもディオネスやエリカさん達がいたから。

 皆が私を信じてくれたからこそ、こうして倒す事が出来たんだ。


『……まさか……私とフォドゥラが負けて……』


 フォドゥラの中から、奏多さんの嘆く声が聞こえてくる。


 つまり彼女は無事という事。

 いやはや、彼女が大事に至らなくてよかったよ……。


『……エミさん、今から魔結晶であなた達を回収します。ここは撤退しかない』


『えっ、ローリンさんは……』


『後で救出をする。今ではどうしようもない』


『……分かりました……』


 回収?

 私がそれに眉をひそめた途端、フォドゥラの全身が輝き始めた。


 また攻撃かと思いきや、その姿が一瞬にして消失。

 ……これは、もしかしてワープ?


『消えた……!? 一体どうやって……』


『恐らくは声を出す魔結晶と別に、転移魔法を付加した魔結晶を搭載していたのでしょう。もちろんそんな魔結晶なんてそうそうある訳ないので、恐らく1から開発したのだと思われます』


 エリカさんの呟きにセルジナさんが答えた。


 元々ネルソン帝国には、別世界の私達を転移させる魔法を持っていた。

 そういう魔結晶を作るのも訳じゃないと思う。


『それよりも……この輩ですね。見捨てられた以上、我々が連行するしかないようで』


『そ、そんな……』


 ローリンさんがセルジナさんに拘束され、さらに彼のワイバーンもナイトライダーの同種の両脚に捕まられていた。

 どちらも意気消沈しているのか、抵抗する素振りすら見せない。


『ユア様、城下町に戻りましょう。ここにはもう用はありません』


「あっはい。行こうディオネス」


 確かにジェラルドさんや奏多さんが逃げてしまった以上、私達もここを出るしかない。

 

 出入り口にはオーガの死体があったので、それをディオネスが持ち上げてどけておく。

 これで全員が通れるようになったと。


「エリカさん」


『ありがとうユア。あとは何事もなければいいんだけど……』


「どうだろうねぇ……もうファフニールが破壊されたし大丈夫だと思う……」







 キィイイイイイイイイイイイン!!! キィイイイイイイイイイインン!!!


 私が最後まで言おうとした時。

 突如として、金切り音のような耳障りな物が響いてきたのだ。


 私を含め全員が驚く中、セルジナさんだけがハッとした様子でローリンさんの懐を漁っていた。

 そして取り出したのは、恐らく魔結晶の一種。


『ここから音が……何ですこれは?』


『そ、それは……ジェラルド殿下と話する為の魔結晶で……何でそんな音が出るのか……』


 どうやら音の発生源は、その魔結晶らしい。

 しかもさっきまで、ジェラルドさんの声を出していたフォドゥラ搭載の魔結晶と同じ物なんだとか。


 その耳障りな音が未だ鳴り止まないせいか、セルジナさんが叩き壊そうと振りかぶった……けど。


『聞こえるか、トラヴィス王国の者どもよ』


「!?」


 その魔結晶から聞こえてきたのは、ジェラルドさんその物。

 今さっきそれで連絡しているって言っていたから、彼の声が聞こえてもおかしくはないけど……。


『まずはフォドゥラを討ち取った事を褒めてやろう。田舎国風情がよく頑張ったといったところか』


『田舎でどうも。それで、わざわざその魔結晶で話すとはどういう了見? あなたの聖女に聞かれたくない事でも?』


 ……胸騒ぎがする。

 エリカさんが問いかけている間にそう感じる中、ジェラルドさんが返事をした。


『今の音は何なのだと気になっているだろう。実はな、これは多種多様の魔物を引き寄せる特殊な金切り音なのだ。例えダンジョンの中であっても広範囲に渡る』


「なっ!?」


『このダンジョンはネルソン帝国とトラヴィス王国の国境沿いだが、トラヴィス城下町から近い距離でもある。この音に引き寄せられた魔物の群れは……果たしてどうなると思うかな?』


 ジェラルドさんの声に笑みが含んでいくのが分かる。


 私はすぐに悟った。

 この音に引き寄せられた魔物が向かう場所は……恐らく人が多いトラヴィス城下町。


 ……ジェラルドさん、どこまでもあなたは……!!


『我々を愚弄した罰だ!! 精々、魔物との戯れを楽しんでくれたまえ!! ハハハハハハ!! アハハハハハハハハ……』


 バリィン!!


 ジェラルドさんの笑い声を途切れさせるように、セルジナさんが魔結晶を壁に叩き付けた。

 散らばっていく破片を見下ろしてから、彼女が私達に向かって叫ぶ。


『城下町に戻りましょう! 魔物が来るのも時間の問題です!!』


『ええ! 急ぎましょうユア!』


「うん!」


 すぐにトラヴィス城下町に向けて、ダンジョンを脱出した。


 阻む魔物などはいないのでスムーズに外に出れたけど、その時にナイトライダーの1人が指差しながら叫びだす。


『だ、団長!! あれを!!』


 指差す方向を見ると、1つの大きな山がある。


 その山肌に土煙が上がっているのが分かり、目を凝らしてみると無数の何かが蠢いているようだった。

 それはまさしく、ゴブリンやブラックドッグ……そして多種多様の魔物の姿だった。

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