第二章:夜間飛行①
フェニーには、普通の人間とは少し違う部分がある。年頃の男の子らしく体毛が目立ち始めているが、フェニーのそれはふんわりとしていて柔らかく、人間というよりも鳥の羽毛に似ている。ド派手な髪色は染めているわけではなく地毛だ。だが何よりも違うところは、見た目では分からない。
どんな傷を負っても、彼の身体はほんの僅かな間に治癒を行う。例えばナイフで刺された傷、槌で殴られた傷、腕が千切れようが目玉をくり抜かれようが、フェニーの身体は一瞬で元通りだ。首が跳べば普通の人間は死んでしまうものだが、彼は死なない。
もちろん痛みはある。一瞬のこととは言え、痛いものは痛い。それはどうしようもない。
「な、んで……ウェンディ……?!」
ヴィラジュから少し離れた森の中、周りを探索したいと言うウェンディに付き合ってフェニーは歩いていた。そのはずだった。左腕に鋭い痛みが走り、青い炎が立ち上った。フェニーの身体が治癒を行う時、その傷口は決まって青い炎に包まれる。
理解の追いつかないままウェンディの方を見れば、彼女は細身のナイフを手にしていた。その刃先にも、薄らと青い炎が見える。フェニーの血液が燃えている。それは熱を持たない、温度のない炎だ。すぐに、ぱちぱちと音を立てて消えた。
「不死鳥の能力は本物のようね」
ウェンディは、跡形もなく傷の消えたフェニーの腕をまじまじと眺めて言うと、ポケットから小さな無線機を取り出した。
「連れ出したわよ」
風が強く吹いて、空が翳る。天を見上げたフェニーの目に、濃いグレーの巨大な装甲が映った。空を飛ぶ大きな機体は、フェニーにも見覚えのある飛行船とは違うようだった。もっと硬くて、頑丈で、重みのあるものに見える。下界を照らす二つのライトが眩しくて、フェニーは思わず目を瞑った。
上空から降ってくる何かの物音、それから足音が聞こえて、フェニーが再び目を開けた時には数人の人影に周りを囲まれていた。全員が黒いローブのような服を着ていて、同じような仮面を被っている。仮面には、大きく紋章のようなものが描かれているが、それが何の組織を表すものなのかはフェニーには分からない。
「ウェンディ……これ、どういうこと」
ウェンディは答えない。黒服がフェニーに近付いて、腕を掴む。
状況は分からないが、フェニーにとって、良くないことが起きていることは確かだ。彼は黒服の手を振り払って抵抗をしようとした。この場から逃げ出すべきだと、頭で考えた。
「……ごめんね」
小さなその声を聴いてしまって、フェニーはその場から動くことができなかった。
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