第2話 アレなエージェントの非日常・完結編
※この作品は本来一話完結の短編連作なのですが、劇場版なので前・後編の二話で完結しています。ご了承ください。
「ナンバー15、指令よ」
「……」
俺が所属するアレな組織では、俺はナンバー15と呼ばれている。本名は秘密だ。
直属の上司は年齢不詳の独身女性で、通称ボス。既婚者やカップルを本気で憎んでいる。美人だが鬼だ。
アレな組織は、一応、国によって運営されているらしい。非公開組織なので、公式には存在しない事になっているが。
「あんたに賞金を懸けている組織が判明したわ。メキョメキョ団よ」
「メキョメキョ団だと……!」
聞いた事もない組織だ。メキョメキョさんが作ったのか?
組織の名称などどうでもいい。敵は潰す。それだけだ。
「応援はなしよ。がんばって」
「了解」
いつもの事だ。応援など当てにしていない。
だが、一人だと不安だ。死ぬかもしれない。カプセル人間を補充しておくか。
情報屋の『ツナおにぎり』によると、メキョメキョ団の本拠地はF県F市西区の郊外にあるらしい。
二五年落ちの中古車で現場へ向かう。俺は未成年だがアレなエージェントなので車の運転ができる。そういうものだ。
敵の本拠地らしいビルを発見。正面入り口のガラスドアをぶち破り、車で突入する。
中古車は爆発、粉々になった。うちのボスの車を借りたのだが、帰りは歩いて帰るしかないか。
「侵入者だ! 殺せ殺せ!」
「!」
敵が出てきた。俺は撃つ。言うまでもなくスーパーブラックホークだ。
44マグナム弾が炸裂し、敵が何人か死んだ。でも何人か生きている。人が多い。
「はあっ!」
仕方ないのでインドの山奥で習得した、波〇拳みたいな技を放つ。敵の何人かに直撃し、バラバラの肉塊に変えて吹き飛ばす。グロい。
敵を倒しながら逃げ回る。それにしても数が多い。五人ぐらいはいるかもしれないと思ったが、もう百人は出てきている。多すぎ。
いくら俺でも一対百以上はキツいと思う。時給七五〇円ではやっていられない。
「アレな組織のアレなエージェントめ! 俺様が相手だ!」
「?」
なんかデカいのがいた。身長二メートル以上、腹回りも同じぐらいありそうな巨漢だ。
「メキョメキョ団四天王の一人、オムライス山本! 我が必殺の奥義、地獄殺人拳を食らえ! アチョー!」
「……」
迷わずマグナム弾を撃ち込む。オムライス山本の眉間とボディに風穴が開き、どす黒い血が噴き出る。
「ひ、卑怯者……!」とか言っていたが知ったこっちゃない。あんなデカいのと素手でやり合うのは自殺行為だ。死ぬのは嫌だ。
しかし、四天王という事は……後三人いるのか?
「おのれ、よくも山本を! 許さんぞ!」
「!」
全身鎧を着込んだのが出てきた。すかさず銃で撃ったが、カーン、と弾かれてしまう。
「我はメキョメキョ団四天王の一人、フルアーマー長澤! 銃など効かぬわ! フハハハ!」
「……」
迷わず手榴弾を投げ付け、フルアーマー長澤を鎧ごと爆破する。
「ひ、卑怯な……!」とか言っていたが知ったこっちゃない。勝てばいいのだ。
さらに奥へと進むと、新たな敵が出てきた。
「メキョメキョ団四天王の一人、セクシー白石! かわいがってあげるわよ、坊や! あはーん!」
「?」
なんかエロエロな女が出てきた。ほぼ全裸に近い下着姿で、鞭を振り回している。
スマホで撮影、SNSで拡散しておく。初めてバズった。
「や、やめなさい、そんなのすぐ削除して! 訴えるわよ!」
「……」
鞭を取り上げ、当て身を食らわせてセクシー白石を倒した。
俺は基本的に女は殺さない。なんかもったいないので。そういう感じだ。
さらに先へ。また新たな敵が出現する。
「メキョメキョ団四天王、最後の一人、トルネード吉田! ここが貴様の墓場だぞう!」
「!?」
半裸のマッチョで、シルクハットを被った、カイゼル髭の中年親父だった。
ギュルギュルと高速で回転しながら、両手に装備した円月刀で斬り付けてくる。
銃を連射したが弾丸を弾かれた。手榴弾を投げたがやはり弾かれた。恐ろしいヤツだ。
「ならば俺も……回転するまで!」
「なにぃいいいいいい!?」
ヤツの動きを真似て高速で回転、駒のような状態になり、突撃する。
両手には日本刀と出刃包丁を握り締めている。俺と吉田は高速で回転しながらぶつかり合い、キンキン、ガンガンと弾いた。
「ありゅー!」
トルネード吉田の首が飛び、俺は勝った。少し危なかった気がする。ふう。
これで四天王は全員倒した。いよいよ大詰めだな。
雑魚敵をマシンガンで皆殺しにしつつ、ビルの最上階へ。
一番奥にあるだだっ広い部屋に入る。そこは敵組織ボスのルームだった。
変な男が出迎える。
「よくぞ来たな、アレな組織のアレなエージェントめ。我々の活動を邪魔する者はみんな殺す。貴様もだ」
「……」
そいつは黒い頭巾を被って素顔を隠していた。
筋肉ムキムキ、ビキニパンツのマッチョだ。明らかに接近戦が得意なタイプだな。
だが、相手に合わせるほど俺はお人好しじゃない。格闘家には銃で対応するのがセオリーだ。
スーパーブラックホークでマグナム弾を浴びせてやろうとした。
その瞬間、ボスが消えた。
「遅い。この程度か?」
「!?」
ヤツは超スピードで動き、俺の背後に回り込んでいた。
慌てて反転して銃を向けたが、そこにヤツはおらず、真横から蹴りを入れられた。
「ぐうっ!」
すごく痛い。あばらが何本か折れたかもしれない。泣きそうだ。
コイツは最強の敵かもしれない。ならば、俺も本気を出そう。
「とう!」
「むっ、なんだ貴様、身体中に巻いていた重りを外して……今までそんな物を身に着けていたのか!?」
「久しぶりに身体が軽くなったかもしれない……そんな気がする」
「ぬうう、おのれ! ハッタリを言うなあ!」
マッチョな筋肉ボスが超高速で殴り掛かってくる。
俺はそれを超高速でかわし、ボスの背後を取った。音速を超える拳を連打、バンバン打ち込む。
「おぐう、ぐふう! や、やめ……!」
「俺を本気にさせた、お前が悪い。この一撃であの世に行け!」
「よ、よせえ!」
「」
格好いい技名を叫ぼうとしたが思い付かなかった。英語よりドイツ語の方がよさげだが、ドイツ語は分からない。
全力で放った拳を敵ボスの顎に叩き込み、打ち上げる。
ボスは血反吐を吐きながらきりもみ状に回転し、天井に激突して血を噴き出し、床に落ちてまた派手に血を噴き、倒れた。血まみれだ。グロいなあ。
ビルを爆破し、俺は帰った。徒歩だ。
戦いは虚しい。これで悪の組織は滅びた。
だが、悪の組織は次々と出現する。今日もまた、オレオレ詐欺やロマンス詐欺、高齢者狙いの強盗などが猛威を振るう。
そいつらを発見次第即座に抹殺する。それがアレなエージェントである俺の使命だ。
それではまた、どこかで会おう。
悪党を見付けたらアレな組織に通報してくれ。
……今日はカツ丼の大盛りで締めよう。そう思う。
曖昧エージェント/劇場版 俺に狙われたら、たぶん助からないかもしれない。かわいそう。 之雪 @koreyuki2300
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