仲良く狩りゲーやってますが別に恋人同士ではありませんよ?
甘味みっけ
第1話 訪れましたフルダイブVR空間、冒険世界
午前三時、ウェーブのかかったシルバーブロンドを後ろで緩くまとめたイケメンではなく……ゴリラを目の前にあたしは途方に暮れた。
まだキャラメイクを初めて僅か二時間とはいえAIのサポートに頼りつつ生成されるプレイヤーキャラクターの姿は全てゴリラだ。
このクソAIそんなにゴリラが好きか?
乙女プラグインいれて出直してきて欲しい。こう乙女ゲーに出てくるような線の細いイケメンをほんのり男臭くしたぐらいがあたしの好みだ。
AI生成された素体をスライドやスカルプトで何とか調整するのだがスライドでの調整程度ではゴリラのままだ。スカルプトはセンスも技術もないのでよくて奇形、最悪人外の化物になってAIによる自動修正を入れざるを得なくなりゴリラに戻る。
仕方ない。休憩に入ろう。
ゲームからログアウトし、やかんを火にかけ、お湯が沸くのを待つ。頭をシャキッとさせるのにローズマリーを入れたチャイを飲みたくはあるが、あれは片付けが少しだけめんどくさいので今は我慢して普通の紅茶にしておく。
ダージリンに少し多めのお砂糖。
ゆっくり飲んで脳を休め、体を温める。
どうにか登校前までにはイイカンジに仕上げて講義が終わったら一緒にログインして相棒をびっくりさせてやるんだ。
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微かな浮遊感。あたしが目を開けるとそこは日本ではない。
底の抜けたような青空の下でヨーロッパを思わせる石とタイルでできた街並み。その建物にはところどころスチームパンクのようなパイプと歯車ついていて、動力は街の奥にある滝で水車を回している。
街中にいる鎧を身に着けた人々はどこからともなく取り出した本を真剣に眺めたり、物珍しそうにしならが街を散策している。
VRゲーム「ハンターズ」
2004年に発売されたとあるハンティングゲームにインスパイヤされたMMORPGである。それはいわゆるフルダイブ型が空想のものではなくなった時からその発売を期待され、ついにこの世に出たのである。
とはいえ、一つ残念な点。
完全なフルダイブ型は開発され実用化もされてはいるのだけど、あくまで医療用。ゲームの場合、現実の五感もある程度残り、仮想の味覚と食事の後の満足感は未実装である。
なので、にゃんこが焼いてくれた山盛りいっぱいのお肉を食べてもジューシーさはないし、塔のようなケーキを食べてもおいしくない。空気の味しかしないのである。
「まあ、確かに残念だよね」
声を掛けられ振り返るとそこには黒髪の美少女がいた。
ショートカットから尻尾のような長い髪を一房だけ生やし、白いレース状のリボンで結んでいる。服は白を基調とした巫女さんっぽいデザイン。赤いミニスカートからはほっそりとした足が伸び、おっぱいはリアルのあたしよりも大きい。
「あー、声に出てた?というかここでも「ミリー」なんだね」
「それはお互い様だ。「レイリー」」
男っぽい美少女はニヤリと笑いながら言う。というか男である。
「ミリー」は大学受験中にできた友人の八雲風乃がVRチャットに使っているアバターだ。そして同じく「レイリー」も私がVRチャットで使っているアバターである。
キャラメイクの仕様が違うため四苦八苦して可能な限り似せたつもりだが、こいつの「ミリー」についてはそのままである。なんかムカついてきた。
ポコ
「わっ、いきなりなにするんだ」
あたしが殴ると軽い効果音が鳴り、ミリーが抗議の声を上げる。
「いや、よくできているなって思ったらムカついてきただけ。
だって、ミリー。1時間前に初めて起動したばかりって言ったじゃん?あたしなんて、1時に起きて7時迄頑張ってこれだよ?おかげで朝食はカロリーメイトだし、メイクもほぼできなくて今日一日恥ずかしかったんだから」
どういうわけか、このゲーム。男女ともに元となるキャラはごつめのものばかりなのだ。頑張ればあれこれ調整して、今のように線の細い感じにもできるのだか難易度が高く、うまく言えないがどこかちぐはぐで不細工な感じになってしまっている。
「ああ、だから今日眠そうにしていたんだね。あくびとかして珍しいなとは思っていたんだけど・・・・」
「今はエナドリで元気いっぱいです」
「美容に悪いんじゃない?」
「余計なお世話・・・・・だ」
あたしは目を閉じ口調を変える。
いけない、いけない。ついつい普段のまましゃべっていた。
ここでは「レイリー」だ。
こんな軽いしゃべり方はレイリーじゃない。
「とりあえず、街を見て回らないか?」
「こほん」とあたしは咳払いをし、あたしは尋ねる。
「ああ。まずはそうしよう」
「ところでその服、似合っているな」
赤と白のみで構成されたシンプルなものなのだけど、それゆえに「ミリー」の愛らしさをよく引き立てている。
「いつもの(ゴスロリ)に似たのがなかったから、たまにはこういうのもいいかなってね」
そう言うとミリーはスカートの裾を掴んで軽く持ち上げてくるっと一回転。
「リアルを知っていると大変痛々しい」
「でも、お好きでしょ?」
だからこそつらい。
そう、あの日、こいつのセンスには共感するものがあってうっかり声をかけてしまったのだ。この男、イケメンの部類だが正直ゴツい。
そうこうしているうちにあたしたちは鍛冶屋の前までやってきた。
サービス開始したばかりのゲームらしく、それなりの人数のプレイヤーが店の前にいる。
ただし、自動的に別チャンネルに振り分けられるため何十メートル以上もの長い列ができているとか動くのにも一苦労とかそのような惨状にはなっていない。
カランカランと金を鳴らしながらドアを開き中に入る。
中には数人のプレイヤーとNPCのお客。奥のカウンターではひげ面で浅黒いスキンヘッドの男が作業をしており、さらにその奥には彼の弟子と思われるNPCたちが金属を熱したり伸ばしたり、また、金属とはちょっと違った材質に見える何かを熱心に研いでいる。
「まずはやっぱり武器だよな」
いろいろ回ってみたくはあるものの、まずは最低限のものは揃えておきたい。どこかでクエストのフラグを踏んだのはいいものの装備がなくて戦えず、クエスト失敗とかはいうのは嫌だ。
あたしは壁に立てかけられた巨大な剣を手に取り構える。
「ふむ――「振り回すんならあっちの部屋を使ってくれ」」
軽く振りかぶろうとしたところで、スキンヘッドの男が声をかけてきた。まあ、確かにゲームとはいえ人のいるところでやるようなことではない。
「ちょっと行ってくる」
あたしはミリーにそう言い、親方が示したドアを開ける。
中に入ると小川がさらさら流れていて、どこからともなく鳥の鳴き声とか聞こえてくる。扉の周囲は木でできた屋根のある廊下ではあるが、その向こうは開けており割と背の高い木々が植えてあったり、高い崖なんかもある。
「Oh、異空間……」
真ん中にあるガラクタの寄せ集めのようなものはドラゴンだろうか?どことなく看板モンスターの一体である赤火竜に似ている気はするが、あまりにも不細工で飛べないだろうなと思った。
「ようこそ。いらっしゃいました。ウォーターディアマンテ随一工房。アイアンフィストの修練場へ。
私、この場を任されておりますバクヤと申します」
広場から一匹のウサギ型獣人が現れ一礼をする。
「こちらではハンター様のランクに応じて工房が用意できる武器のサンプルを自由にお使いできます。また、すでにお求め頂いた武具の鍛練にも是非ご利用ください」
そう言い終わるとピョンっと脇によける。
「ありがとう。まずはこれを使わせてもらうよ」
そういうと私はガラクタドラゴン前に立って改めて剣を構える。
「重いなぁ……」
ここ迄、持ってくる間もその重量を感じていなかったわけではないが、こうして構えてみると思っていた以上に重い。試しにガラクタに一太刀浴びせてみるもののこちらのほうが剣に振り回されてしまう。
「差し出がましいようですがハンター様の体格ですと別の武器のほうが良いかもしれません。
双剣のような軽量な武器か、重量のあるものでもバスタードソードかインパクトハルバード。もしくは回避を行う必要があまりなく、ガードが容易なランスでしょうか」
「うーん、そうなのかぁ……」
言われてみればキャラメイク時にキャラの体格と装備について忠告があった気がする。
要約するとゴツければゴツいほど重いものを装備でき、逆に華奢にすると重量のある武器が扱いづらくなる。
ただ、デメリットばかりというわけでもなく重量制限に引っかからない武器であれば華奢な体格のほうが素早い動きができ、スタミナの回復も早くなるとのことだ。
そうなると操虫棍にするかインパクトハルバードにするかだ。
操虫棍はインスパイヤ元のゲーム同様に虫を操り、エキスを集めて自分を強化したり、虫に指示を出して共にモンスターと戦う武器だ。そしてインパクトハルバードはモンスターに攻撃するたびに徐々に瓶にエネルギーがたまり、それを随時開放することで瓶ごとに設定された特殊効果を発生させたり、操虫棍のように空に飛びあがった時に方向転換などに利用できる。
重量武器の一つであるチャージアックスに似ている部分もあるが変形機構はなく、全ての瓶を一度に開放して大ダメージを与えるとかはできない。代わりにチャージのためのアクションは不要であり、あまり重量もないので華奢なキャラでも比較的扱いやすく、手数重視の立ち回りに適している。
「じゃあ、まずは操虫棍を試させてもらえる?」
あたしがそういうとバクヤは大剣を受け取り、空いている収納棚に立てかけ代わりに一振りの薙刀を渡してくれた。あたしがそれを受け取るとどこからともなく一匹の虫が現れ腕に止まる。
NPCは重量制限を受けないのかなんか不条――虫!
あたしはとっさに悲鳴を上げそうになるが、「レイリー」である以上そうはいかない。
あたしはメニューブックを取り出し、虫に火の玉のスキンをあてる。
あくまでDLCの試着なのでこの場を出てしまえば効果を失うのだが、あとで買えばいいし、これを含めていくつか気になっているのがあったので予算だけは用意してある。
「ふぅ」
人心地がついたところであたしは改めてガラクタドラゴンに向かい武器を構え、エキスのない状態での立ち回りの確認。そして今度は火の玉にエキスを回収させて何度かガラクタを切りつけてみるが悪くない。
では、操虫棍の本領、空中戦だ。
元となったゲームでは跳ばないほうが強いと言われることが多かったらしいのだが、このゲームには当てはまらない。
棒高跳びのような形であたしは宙に舞い上がる。
そして、急降下。
ドラゴンの顔に一撃を加え、ふわりと舞い上がりつつも棍を回しながらドラゴンに襲い掛かり連続攻撃を加える。
そして地上に降りたところでドラゴンの水ブレスをいなして再び舞い上がり、ドラゴンに連続攻撃を加え、最後に溜めた力を一気に開放してドラゴンを地面に縫い留める。
ガシャン。と、大きな音。
ガラクタドラゴンは辛うじて原形をとどめつつもばらばらになり、本当にガラクタとなる。
体験版では使うことはなかったが、意外と思った通りに動くことができる。
大剣やスラッシュアックスなど、重量系の武器を細身の「レイリー」で使えたらギャップがあっていいなとは思っていたのだけど、どうやら無理そうだし、これはこれで楽しい。
「それでは、次はハルバードを頼むよ」
インパクトハルバードを手にし、まずは詳細を見るとどうやら基本となる榴弾型だ。
瓶を開放することでモンスターに肉質無視のダメージを与えることができ、それを頭に当てることでスタン値を蓄積することもできる。
あたしが武器を確認している間にガラクタになったドラゴンは元のガラクタドラゴンにギリギリと音を立てながら徐々に戻っていく。あとでよく見たら細いワイヤーのようなものでパーツとパーツがつながっていて、糸巻で巻き上げることで元の形に戻る仕組みのようだった。
「さて」
あたしは軽くハルバードを振り回して構える。
操虫棍に比べて重量はあるが遠心力を利用すれば扱えないことはないし、その重量感こそがモンスターを狩るには頼もしい。
まずは横凪に斧を振るってドラゴンの頭に一撃を加える。そしてそのまま振り切り、今度は石突で一閃。
「はあぁ!」
気合と共に上段から斧を叩き付け、その勢いを利用して宙を舞う。
ここで操虫棍であれば攻撃だけでなく、印弾を利用して回避や位置調整もできるのだけど、インパクトハルバードには瓶が必要になってくる。だけど、その瓶はまだ一本もたまっていない。
まあ、こんなもんかと思いつつあたしは回転するような動きでハルバードをドラゴンにたたきつけ、地上に降りる。
僅かな硬直時間。
操虫棍にもあるのだけど、ハルバードのほうが若干長い。いくつかこの時の隙を小さくする小技があるのだけど、ハルバードの場合はやはり瓶が必要になってくる。
体験版の武器に比べて瓶の溜まり具合も悪い気がするし、だいぶナーフされちゃっているかな?
あたしは引き続きガラクタドラゴンに攻撃を繰り返し、瓶をためる。
先ほどと同じように飛び上がり、今度は瓶を開放しつつドラゴンに一撃。
「はぁあああああああ!」
ドン
と重い音が鳴り、あたしが思っていた以上のダメージが入り、ドラゴンがバラバラになる。
「うーん。この演出ちょっと邪魔かな?」
大技が入るとドラゴンがバラバラになるように設定されているのだが検証のためにはやっぱり邪魔だ。あたしはバクヤに頼んで演出をオフにしてもらう。
そのあと色々試したところ、瓶は溜まりづらくなったり、地上に降りた際の硬直時間は長くなったものの、瓶の性能は上がっており、例えば硬直を消す時は1本まるまる使う仕様だったのが、1本溜まっていれば半分で済む仕様になっていた。
「うん。ちょっとこれは迷う」
軽やかに戦うならば操虫棍だし、こうガッチリとならばハルバードだ。
もちろん両方使ってもいいのだけど、ある程度ゲームを進めるまではどちらか一本に絞ったほうがいい。
「なあ、ミリーどちらがいいと思う?」
あたしはちょうど修練場に入ってきたミリーに尋ねる。
「いや、好きにしたらいいだろ?」
そっけない返事。いや、まあ、「ですよねー」って、感じではあるのだけど、相棒の意見も聞いておきたい。
「まあ、そうだな。ベータの時とは違ってPKありみたいだし、その辺も考慮して選んだらどうだ?」
ふむ。別にあたしもミリーも他のプレイヤーを襲うつもりはないが降りかかる火の粉を払うのならば別だ。それにPKではなく合意の上でのPVPもあったはずだし、ミリーはそういうの好きだから率先して参加するだろう。
その際一緒に遊べないのは寂しいが――
「ミリーは何にするか決めた?」
「ああ、ボクはこれだな」
そういうと片手剣を取り出し見せる。
「一応、使い勝手を試してから決めるつもりだけどね」
ふむ。使い勝手は重要である。使い勝手で言うならば操虫棍だ。しかし、頼もしさはインパクトハルバードに分がある。
「よし。ハルバードにするか」
そう決めるとあたしはバクヤに頼んで購入の手続きを進める。
操虫棍のほうが早くマスターできるような気がするのだけど、それはなんだかつまらない。また、インパクトハルバードの武骨さが重量武器とまではいかないまでもそれなりにごつい武器を持ちたい乙女心をくすぐったのである。
虫もいないしね。
ミリーのほうを見ると彼もどうやら片手剣にしたようだ。購入手続きを終えたうえで武器に設定された型を織り交ぜつつ、ガラクタドラゴンの破壊にいそしんでいる。
「ミリー。そろそろいかないか?」
練習も大事だとは思うけど、そろそろあたしは狩りに行きたい。少々恥ずかしい言い回しになるが狩猟魂がうずくというやつである。
「ああ、そうだね。ギルドに行けばいいんだっけ?」
「ふっ、俺等の伝説の始まりだぜ」
「……あー、はいはい」
「ノって!」
ノリの悪い相方にあたしは全力で叫ぶのだった。
景気づけだよ?恥ずかしくてもこういうのって大事じゃん?
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初めまして。みっけと言います。まったりレイリーとミリーが「おまえらさっさと付き合え」と言われるよう頑張って書いていこうと思います。
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