7.暴食さん、ブラックバイト先をかき乱してしまう(王さんが悪い)




「まったく、こんなこともできないのか! 言われた通りに、整理しておけといっただろうが!」


 学校が終わると、今日はバイトの日だ。

 私は孤児院出身だけど、高校生からは一人暮らしを始めた。

 その生活費をねん出するためのアルバイトなのである。

 円城先輩のパーティでは役立たずということで、必要経費以外はもらえない。

 そういうわけでカツカツなのである。

 

 私の勤めているのは都内にあるダンジョン素材を扱う商社だ。

 素材の搬入搬出のお手伝いが私の仕事なのだが、しょっちゅう上司である佐木塚(さぎづか)課長に怒られていた。


「で、ですが、どうしてこの素材を二つに分けるのか、理由がわからないんですが。手間も二倍かかりますし……」


「うるさい! 温情で雇ってやってるのに口答えをするな! どうせ大学もいかないくせに!」


 それも理不尽な理由で、である。

 ダンジョンが現れる前までは過半数の日本人が大学に入っていたらしい。

 その時代は子どもの教育にお金をかけられる幸せな時代だったのだ。

 しかし、ダンジョンが現れると同時に大地震が起きたりして、日本の国力は一気に低下した。

 人口もめちゃくちゃ減った。3割ぐらい。

 今ではIQテストで上位に入った人か、お金持ちしか大学に行けない。

 私の成績じゃ難しいだろうね、しょうがないけど。

 

「やり直してこいっ、このブタ女っ! 終わるまで帰るなよ!」


「あぅ」


 課長は私の顔に書類を投げつける。

 あれこれ言われるのは慣れてるけど、体型について暴言を吐かれるのはかなり辛い。

 ちなみに、この課長がなんでそんなに偉そうなのかというと、社長の息子だからなのだ。

 他のスタッフもびくびくしている状態でとてもかわいそう。

 一言で言って、大嫌いである。

 まぁ、細身の女の子が好きらしく、私にはセクハラがないのだけは救いだろうか。


「それにしても、この仕事、わけがわかんないよねぇ」


 それにしても、課長の指示はちょっと変なのである。

 ダンジョンで得られた素材のうち、1割ぐらいを別の部屋にわざわざ置くように指示するのだ。

 何度も繰り返されるこの指示。

 どうしてこんなに面倒なことをするんだろ?


 その部屋は地下の奥にあって、人目にもつきにくい場所にある。

 何かを隠しているのかもしれない…そんな疑念が頭をよぎるが、バイトである私には何も言えない。

 ただ、与えられた仕事をこなすしかないのだ。

 時計はもうバイト終わりの7時を15分も過ぎた。

 本当だったら王さんに料理を教えるはずだったのに。


「な、なんだ君は!?」


「ちょっと、あの子を抑えろ!」


「なんだ、こいつ、強いぞ!?」


 やっと作業を終えたところで、社員の人たちの声が聞こえてくる。

 その方向を見た私は絶句してしまう。


「入谷イリア師父、迎えに来た」


「は?」


 そこには王さんが立っていたからだ。

 いや、ただ立っていただけではない。

 彼女の足元には4人ほどの男性社員たちの姿がある。

 どう見ても、制止するのもお構いなしに乗りこんできた構図だ。

 そりゃあ、社員証もなしに会社に入ったら不審者として扱われるよね。


「なんだ、貴様ぁー!? わが社に何の用事だぁあああ!?」


 王さんに大声を上げて詰め寄るのが、私の上司である佐木塚課長だ。

 普通の女子高生である王さんにあからさまに威圧的な態度。

 うわぁ、最悪である。


「お前に用はない。無能で好色なパワハラ男」


「んな!? んなぁんだぁとぉおおお!? お前、私を何だと心得てるんだ!? 佐木塚商事の社長の息子なんだぞ!? お前なんか社会的に抹殺することだってできるんだ」


 図星をつかれた課長は真っ赤な顔をして怒り狂う。

 女子高生相手に何言ってるんだと思うけど、これはまずい。

 社会的に抹殺できるか知らないけど、この人には権力ってものがあるのだ。


「そうか。私はTDMCの会長の孫だ。これが祖父、これが父、これが私」


 王さんはそういうと、スマホの画面を見せる。

 そこには眼鏡をかけた品のよさそうなおじいさんとおじさん、それから無表情な王さんの姿があった。


「は? TDMC? 台湾ダンジョンマニュファクチャリングカンパニーの? うそだ、でまかせを言うんじゃない。あはは、馬鹿が、そんな手に乗るか」


 佐木塚課長は食い気味にスマホをつかみ取ると、そのディスプレイを食い入るように見つめる

 それから、王さんをしっかりと見つめる。

 おそらくはTDMCの会社の社長と、王さんを見比べているのだろう。


「うそ……じゃない? う、う、う、うそ……だろ」


 その場でしりもちをつく。

 TDMCは私でさえも知っている、台湾を代表するダンジョン素材加工の会社だ。

 日本とは違い、台湾には大きなダンジョン災害がなかったはず。

 ひょっとしたら日本の財閥グループよりも大きいかもしれない。


「嘘じゃない。で、私に何の用? 私はお前に用はない」


 王さんは相変わらずの冷めた目つきで佐木塚課長を眺める。

 彼女の仕草はさっきと同じなのだが、今度は意味合いが全く違う。

 場合によっては、抹殺されるのは佐木塚課長になりそうなのだから。


「……おい、お前! 何を騒いでるんだ! このお方になんて口の利き方をするんだ!?」


「ひぃいい、だって課長が!?」


 課長はどうやら社員さんの一人を悪者に仕立てることにしたらしい。

 わぁわぁと暴言を吐くと、この場からいなくなってしまう。

 すっきりしたけど、王さん、お嬢様だったんすか……。


「師父。行こう。料理を習う」


「は、はい」


 王さんは私の腕をぐいと引っ張る。

 佐木塚課長のことなど何事にも思っていない様子である。

 バイト時間も終わっていることだし、私もその場を立ち去るのだった。


PS


 この後、王さんに料理教室をしたのだが、食材をジップロックに投げ込むという調理法(?)をしないことだけに集中。

 とりあえず、日本料理ということで、おにぎりを一緒に作ったのだった。

 おにぎり美味しいよね。


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