第26話
すると、俺のストレスを感じ取ったのか、奏美が顔を覗き込んできた。
「どうしたの守人? その武器、あんまりな感じなの?」
「んん、悪くはないんだけどな。なぁ、銃剣付小銃ってないのか?」
俺が言葉を濁すと奏美は「え?」と戸惑った。
「ごめん守人。ジュウケンツキショウジュウ、て、何?」
「まじかぁ……」
どうやら、千年の間に廃れたらしい。
仕方ないので、ライフルの銃口を指で差しながら説明する。
「銃口の下にナイフがついているライフルだよ」
「それがいいの?」
「ああ。何せ、千年前の兵士の基本装備だからな」
「それぐらいなら、装備化に相談すれば作ってくれるんじゃないかな?」
「お、本当か? この時代すごいな」
「あまり大掛かりなのは無理だけどね。みんなも、必要なら装備の微調整とかしてもらっているよ。早速申請しておくね」
そう言って、奏美はMR画面を開いて、操作し始めた。
「あ、守人」
「もう返事来たのか?」
「ううん、そうじゃなくて、教官から、専用機の適性検査の準備が整ったって」
奏美の笑顔は、期待に満ちていた。
◆
俺と奏美が呼び出されたラボには、数多くのブレインメイルが並んでいた。
壁際のラックに固定された機体は、どれも量産型のアオツバメとはデザインが大きく異なり、一目で専用機とわかった。
「中佐殿、ご足労頂き感謝致します。では、早速こちらへどうぞ」
階級差があるので仕方ないとはいえ、まだ、教官職の龍崎少佐に敬語を使われるのは慣れなかった。
ラボには何人かの研究者やエンジニアの姿があった。
みんな、遠慮なく俺のことをじろじろ見てくるけど、それにはもう慣れた。
見られると言うなら、教室のほうが、よっぽど見られていたし、昨夜のパジャマパーティーに比べれば、なんてことはない。
「授業でも軽く説明しましたが、改めて説明させて頂きます。日本が世界中から宣戦布告される原因となった希少金属、アダマントを加工して作られたコアには、脳波とシンクロすることで物理法則を超えた、超自然現象を起こす力があります。コアを搭載したブレイルは専用機と呼ばれ、一騎当千の戦力となります。しかし、その一方で、コアに適合しうる人材は限られており、誰でも専用機に乗れるというわけではありません」
説明しながら、龍崎教官は、黒い機体の前で立ち止まった。
「重力操作能力を持つ専用機、コクヨウです。昨年、パイロットが退役してから空席になっています。まずはこちらを試して下さい」
「わかった」
頷いてから、俺はコクヨウの脚部パーツに脚を、腕部パーツに腕を通して、背面パーツに背中を着けた。
龍崎教官がMR画面を操作すると、背面パーツが俺の背中にロックされて、パイロットスーツと一体化した。
コクヨウが起動して、俺の視界に機体情報が流れ込んできた。
一見すると順調に見えるも、龍崎教官の表情は曇ってしまう。
「失敗です。アビリティ表示がエラーになっています。中佐殿は、コクヨウのコアとは適合しなかったようです」
「だ、だいじょうぶだよ守人。専用機は、まだまだたくさんあるんだから」
「ありがとうな奏美。けど、過ぎたフォローは相手を追い詰めるから注意な」
「あぅ……」
コクヨウから降りた俺は、申し訳なさそうな顔をする奏美の肩を叩いて元気づけた。
「でも、相手を気遣える子は好きだぞ」
奏美の表情が、パッと明るくなった。
相変わらず素直で可愛い。
「じゃあ教官、次々試そうか」
「はい。ご安心を。専用機はあと、十九機あります。ではこちらへ」
龍崎教官の案内に従って、俺と奏美は次の機体に向かった。
◆
端的に言えば、俺の専用機適性は、ほぼ絶望的だった。
このラボが保有する専用機をほぼすべて試して、収穫はゼロ。
龍崎教官と奏美の表情も、どんよりと暗い。
「教官、もしも守人に適合する専用機が無くても、試合の時だけ借りることってできますか? アビリティがなくても、基本性能は高いし、せめてマシン性能は互角にしたいんです」
「うむ、私も同じことを考えていたところだ」
ネガティブな相談をする二人に、俺は軽くツッコんだ。
「いやいや、まだ一機残っているんだろ? そういう話はそれが駄目だった時にしようぜ」
俺は軽く呼びかけるも、龍崎教官の眉間に刻まれた縦皺は、むしろ深さを増した。
「いえ、それが最後の一機は欠陥機との噂がありまして」
「欠陥機って、どんな風にだ?」
歯切れの悪い声で言う龍崎教官に、俺は尋ね返した。
「今まで一万人以上の兵士が試しましたが、適合できた者がいないのです」
奏美のくちびるから「そんな」と絶望的な声が漏れた。
「それ故に、コアにどのようなアビリティが秘められているかすらわからない状況なのです。そのため専用武装すら決まっていません。仮に中佐殿が適合したとしても、今からではアビリティに合わせた専用武装の開発が間に合いません」
「でも、もうそれしかないんだろ? 試すだけならタダだ。やるだけやろうぜ」
十九機目の機体から降りて、俺は、その欠陥機の場所へ案内するよう、龍崎教官に促した。
龍崎教官は、気乗りしない様子で、俺らをラボの一番の奥へと案内した。
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