第20話
ラウンジの光景に、俺は不覚にもコンマ一秒度肝を抜かれた。
『守人くん♪ いらっしゃぁぁーーい♪』
一言で言うなら、セクシーナイトウェア姿の美少女が、数十人も密集していた。
壁際に並ぶソファはいっぱいで、ソファのうしろに立って床に座って、反対側の出入り口にまではみだして、肌色満載の女子たちで溢れかえっていた。
個人的にはかなり嬉しい展開だけど、戦場生活のせいか、用心深さが先立った。
ハニートラップを警戒して、心身が臨戦態勢に入りながら一歩下がった。
そして状況を正確に把握すべく、情報戦を制するために、俺は女子たちの格好をつぶさに観察した。
これは、兵士にとっては当然の嗜みである。
決して下心はない。決して。
女子たちのナイトウェアは、下着と見間違わんばかりのデザインだった。
みんな、胸の谷間を見せているし、上半身は肩や鎖骨を露出した肩紐タイプばかりだ。
布が極薄で露出度も高いので、ボディラインが丸わかりだし、スカートやパンツの丈は短くて、長い脚は太ももからつま先まで艶めかしく露出している。
布が透けてブラやショーツが見えていたり、もろにブラとショーツスタイルの女子も一部いた。流石に、そうした女子は布地面積の多いデザインで、下着と言うよりも水着のような印象を受けた。
でも、全員が驚くほどセクシーな格好をしているのは事実だった。
おかげで、顔が熱くてしょうがない。
「いやぁ~ん、守人くんてば見過ぎぃ♪」
「顔真っ赤ぁ♪」
「ドキドキしちゃう? ねぇドキドキしちゃう?」
「男子の性欲が女子の数十倍って話、本当なんだぁ」
みんな、ウキウキと楽しそうにはしゃぎながら、好奇心で瞳を輝かせ、俺の一挙手一投足を見逃すまいと、視線が前のめりだった。
予期せぬハーレム展開に、俺は興奮で熱した脳みそをフル回転させた。
――これは、どういう状況なんだ?
この時代の性道徳は知らないけど、これは普通のことなのか?
それとも、みんなで地球唯一の男である俺に取り入るために、集団ハニートラップでもしかけようっていうのか? 逃げるべきなのか?
けど、もしもこれが普通のことなら、みんなの厚意を踏みにじることになってしまう。
今すぐ奏美の部屋に帰りたい気分を押さえつつ、警戒心をキープしたまま、冗談めかして尋ねた。
「あー、みんな凄い格好だな。これはハニートラップか何かかな?」
「もお! ハニートラップだなんて嬉しいこと言っちゃってぇ♪」
女子たちは、小さくも黄色い悲鳴を漏らしながら喜んだ。
「でもそれ、俺の時代だと下着姿なんだけど?」
「今の時代でも下着だよ」
「ならなんで恥ずかしい格好しているんだよ?」
強気に指摘すると、一人の女子が言った。
「夜の室内なら普通だよ。だってこれ下着って言ってもナイトウェアだし」
「大浴場で裸になったり海で水着になるのと同じだよぉ」
「た、だ、し、今日あたしたちが着ているのは守人くんように新調した勝負ナイトウェアだけどね。おかげであたしも眼福かな」
その言葉を引き金に、一瞬で場の空気が変わった。
女子たちの視線が俺から外れて、みんな、自分以外の女子の体に注目して頬を染めた。
百合の花が咲き乱れている。
ようは、女だけの世界になって同性愛が当然になったから、夜は互いにセクシーな格好で需要を満たし合っているのか。
俺が納得すると、うしろから、小さな力が押してくる。
さっきの、猫耳童顔女子が、背中に抱き着いていた。
「守人くんの背中おっきぃ~」
彼女がリラックスした声を出すと、ラウンジ入り口の女子たちが、次々俺の腕や肩をつかんできた。
「ほらほら、いつまでも立ってないで」
「おひとり様ごあんなーい♪」
下手に抵抗すると、みんなを傷つけそうで、俺はなすがままに、女子の密集地帯へと飲み込まれていった。
途端に、女の子たちの体温で、体感温度が二、三度上がった。
ソファの中央に無理やり座らされると、上下前後左右全てから女の子たちが体を寄せてきて、俺の心臓はバクバクだった。
――すごい!
ラウンジの入り口で、一歩引いたところから眺めるのとは、訳が違う。
正直、美女の下着姿、であれば、エロ動画で何度も見たことがあるし、なんなら無修正の裸だって見たことはある。
ネット社会において、年齢制限などあってないようなものだ。
けど、今のこの状況は、ソレに勝るとも劣らない興奮があった。
VRでも再現は不可能な、この奥行き感と生々しい現実感。
立体音響を凌駕する、部屋中に溢れ、鼓膜の奥をくすぐる甘く黄色い声。
女の子たちの体温と体の弾力はシャツ越しに俺の体内へ染みわたり、心臓が跳ねる。
何ものにもたとえられない芳しい匂いは、きっと、女の子たち自身の香りだろう。
男を惹きつける、女性フェロモンだ。
だんだん頭がしびれてきて、この性的幸福感をより多く甘受することしか考えられなくなってくる。
さっきの女子は、この状況を眼福と言ったけど、それは俺のセリフだ。
俺だって、可愛い女の子の体には興味があるし、気持ちよいことはしたい。
でも同時に、気恥ずかしさもある。
なのに、この状況は、俺の理性や気恥ずかしさを麻痺させるほどに、魅力的だった。
俺から離れた場所に座る女の子たちが、色めき立った。
「見て見てぇ、守人くんてば顔真っ赤で目ぇギンギン♪」
「あたしたちの体、そんなに刺激的で魅力的?」
「恥ずかしがっちゃって可愛い♪」
「でも欲望に負けてガン見しているのが嬉しいよねぇ♪」
「えへへへ、自信ついちゃう♪」
俺に触れている女子たちが、激しく興奮した。
「きゃー、守人くんの体、たくましぃ♪」
「男の子の体ってすごーい♪」
「それに、なんだかすごく、いい匂いがする」
「これ、香水じゃないよね。それになんだか、変な気分になってきちゃった」
「ずぅっと守人くんにぎゅってしていたぁい♪」
甘えた声を出しながら、女の子たちは俺に夢中だった。
みんな、人生初の男性フェロモンに、マタタビを与えられた猫のようにメロメロだった。
でも、それは俺も同じだ。
数十人分のフェロモンのプールに沈められて、溺れないように平静を保とうとするも、空しい努力だった。
アイドル並みの美少女たちが、黄色い声を上げながら俺を求めてくる。
薄手で半透明のリボンやフリル、レースで飾り付けた、肉感的な体が揺れ、俺の体に押し付けられる。
もう、何もかもを投げ捨てて、このまま快楽に身を任せたい気分だった。
向こうから俺を求めているんだから、別にいいじゃないか。
そんな、都合のいい解釈が頭を巡った。
その時、助け船どころか、救いの船が現れた。
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