第27話 キャンプと猛獣と試作の剣

遠征から一週間後、オレたちは三日の休暇をもらった。


ユーゴの短剣の性能を確かめるには持ってこいのタイミングだったため、初日から早速出かけることになったのだ。

キャンプ道具と防具を持って王都の大門にある馬車の停留所に集まった。

人数はいつものメンバーにテレーズを加えた9人、中々大所帯だ。

ちなみに武器は騎士団や文官の許可がないと持ち出せない。

弓に関しても矢がなければ何も出来ないのだが、氷魔法使いは矢を瞬時に生成出来てしまうためダメだと講義で習った。

ユーゴの短剣は戦闘専用ではないからセーフだ。

魔法に関しても、研究所が魔法の発動を制限する道具を開発中らしい。



しばらくすると定期便の馬車がやってきた。かなりの人数を収容できる大きさだ。

前払いの料金をオレがまとめて支払い、皆乗り込んでいく。

顔見知りのおじさんも馬車に乗ってきて、和気藹々と幸先のいい朝だ。


向かう先はトロモ村。

王都から数時間の、テトの街よりも距離が近い村だ。

東側の穀倉地帯とは違って、森や小高い山の多い西側にある。

村と言いながらもその規模は大きく、近くにある小山に自生する山菜が有名な村だ。

今回はその小山の麓に入りキャンプをする予定だ。

魔物もおらず、深すぎる森もなく、今のオレ達には丁度いいレベルだ。


やがて馬車が走り出し、大門を抜けて振動が石畳から土のものへと変わっていく。

天気はあいにく曇り。曇天というほど雲は重くないが、日光を薄く遮断する雲が惜しい。

まあそんなことを思っているのはオレだけで、仲間たちはとても楽しそうだ。


「――そしたらルーカスの方に矢が逸れて、その時の顔ったら・・・」


シエラがオレをネタにしている!


「あれは怖すぎるだろ、誰だってあんな顔になるぞ」


「そういえば僕も、この前ヴィンセントの傷を治した時・・・」


「ロイ、その話はだめだ!!」


「面白そう。続き、聞きたい」


訓練中の面白話に花が咲き、時間を忘れて笑い合った。



雲越しに、日がてっぺんを過ぎたのが見えた頃、トロモ村らしき集落が見えてきた。

山菜採りをしにトロモ村に行ったことのあるライラが声を上げ、御者のおじさんが答えた。


「あ!あれがトロモ村ですよ!」


「その通り。そろそろ到着するよ~」


村に到着し、【トロモ村へようこそ】と書かれた大きな半円のゲートの前で停車した馬車から、お礼を言って降りた。

村の周囲には高い金属の柵が設置されていて、ゲートの脇には駐屯兵が2人警備をしている。

村内には石畳が敷かれていて、経済的な潤いを感じさせるが、逆に建物はいくつかの二階建ての宿屋が目立つほど平屋が大半だ。その少しちぐはぐな風景に新鮮さを感じた。

屋台はあまりなく、雑貨屋や山歩き用の装備品店、客が採ってきた山菜で料理を作ってくれる店なんかが構えられている。

エレナがゲートの下にある木版に張られた地図を確認する。


「入山の受付は・・・あそこね」


受付の場所を把握したエレナにエスコートされ、皆で歩いて向かう。

道中にある色んな店を流し見しながら歩く。王都と違ってあまり呼び込みとか宣伝とかはしていない。

受付の建物に到着すると、エレナが細い丸太で出来た取っ手を引く。


「こんにちはー」


「いらっしゃいませ!」


オレたちと同じくらいの年齢の女の子がカウンターに立っていて、元気よく挨拶をしてくれる。


「九人で、キャンプ希望です」


「かしこまりました!キャンプですと・・・」


受付の子が説明してくれる。キャンプと山菜採り等の山歩きは入口が違うらしい。

キャンプの方は文字通りサバイバルなので事故や怪我は自己責任と言われた。一般の人は入山許可をもらうことも難しいが、王国騎士団訓練生の自発的な訓練ということで許可が下りた。

早速入山許可証を受け取り、受付を出てキャンプエリアの入口に向かう。


村のあちこちにある案内版を見ながら歩き村の出口兼山の入り口の半円の小さいゲートに到着。

目の前からいきなり森が始まることから、山菜採りで自活をしていた集落が発展した村なんだろうなと勝手に推測をした。

許可証を警備の駐屯兵に見せていよいよ入山だ。


小さい山ではあるが、思っていたより急斜面が多い。幸い何日も雨は降っていないのでぬかるみに足を取られることもなく順調に進み、キャンプに丁度いいほぼ平らな場所を見つけた。


「ここが丁度良さそうだから今日から2泊、色々と試そう思うけどいいかな」


ユーゴの言葉に皆うなずく。ここが野営地になった。


「よし、じゃあ早速焚き木を集めるチームとテント設営のチームに分かれるか!」


そういうことでオレはユーゴとともに焚き木集めのチームになった。


オレは周囲の落ちている枝を集めユーゴは邪魔な藪や木の枝を例の短剣で切り開いていく。

ユーゴからマチェットを借りて使ってみると、剣先に重心があるおかげで然程力を込めなくても少々太めの枝すらバッサバッサと切り落とせた。

小一時間焚き木を集め、野営地に戻るとのテントが出来上がっていた。

持ってきた硬い布のシートをサークル状に敷いて中央にトーマスが堀を作って焚火の準備だ。

今回は魔法を使わずに火魔法で熱した短剣で枝に火をつける。

太めの枝をユーゴが短剣で削っていくと、削りカスが火種になって燃えていく。これは便利だ。


夕暮れ時、あたりはすっかり暗くなり焚火の灯りだけが皆の顔を照らし、中々リラックスできる雰囲気じゃないか。もちろん周囲への魔力探知も忘れない。

焚火を使い、暖を取りながら料理をする。今回は簡易飯ではなく持ってきた食材で鍋を作る。


まず持ってきた瓶から油を鍋に引いて、氷包丁で一口大に切った鶏肉を炒めていく。胡椒を振りかけて皮がこんがりときつね色になったらオレとシエラで水を鍋に生成していく。そのあとに氷包丁で切ったキャベツ、大根などの野菜を突っ込んで塩と刻んだ生姜を入れる。ぐつぐつ煮立ったら、豆腐を入れて吹きこぼれないよう氷包丁を鍋に突っ込んで少しづつ冷ましながら煮ていく。

最後に木蓋をして焚火から外して余熱で火を通してキャンプ鍋の完成だ。


木の椀に鍋を分けてみんなで合掌


「「いただきます!!」」


「ん~おいしい!!キャンプで温かいご飯なんて最高ね!!」


「うん、美味しい」


「おいしいですぅ~!」


「寒空の下で鍋は格別ね。あ、猫舌の人氷が欲しかったら言ってね」


「悪い!氷もらってもいいか?」


「トーマス、お前猫舌だったのか」


うん、鶏肉の旨味と生姜の風味がよく合う。塩加減もちょうどいい。

柔らかくなった野菜たちが食感を楽しませてくれる。

ハフハフと口に含みながら上を見ると、木々の大きな隙間から鮮やかな星空が見えた。

夕食を終え、体を拭き歯を磨いた後に焚火を消してテントに入る。ロイとトーマスと同じテントだ。

他は、ヴィンセントとユーゴ、エレナとテレーズ、ライラとシエラだ。


「明日は何するかぁ」


トーマスが独り言ちると、ユーゴが答える。


「出来たら動物を狩って切れ味を試したいな」


「この森は山菜採りができるくらい安全だから、戦うとしたらイノシシくらいじゃないか?」


「まあ、今のオレ達にはイノシシが丁度いいよ」


「それもそうだな!」


「じゃあ、明日に備えて寝るとしよう」


「そうだね」


「「「おやすみ」」」



翌朝、自然と目が覚めて一番最初にテントから出る。

すると外にはエレナとテレーズがすでに火を焚いていた。


「おはよう」


「「おはよう」」


「ねえ、起きたてで悪いんだけどお水をもらえないかしら?」


「ああ、わかった」


三人のコップの中に、氷にならないよう温度を調節して水を生成する。

少ししてから他の皆も起きてきた。一人ひとりのコップに水を生成して渡す。

朝の身支度を整え、皆で狩猟をする旨を話し合い防具を身に着けていく。

訓練の成果もあって、戦闘に関する話の時はオレも含め目つきや真剣さが変わる。


そんな時、タイミングがいいのか悪いのか叫び声が聞こえた。


「クマだー!!」


クマ・・・?クマの出没情報や注意喚起は受付の建物のどこにもなかったぞ?


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