第4話 第二試験
朝早く、試験会場に起床のラッパの音が響く。
眠い目をこすりながらテントから出ると、受験者たちものそのそとテントから出てくる。
朝の身支度を手早く済ませ、配給された朝飯にありつく。サンドイッチとゆで卵だ。配ってくれた試験官のお姉さんが美人で朝から得した気分になった。サンドイッチの方は城で働く料理人が作ってくれているのだろうか、めちゃくちゃ旨い。今日は朝からいい気分だ。
朝飯タイムが終わり、少しゆるい雰囲気の中受験者たちが整列し、第二試験、魔法適正の試練が開始された。試験官が説明を始める。
「これより、魔力の感知能力、魔力操作能力及び適性魔法属性検査、そして属性の適性の高さを三段階に分けて確認する。この試験で高い結果を出せた者は、今後の鍛錬においても有利となるだろう。」
少しずつ受験者たちに緊張感が戻り、皆静かに聞き入った。オレもまた、心を落ち着けるようにゆっくり深呼吸する。
魔力感知の試練。
試験官が微弱な魔力を周囲に発し、徐々に強くしていく。これをどれだけ早い段階で知覚できたかで感知能力の高さを計るようだ。魔力を感知する感覚は独特なもので魔法を扱えない者でも強い魔力は感知できるらしい。
試験官が杖を持って壇上に立ち杖をこちらに向けた。受験者たちは各々、感覚を研ぎ澄まし、目を閉じて集中する。
最初はごくごく僅かで、通常の人には知覚できないほどのものだそうだが、早速手を挙げたものがいたらしい。名前を呼ばれていた。
オレは意識を集中させるが、まだ何も感じられない。とその時、柔らかい波にゆられるような感覚が一瞬全身に走り、鳩尾を中心に体が温まる気配を感じた。
……これか?
心の中で呟き、試験官を見上げたその瞬間、試験官の眼がルーカスに向けられた。どうやら感知できたのは間違いないようだ。別の試験官がオレの名前を呼び上げ、ほかにも感知した者たちと前に出て第一段階を通過していく。通過した順番を見るにオレの感知能力は平均だったらしい。トーマスはオレよりやや遅かった。
魔力操作と属性の検査。
次に試験官の指示で、受験者たちは玉を持つように掌を向かい合わせ、無造作に魔力を練り上げるよう求められる。
先ほどの温かい感覚を向かい合わせた中心に集約させるイメージだそうだ。
魔力感知の通過者の順に右から横に並び、一人ずつ試験官が見ていく。
オレの番が来た。掌を向かい合わせにし、目を閉じて集中する。温かい感・覚・を、両手の間に集めようとするが、まったくわからない。
さっきの波はどこへいったんだ!あったかくなれ!
「焦るな。自然に流れるように力を感じ取れ。最初から手に集めようとするな。腹の中心から、少しずつ、温かい感覚を掌に流すように・・・そうだ、そのまま両手からゆっくりと・・・」
一度落ち着いて試験官の言うとおりにすると、今度はひんやりと冷たい感覚が少しずつ掌の間に現れ始めた。オレは思わず息を止めたが、その感覚が消えないように意識を集中させる。
「ほう・・・氷か。」
試験官が低く呟き、何かの魔法をかけると、オレの手元に一瞬冷たい霧が湧き上がる。どうやらオレの魔力の属性は氷だということが確認されたようだ。
しかし何故だろうか。氷に関わる何かをしたこともないし氷魔法を使いたい!なんて願ったこともなかった。ここにきて適性というのはどういう経緯で決まるのか気になってきた。
「あの・・・適性というのはどのようにして決まるのでしょうか?オレの実家はパン屋で、氷属性に縁があるとは思えないのですが・・・」
「そうか、パン屋か。であれば、遺伝の可能性が一番高いが、他にも日常的に体を冷やすとかそういう意識を持っていることで氷属性に適性が傾いていく場合があるな。ちなみに適性自体は15歳までには、ほぼ決まっている。」
・・・心当たりがあった。
パンを焼くための高さ2メートル程の三階立ての薪窯、その二階の薪を燃やす部屋に火を起こして、温度を上げていくために薪をくべていく。
そして頃合いの温度に達するように一番上の焼き部屋を、焼き部屋の中心にある【グラ】と呼ばれる火を吹くモノを棒で回転させて焼き部屋の温度が均一になるように調整していくのだ。
この工程の中で焼けるほど熱い瞬間がいくつもあるのだ。
薪のはじける音やこの後パンを焼いていくというワクワク感は好きだったが。あの熱さはどうにも慣れなくて嫌だった。せめて顔だけでも冷やしたいと常々思っていたが、もしかしたらこの経験と願望が適性に影響を与えていたのかもしれない。
「どうやら心当たりがあったようだな。」
「はい、教えていただきありがとうございました。」
礼を言うと試験官は微笑みながら頷き、隣の適性検査に移っていった。
トーマスの場合は予想通り、土属性の魔力を確認され、ホッとした表情を浮かべていた。
他の受験者たちも、火や風、雷や土、水などに振り分けられていた。正確には分からないが火属性が一番振り分けられた人数が多いように感じた。さっきの試験官の話と合わせるとこの国が大陸北部で寒冷な地域だから自然と火に対する好感が生まれるんだろう。
氷属性は何人か居たが多くはなかった。雷と水に至っては40人ほどの中で一人ずつしかいなかった。
雷の適性を確認されたのは気の強そうな鮮やかな紫髪のミディアムボブの女だ。雷なんてどんな人生を送れば適性が出るんだって話だ。きっと遺伝だ。あいつの先祖はすごい魔法使いだったに違いない。
水の適性者はしっかり者っぽい栗色短髪の小柄な男だ。水魔法は一般的には治癒魔法と呼ばれ、適性の高い者が極めると欠損した四肢を再生させられるらしい。そうでなくとも適性者はとても貴重で、重宝されるそうだ。奴の先祖もきっとすごい奴だ。
属性の適性の高さの試験。
いよいよ最後の試験だ。受験者の魔力を使い、同じ属性適性を持つ試験官が魔法を発動することで、その属性魔法に対する親和性=適性の高さを判断する。オレは自分の順番を待ち、心の準備をする。左の方で何かブツブツ呟いている声が聞こえたのでチラと見ると、トーマスだった。やはり馴染みのない魔法というものに緊張するんだろう。
「次、ルーカス・フール!」
名前を呼ばれたオレは前に進み出た。氷属性の試験官は、今朝サンドイッチを配ってくれたお姉さんだった。今日はいい日だ。
試験官がオレの前に立ち、静に話しかける。
「では、貴方の魔力を貸していただきますね。」
オレが両掌を試験官の方に向けて差し出し、集中を深め温かい感覚を生み出し維持する。試験官も同じように左掌をオレに向ける。そして右掌を、広く確保されている前方へ向ける。
すると、温かい感覚が腹から掌へ勝手に流れていくのが分かった。掌から掌へと吸い出される。そして魔力が試験官の左手から腕を伝い、右手へ流れる。
そして試験官が右手の指をパチンと鳴らした瞬間、魔力がフッと霧散した。彼女の頭でよく見えないが、右手を下から上に振った瞬間。
地面が崩れたかのような轟音と共に、柱と見紛うような巨大な氷の刃が前方十数メートルに渡って無数に突き出した。
オレも彼女も、他の試験官や受験者達も、あまりの衝撃に少しの間、只々氷の柱を見つめていた。
「あ、あれ?魔力の調整を間違えたかな、、、。」
試験官が少し焦りながらつぶやく。
その様子を見るに、この規模の魔法は想定外みたいだ。
結局原因は分からなかったが、無事に最高評価を受け、オレはほっとした気持ちでその場を後にする。他の受験者たちもまた、それぞれの適性を測られ、次々と試験を終えていった。
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