第37話 伝説のガチャポン荒らしに神引きしてほしい!
《エピローグ》
天羽がちっとも来店しなくなった。
平時ならば何も気にしないものの、また出演依頼を頼まなければならない。
子供の相手をしなくていい嬉しさ九割、用件を完了できないモヤモヤ一割。
……あれ、別に問題ないのでは?
十文字が動画を出す度、美少女を出せ、JSキボンヌとコメント殺到らしい。オモチャレビュー止めて、女子小学生を紹介しろと一部紳士たちからの圧がすごいとか。
まあ、名ばかり店長には関係ない話さ。停滞、宙ぶらりん。実に結構じゃないの。
「日曜は忙しかった。だから、月曜日は休む必要がある。当たり前だよなあ?」
話題のガチャショップを訪れるが、くだんの美少女と会えず落胆や文句をこぼす連中の対応……控えめに言って、すこぶるしんどかった。カスハラ手当、10万よこせ。
俺は、何もしないをするぜッ。今日は絶対、八時間しか働かねえぞ!
――ブラック労働とワンオペの使徒ですが、音無景弘はまだ正常です。
ソファに寝そべるや、ソシャゲぽちぽち。マンガを読みつつ、ポテチぽりぽり。アニメを流しながら、ゲーム実況を視聴。ベイブレードを回し、コーヒーミルも回していく。
やることが! やることが多いっ! おひとり様は忙しくて参っちゃうぜ。
「だが、そこがいい」
あとは、5000兆円あれば完璧な人生なのにね。低所得労働者、やっぱつれぇーわ。
せめて夢の中だけは幸せになりたいと、舟をこぎ始めたタイミング。
「怠惰の極みね。おじさん、ちょっと見ないうちに醜い姿に変わり果てたじゃない」
「ふぁっ!?」
容赦なき不意打ちで意表を突かれ、タイタニック改めソファから転覆した。
「それ、転落人生の比喩かしら? 滑稽な姿が様になってるわよ」
「問題は起こさないから、これ以上落ちねーだろ。単純に下の方にいるだけだ」
天羽は、相変わらず生意気を張り付けたような表情である。
「学校どうした、学校は? ぼっちを理由にサボるの、もう通用しねーぞ」
「今日は開校記念日でしょ。あんた、ロリコンのくせに把握してなかったの?」
「近隣小学校の予定など知らん。興味ないし」
ディベロッパーが売上予測に利用できるデータだ。お知らせに載ってた気がする。
そもそも、クソガキがどこ小なのか存じ上げないのだが。
「で、どしたん? せっかくの休日だ。お友達と遊びに行ったらどうだ?」
せっかくの休日は、家で孤独を享受すべきでは? 音無は訝しんだ。
しかし、ぼっちを脱したいと願った少女である。俺とは真逆の考えだろう。
「行くけど、この後映画見に。調べてみたら子供っぽい作品で、ほんと趣味じゃないわね。雪月花と佳奈、美和子がどうしても布教するってしつこいから、仕方なくね」
はあ~とため息をついた、生意気ロリ。
ふわふわのベレット帽に、リボンのベルトが付いたコートと幾重にも膨らんだスカート。ロングブーツで美脚効果。さしづめ、天羽きららフルカスタム。
「面倒だよな、そんなオシャレキメちゃってさ。昨夜は目が冴えて、寝られなかったか?」
「っ! 別に……そんなことあるわけない。勘違いしないでちょうだい。女子小学生の身体をジロジロ眺めるあたりがヘンタイたる所以かしら?」
「じゃあ、ヘンタイの詰所に入り浸るな。疾く待ち合わせ場所へ向かえ」
俺がシッシと追い払えば、天羽は眉根を徐々に寄せていき。
「用があるって言うから、わざわざ来てあげたんじゃない。あたしの配慮よ、感涙に咽びなさい」
「用件あります。え、何で知ってんの? 会ったの久しぶりじゃん」
「結崎お姉さんから雪月花。そこからあたしに伝わったの」
頭を働かせろとご立腹な女子小学生。
知らない間に伝言ゲームに参加させられていた。怖いねー。
俺は立ち上がり、ガキンチョへお座りいただいた。
ちょうど焙煎豆を砕いていたところさん。浅煎りコーヒーどうぞ。
「あたしの嗜好は紅茶でしょ。まったく、砂糖とミルク付けてちょうだい」
オメーもう来ないと思って、ティーパック使い切ったぞ。
「天羽が動画に出演した結果、想像以上に反響あってな。弊社では、お前の話題性を利用したいと考えておる」
「あたしにガチャガチャを宣伝させたいわけ? コーヒーブレイクが盛り上がらない話ね」
「興味ないと思った! 伝説のガチャポン荒らしはすでに死んだ!」
学校の人気者。クラスの輪に入るの目的だった。それは叶い、青春を謳歌している。
子供のささやかな願いを邪魔するな。ついでに、俺のささやかなソロも邪魔しないで。
「オッケー。上司に交渉難航中って誤魔化しとくわ。ギャラやら稼働条件、契約内容がナントカーって」
はい、断られました。この件、おしまい。ふー、スッキリした。
最後にクソガキを丁重に見送って、めでたしめでたしとしゃれ込もう。
「早合点しないで。あたし、やらないとは言っていないもの」
「え? 何だって?」
「ボケに加えて耳まで老化したの、おじさん?」
「おひとり様は、物音一つ感知しちゃう聴力だよ」
自分に対してヒソヒソ話されてるとか、気になっちゃうのが学生ぼっちあるある。
「もちろん、条件はあるわ」
「如何に?」
地位、名誉、金! 目下、この世の全てを手に入れたクソガキだぞ?
今更、他に求めるものなど皆無のはず――
「あんた」
なぜか、指を差された。犯人は、俺?
「あたしは優秀で可愛いけど忙しいじゃない?」
「ムカつくけど、そうみたい。ゲンコツで勘弁してやる」
「だから、また家来になりなさい」
俺が拳に熱い吐息を吹きかければ、天羽は優雅に足を組んだ。
「雪月花はマネージャーを自称するけど、仲間だから気を遣う。でも、おじさんはどれだけ足蹴にしても良心がまるで痛まない。才能ね、誇ってちょうだい」
「いや、俺は優秀なお前の手足として働くなんて役不足。足手まといは何もしないのが一番の手助けさ」
もちろん、俺は国語の偏差値48なので役不足と力不足を勘違いしちゃう。
「あ、これから店長会だ! ちょっと行ってくる。出ないなら、カギ閉めてくれっ」
子供の相手は疲れるのだ。まだ残業した方がマシ。嘘だ、サビ残は許さないからな。
俺がほんとに会議室へ行く準備を始めると。
「――1500円」
「ひょ?」
「時給、1500円。報酬はまた、ちゃんと払うわ。いつも趣味と嘯き無駄遣いするだらしないおじさん、今月も生活費が厳しいんじゃないかしら?」
生意気の権化が、人生チョロすぎお子様舐めプ顔を披露していく。
いつもの仏頂面を置き去りに、小学生に相応しく憎たらしい笑みだった。
「このクソガキャァーッ! 大人を舐めやがってぇぇーーっっ! ゆ、許さん!」
「家来のバイト、するの? しないの?」
「お願いしまぁーす!」
音無景弘、深々と頭を下げたのでございました。
来月いっぴ、サブスクとか電子マネーの支払いでカツカツなんや。
お賃金はプライドに勝る! 一人暮らし、普遍の真理である。
「じゃあ、また来るから。あたしの顔に泥を塗らないよう、品行方正な手下として活躍ちょうだい」
天羽は目を細め、頭を横に振った。セルフ否定やめろ。
待ち合わせの時間らしく、さっさと休憩室から退出するのであった。
一人取り残された、俺。
この展開、前にもあったような……
「時給は1600円だ! 即戦力、やろ?」
悲しいかな、女子小学生の手下は未経験にあらず。二度目だ。
シークレットレアが欲しかっただけなのに、振り返ると遠くまで来たものだ。
おひとり様は徐にフロアのガチャマシンへ手を伸ばし――ガラガラポン、と。
筐体から現れるは、青色のカプセル。
残念、またダブった。
せめてまた、伝説のガチャポン荒らしに神引きしてもらいたい!
当てたカプセルトイを眺めながら、やっはり俺はガチャポンが好きだと独り言ちるのであった。
<完>
シークレットレアが欲しいガチャおじさんは、伝説のガチャポン荒らしな女子小学生に神引きしてほしい! 金魚鉢 @kingyobachi
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