第32話 取れ高と神引きは紙一重

 手に汗握る白熱したバトル?

 ないよ、そんなもん。

 幸運に愛された駆け引き?

 ないよ、そんなもん。


「うぉぉおおおっっ! この引きに、我がマナを全て注ぐっ!」


 ――ガラガラポン、と。

 筐体のハンドルを回して現れるは、青のカプセル。


「何、だと……!? 拙者の引きが弱すぎるって意味なりや?」


 オモチャレビュー系ユーチューバーが絶句していた。リアクション慣れしてるなあ。この辺をアップで画面煽りさせたいのかしら?

 店内全てのガチャマシンを補充した後、シークレットレアの早引きを競う。


 配信者VSお子様・どっちが持ってる対決。

 ……どう考えても、天羽が勝つやろと思った俺。

 しかし、視聴者は実力の神引きなんて知らないわけで。


「あたしの番ね。一発で決めてあげるわ」


 天羽がどのガチャマシンを回すか、悩むような仕草。

 これは企画であり、編集された映像をお届けするのでリアクション大きめ。台本を嫌そうに受け取っていたが、演者の役割は不満げに理解したご様子。


 スノードーム、ランプパズル、クリスタルギャラリー、シャドーアート、アクリルスタンド、ソフビ、ミニチュア、コスメ、キャラグッズ。


「ほぅ、そのクリスタルギャラリーに目を付けるとは慧眼だな。当たりには、人工ダイヤやクオーツが使われているぞ。さりとて、子供の目には余る輝きだろうよ」


 商品紹介ターンを挟む。その都度、十文字が早口でまくし立てた。得意分野なんで。


 本当はどれ一つ興味がないのに、吟味する幼嬢の横顔は主演女優賞。っぱ、モデルと子役やりなさい。近所のおじさんが、事務所に履歴書勝手に送るパティーン。即通報。

 後方腕クロス慢心面をガン無視するや、品定めを続けた女子小学生。


「……ビビッときたわ。あたしはこれにする」


 指さしたのは、ゴスロリメイドのソフビシリーズ。


「フッ、ゴシックメイデンを所望とはいい趣味だ。貴公、いや同志よ」

「やめて」


 本気の拒絶、やめたげて。オタクくん、美少女フィギュアが好きなだけ。

 天羽が、貯金箱感覚で五百円を筐体の口へ押し込んだ。ワクワクドキドキな感情はなく、それが当前の結果のごとく代わりに吐き出されたのは金色のカプセル。


「これ、当たりでしょ。はい、あたしの勝ち」


 フンと嘆息したガキンチョ、ここにあり。


「ば、バカなぁぁあああーーっっ!? 小生のシナリオにこのような展開など断じてッ」


 台本だと、お互い一回目は外れる予定だった。まあ、相手は伝説のガチャポン荒らし。素人の脚本通り動かせるはずもなく……


「ま、まかさ! そなたこそ! あらゆるカプセルトイのシークレットレアを収めた伝説のガチャガチャハンターその人なるぞ!?」


 へたり込んだ十文字。オーバーリアクションながら、テロップで使いたいネーミングの説明も欠かさない。手慣れた投稿者である。


「そんなダサい名前を自称したことないけれど、だったら何かしら?」

「笑止っ! 拙者とて、全国津々浦々児童若輩の期待を背負っておる。10万の軍勢こそ、我が矜持! 我が誉れ! いざ、推して参るッ」


 十文字クロスのオモチャレビューチャンネルは、登録者ファーストです。


「勝手に盛り上がってるけど、一回勝負でしょこれ。あなたに勝てば、好きな物プレゼントしてくれるんでしょ? 特に欲しいものはないわ。けどそうね……このチャンネルを頂こうかしら?」

「如何に?」

「あたしも好きなのよ、プレゼント。オタクの人、これが一番効くんじゃない?」


 ニチャアとほくそ笑んだ、生意気ロリ。

 人の不幸は蜜の味。昭和時代の人かよ。


「クックック……ならば仕方があるまいて。泣きの一回を切らせてもらうか!」

「態度」

「も、もう一度。勝負、させてください」

「ん~?」


 シンプルにクソガキだった。これは演技じゃありません。素です。


「拙者にチャンスを! 頭が高いと嘯くならば、我が本気刮目せよ!」


 初手、土下座。それはもう立派な平伏っぷりでありました。

 十文字クロス。否。本名、黒須充治。深々と頭を垂れたのでございます。


「いいわ。リスナーのために奮いなさい。そっちの方が盛り上がるわ」


 偉そうな女子小学生が髪を優雅に払った。


「汚名挽回! 名誉返上の時、来たれり! それがしに活路あらんことを」


 お決まりの間違いを披露して、ガチな表情を覗かせた十文字。

 売場を一周するや、はたして彼が選んだガチャマシンとは。


「……正気? それ、出ないわよ」


 なんと、先ほど天羽が神引きしたゴスロリメイドのソフビシリーズだった。


「ゴシックメイデンこそ、我が原点。オリジンと刹那の対話に興じよう」


 十文字は無駄にイケメンボイスを響かせ、天命を祈りたもうた。


「喝采せよ、これぞ我が秘技! しゃぁぁああいんぐぅぅ、ですてぃにぃいいいい、どろぉぉおおおおおーーっ!」


 五百円硬貨に裂ぱくの気合を乗せ、運命の扉をこじ開けていく。

 極限まで延長された数秒間に熱を感じた。人の情熱が起こす奇跡たれ。


「フッ……なかなかどうして面白い」


 ――緑色のカプセル。

 残念、ハズレ。

 ……うん、知ってた。シークレットは一個じゃないが、流石に連チャンは出ない。


「クッ、殺せ……っ! 生き恥を晒す趣味など断じてあらず」


 学ランの不審者が膝から崩れ落ちている。

 女騎士じゃないので、どうぞお帰りください。


「これ以上、汚せる面構えじゃないでしょ。おじさんの仲間だし」


 ついでにディスるのやめろ。


「そういえば、運も実力のうちって言葉があるじゃない? あたしは好きじゃないけど、それがどういう意味か見せてあげる」


 天羽はため息交じりに、対戦相手と同じ筐体に近づいていった。


「え、引き当てるのか!?」


 ↑あ、俺の声入っちゃった。編集で消しておきます。

 面倒な美少女と目が合った。素人かよ、と批判的だった。素人ですよ。


「オタクの人が引いた後、ビビッときたの。無駄に有り余る迷惑極まりない強い意志が確率を変動させたのかしら? ふん、まさかね」


 オカルトだわと首を横に振るも、天羽の手が真っ直ぐハンドルまで伸びて。

 ――ガラガラポン、と。

 あぁ、本当に末恐ろしい才能である。本人が全く興味なくて宝の持ち腐れ。

才能のマッチングアプリをぜひ開発してもらいたい。それくれよお、全部ぅ!


「ダブっちゃったし、あなたに贈りましょう。ふーん、よく見れば可愛いじゃない?」


 金色のカプセルをパカッと開き、精緻な造形のドールを眺めていた挑戦者。


「神引きの瞬間に立ち会えるとは、まことに幸運なリスナーどもよ。この威光に恐れおののくならば、高評価・チャンネル登録するがいいぞ。ハッハッハ、愉快痛快なり!」


 なぜか、コテンパンにされた十文字が偉そうに仕切っていた。

 まあ、動画が盛り上がればそれでヨシってことか。

 取れ高バッチシ。面倒だけど、編集は俺の仕事である。

 もちろん、報酬は貰うからな。一時間当たり、2000円頂く所存。


 後の、神回である。

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