【12】「神格魔法」
聖女ドドゴミンの手記には、彼女が半生を費やした
神格魔法に関する研究がごっそりと残されていた。
それは、神が神をぶっ殺す為に考え出した2つの魔法。
唯一神アロンパンの『ゼネオアブニアル』
虚 神ゲルドパンの『ゼネオゲゲブ』
その使い方を知る為の研究成果、
それに到るまでの過程には彼女の執念が宿っている。
彼女は魔法の構造、回路の構築などの基本的な理論を、
角度を変え、何百、何千、何万と繰り返し、
その度、成功と失敗を繰り返し、
ゆっくり
「なるほど!!サッパリわからんな!!」
聖女の体に与えられた、聡明な頭脳を持ってしても、
ドドゴミンの研究成果を理解することは難しかった。
まずは、それの解析に時間を費やした。
マルケリオンに、事情を話すと
奴の自室を研究スペースとして提供してくれた。
代償に、なんかヒラヒラの際どい衣装を強要されたが。
背に腹は変えられねぇから、要求を飲んだけど、
日に日に、奴に良いように扱われている気がして全く不愉快だ。
だけど、神格魔法を獲得するには、
現代で最強の魔法使い、大賢者マルケリオンの助力は必要不可欠だ。
マルケリオン曰く、神格魔法とは魔位25示という
人が使う事を想定していない魔法なので、
その構造を理解する事自体が非常に難しいらしい。
魔位1〜5示の通常の魔法は一つの回路が、一つの構造、階層で成立する。
魔位6〜10示となってくると、複数の回路が、複数の構造、複数の階層で成立するようになる。
魔位10示以上になると、難易度が高くなり、回路、構造同士の平面的な干渉と、階層を跨ぐ接続が現れ、
魔位20示以上に至っては、回路、構造の成立に、立体的な干渉と、媒体が求められ階層を移動する接続が必要となる。
そして、
秒単位で変質接続する回路が250通り、
回路の変質により、変形する構造が1982個
積層され、可動する回路、構造を立体的に成立させる仕組みが256個、
上下左右に展開され、常時入れ替わる階層を、狂い無く機能させる接続が3689通り。
それらに供給する魔力が揃って、ようやく実現する魔法となる。
解読を進め、その研究結果にたどり着いた時、俺は驚いた。
ドドゴミンは、既に神格魔法のプロセスを完成させていたんだ。
驚いたのも束の間、魔位25示とは、まさに人知を超えた魔法と痛感した。
神格魔法を構築する為には、そのプロセスを理解する事が必須だと聞いて
俺は、気が遠くなり、正直、決意が揺らいだ。
その度に、あの夜に見た
トラウマが俺の決心を折れないように立ち上がらせた。
「やるべき時、やるべき事をしよう」
聖女ドドゴミンが、神格魔法の構造を割り出していたにも関わらず
生涯、その魔法を完成させる事が出来なかった理由。
問題は、魔法を成立させる為に必要な魔力がない事だ。
神格魔法を成立させる為には、神の持つ無尽蔵な魔力が必要、
聖女ドドゴミンはそれを代用する方法を見つける事が出来なかった。
この問題は、
高魔位の魔法となると、魔力が不足する事は珍しくない。
その為に、魔石が重宝されるんだ。
魔石は、蓄えた魔力を還元する事で魔法回路に供給できる。
この世界では一般常識で、魔動車や、魔動列車もそうやって動かしている。
元々魔石商人だった俺の得意分野だ。
そのスペシャリストから言わせて貰えば、
一言できっぱりと言える答えがある。
「そんな魔石は存在しない」
ドドゴミンの手記で求められている
神格魔法を成立させる条件を満たす魔石なんて存在しない。
ただ魔力の出力が必要ってだけなら話は簡単なんだ。
魔石の量を増やせば良い。
それでも天文学的な量の魔石が必要となるが、
不可能じゃない。
問題は、その質だ。
表現が難しいが、求められるのは生物のような魔力。
カロリーの高い食い物に貪欲に食らつき、
時に活発に動き、時に深い眠りにつく、
好奇心により道を選び、過ちで経験を積み学習する。
そういう生物的な反応をする魔力を内包した魔石が、
神格魔法の発動には必要なんだ。
そんなものあるとすれば……それはもう魔石じゃない。
もっと生物に近いエネルギー体、生きた魔力だ。
もしも、魔力を主食にしている生き物が居るとすれば、
そいつの餌は、そういう性質を持っているかもな。
「待てよ……そういえば…まだ俺の知らない魔石がひとつだけあるな…
もしかして……ウドドの列車は……」
「やぁ…図書館で勉強とは、熱心だね。
ご機嫌はいかがかな?」
後ろから声をかけられ、俺は情報の海から浮上した。
背後を確認すると、マルケリオンの野郎が、にやけ顔で立っている。
「さっきまで普通だったが…今は気分わりーぜ。
当然の様に、人の胸を揉むんじゃねぇーよ」
「ははは。男同士なんだから恥ずかしがる事ないだろう?」
「恥ずかしいんじゃねぇ、気持ち悪りぃんだよ」
図書館で声を張り上げる訳にはいかない。
俺は周囲を確認しながら、出口まで移動する。
「まぁまぁ。機嫌を直して。そうだ!
君に似合いそうなドレスを見つけたんだ
プレゼントするよ」
「お前…それ、ただの嫌がらせだろうが」
「そう怒らないでほしい。可愛い顔が台無しだよ?」
図書館を出て、人気のない通路まで来たので、遠慮なしに声を張り上げる。
「うるせぇ!金玉潰すぞ!!用があるならさっさと言え!!!」
「うむ。その綺麗な足で睾丸を
「きめぇ〜!!」
————————————————————————————————————
セクハラ甚だしいマルケリオンに連れられて、
俺は王城の中層に設けられた庭園を歩かされた。
色とりどりの花が、わんさか咲いている。
貴族趣味の嫌味な大庭園だな。
正直、こういう贅沢には反吐が出ると思っている質なんだが、
実際に、この目で見たら印象は変わる。
悪くはないな。
マルケリオンが、俺の視界に入る様に大きな動作で指を差した。
「ん?」
その先を見る。
花々が織り成すビビットカラーに囲まれた、
桃色のドレスの少女が見えた。
少女は、腕を振りながら健気に駆け寄ってくる。
「聖女様!!こんにちは!!」
あの日、ウドドで助けた貴族の少女だった。
「…ぁ…ぇっと…ご……ごきげんよう」
なんと言えば良いのか迷って、
ようやく女言葉を繰り出した俺。
プフッ!と、横で口元を押さえて吹き出すマルケリオン。
俺は野郎の顔を、穴を開ける勢いで睨めつけてから
ゆっくりと少女に近づく。
「聖女様!!お会いできて光栄です。
清く
「無理に難しい言葉を使わなくて大丈夫…話しやすい言葉でいいから」
「わぁ!ありがとう!!優しいね!!聖女さま!!」
少女が礼節ある言葉遣いを意識して、
しどろもどろになっている姿が、妹と重なる。
情愛が溢れ出し、心からこの命が救えて良かったと思えた。
「さぁ、お嬢さん。
この聖女さまに、あの時の話をしてあげてくれないかい?」
「はい!わたしたちを助けてくれた、おじさんの話ですね!!」
「…………」
少女は、にっこりと口を緩ませて、瞳を爛々と光らせた。
その話ができる事に喜びを感じている様だ。
「本当に怖かったの。
お父さんもお母さんも死んじゃうって思って。
そんな時におじさんが来てくれた!」
そんな、目ぇ輝かせて言うなよ、気恥ずかしい。
「おじさんね!怖い怖いって!臆病なくせにね!
汗ポタポタしながら笑ってたの!!
すごいんだよ!偉いんだよ!!
かっこ良かったんだよ!!!」
…あん時は…運動不足を痛感したよなぁ……
「みんな言ってた、乗ってた人みんな!
あのおじさんが来てくれなきゃ助からなかったって!
みんな言ってたんだよ!!」
……………
「そう…か。そうなんだね。
それは、良かったね」
少し、喉が詰まるな……
なんだろうな……
「でもね。おじさん、帰ってこなかったんだ。
みんな、もう死んじゃったって、そう言ったけど」
もういい。
「わたしは違うと思う!
おじさんはね!また困ってる人を助けに行ったんだよ!
今でもきっと、だれかの為に頑張ってるんだよ!!!」
もう、勘弁してくれ。
胸がいっぱいなんだ。
これ以上注がないでくれ。
溢れちまう。
「きっと、怖い怖いって言いながら
いっぱい我慢して、人助けしてるよ!!
ねぇ聖女さま!!きっと聖女さまが困ったら
きっとおじさんが助けてくれるよ!!」
ああ……がんばりたい。
心の底から、そう思う。
そんで救ってやりたい。
そのチンケなおっさんと、本物の聖女の魂を。
「そうだなぁ……それなら、俺は……
おじさんの方を助けてあげようかな」
「はは!聖女さましゃべりかた、へ〜ん!!
でもそれいいね!!おじさんにも味方がいるもん!」
「ああ…きっと、助けるさ。
聖女とおじさん、きっと両方
……いや、もっと…大勢の……」
「……聖女さま?…どうして悲しいの?
おめめ真っ赤だよ?」
「…ありがとうな」
「え?」
「生きてて、ありがとうな」
そっと抱きしめた少女は温かかった。
いつか、どこかで失った温もりだった。
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