【10】「答え合わせ」
ミミナミが「少し周りを
森の奥へと行ってしまったので、
俺は頭を悩ませながら小屋へと戻った。
俺には、魔勇者ヨールーの事が、少し分かる。
ヨールーは、まさに神体に近い強さ持っている。
神様が転生したのだから、強いのは当然だけど、
更にヨールーは、【勇者の因子】を持っている。
その影響力は、災害クラスだと言える。過言なく。
しかし解せない事がある。
そのヒーリアを
そいつの印象が、どうにもヨールと重なるのだ。
あの理不尽さに迫る様な、そういう系統の強さだ。
俺の中に混じっている
薄い【勇者の因子】が、
そのアンデット野郎を脅威だと警戒しているんだ。
「……アキヒロ…」
「ん?ああ、おはよう。ヒーリア。
起きてたんだな」
不意に、ヒーリアに呼ばれ、彼女に視線を向ける。
ヒーリアは、薄いブランケットで体を包んで、
口元を隠したまま、こちらをチラチラと見ている。
ここ数日、ヒーリアを見て暮らしたんだ、
彼女のアピールは、だいたいわかる。
あれは、何か言いずらい事を言おうとしている時の仕草だ。
「……外の…ミミナミと…その……見ていたんだが…
あれは…何を話していたんだ?……随分と…
……距離が近かったじゃないか」
ドキっとした。
ヒーリアは少し不機嫌みたいだ。
そんな彼女は初めて見た。
「ミミナミと…?」
ご機嫌不調の原因を探る。
口ぶりから察するに、例のアンデット野郎について、
2人で話していた所を目撃した様だ。
……それで不機嫌になるって事は、
自分が負けた事を、根掘り葉掘り聞かれるのが嫌なのかな?
魔女って自称するくらいだし、それなりのプライドがあると……
そういう事なのか?
「あ〜……えっと……ははは!!
いやいや!そんな気にする事ないよ!!
ちょっとした世間話……とか、そんな感じ!!」
「………世間話?」
「そう!!だいたいそんな感じ!!」
ヒーリアの目が、表情が、見る見るうちに変わる。
目の端がクッと細くなり、唇が尖る。
「フンッ!!そうかい!!そういう事を言うんだね!君は!!
そうやって!!知らん振りするんだな!!知らんぷり!ぷりぷりなんだなッ!!」
「知らんぷり……ぷりぷり?」
捨て
下唇を鳥のクチバシみたいにした。
なんだ……なんで…こんなに拗ねているんだ?
いや………独特な拗ね方するんだな…ヒーリアは……
自分の敗北エピソードが、そんなに恥ずかしいのか?
「えっと……なんと言ったら良いんだろうか……
その、仕方がない。そう思うしかないよ」
くそ!人生経験が浅すぎて
全然良い言葉が出てこない!!
「仕方が…ない……だとぉ」
あ。
これ。
ダメなやつだ。
「何が仕方がないものか!!それならあれか!?
君は誰にでも軽い気持ちで乳房を触ったり!臀部を撫でたり!
するんだなぁ!!
誰にでもチューしようと……するんだなぁ!!
あっ……あっ…あっ、あんなに!優しく抱きしめたり!!
するんだなぁ〜〜ッ!!!」
「えっ…えっ…えっ…なに…なに言って……」
「君は誰にでも!!男性器を大きくするんだなーっ!!」
「わわわ!!!わーーっ!!!おっきい声で何てこと言うんだ!!
大きい声で大きくしたとか言うなやぁッ!!!」
「うるさい!うるさい!!酷いんだからな!!
もう!ほんとに!!酷いんだからなぁ〜!!!
もう大きくしても面倒なんて見てやるもんか!!うぅ〜っ!!」
「いやっ!!いやいや!!!面倒は見てもらってないだろ!!」
なんでヒーリアがこんな子供みたいに喚いているのかわからない。
あれか……自分にかかった呪いが解けないと知って…自暴自棄になっているのか?
不安……なのか?……不安……
彼女も、不安なのか?俺と同じ様に?
俺はなんで不安だったんだろう?
ヒーリアはなんで不安なんだろうか?
不安って……なんだ…?
ふと、あの日、俺の部屋にやってきた
マコトの事を思い出した。
『なぁ…アキヒロはさぁ……平気なの?』
あの時は、格好つけて。
すごい自分を見せつけようとして。
良い加減な言葉で逃げてしまったけれど、
マコトはきっと何かが不安だったんだ。
そして、その不安と面と向かっていた。
不安……
この世界に来て……不安……
マコトは、俺のステータスが全部ゼロだった事を、心配していたな。
……それは…彼も同じく……それが不安だったから?
でも、あいつのステータスはゼロじゃなかった。
なら…どうして……
……比べた?
もっとすごい誰かと比べたのか?
すごい奴……あの聖女ナオか…
確かに、ぶっちぎりで凄いステータスだった。
それで……比べて……
………つまり…………
自信がなかった?
自信か……そうか……自信だ。
この不安の正体は、
自分を信じる心だ。
俺もヒーリアも自分を信じられないから不安なんだ。
かたや、
かたや、触れるだけで人を殺してしまい、誰とも深く関われない女。
自分を信じて、自分なら大丈夫と
どうしても思えない。
そんな俺達なんだ。
「そうか……それが…不安なんだな……」
「……不安?……何が?……」
「ヒーリア……」
「なんだ………」
「俺はっ!!」
「ヒーリア様ぁッ!!」
その時、小屋の扉が開け放たれた。
現れたのはミミナミだ。
おい!!今いい所だったろうが!!!
いっつもオレの成長の邪魔するなぁ!!
おめぇはよぉおッ!!!
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
だが、様子がおかしい。
血相を変えたミミナミが、
いつもにも増して大きな声で叫んだ。
「ヒーリア様ッ!!!逃げてくださいッ!!!」
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