第37話
矢野と絵里香はこの日も飲んでいた。
「いきなり大河の子役に抜擢されたの?
凄い!」
絵里香は目を丸くしている。
「劇団にオーディションの案内が来てさ、受けたら受かった。それが俺のデビュー」
矢野はグラスを傾けながら言った。
「結構評判良くてさ。直ぐに次の仕事が来たりしてさ。俺って結構イケるんじゃないかなんて思った時期もあったけど…… 」
絵里香は黙って話を聞いている。
「気が付いたら脇役ばかりでさ、決して主役にはなれなかった。割とコンスタントに仕事は来てたんだぜ。17歳の時にまた大河で主人公の息子役を貰ってさ。俺、その時結構焦ってい
て……
そうしたら江見さんがそのままでいい。そのままでお前は十分光っているって言ってくれた」
「江見さんってあの大俳優の?」
「そう、俺なんか顔も上げられない方だよ。その人がちゃんと、俺の演技を見ていてくれたんだ」
「嬉しかったね…… 」
「江見さんが俺に言ってくれたんだ。
いいか一色。ドラマを支えているのは主役じゃない。それを支える脇役なんだってな。お前はそれを立派に果たしている。だから自信を持てってな」
絵里香は矢野を見つめている。
「お前は最高の脇役を目指せって。それから気持ちが楽になった。映画でもドラマでもチームだろう?俺は最高のメンバーになろうと思
った」
「悔しくはないの?矢野ちゃんより若くて。演技も下手な人がどんどん主役とかになってるのに」
「悔しくはないよ。俺は最高の脇役を演じて、自分の納得のいく演技をやりたいだけだから」
絵里香には矢野がカッコ良く見えた。
少なくても人気だけ高くてチャラチャラしている主役よりも遥かに。
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