第56話

今日は家庭科部の日だったので、心結が家に帰った時には瑤が料理をしていた。

「ただいま。直ぐに手伝うから」

心結は部屋で着替えを済ませると、トレーナーにGパン姿で黒いエプロンを着けて台所に出て来た。

「うわー!かぼちゃの煮物美味しそう」

「じゃあ、心結ちゃんはカレイの煮付けを頼もうかな」

「うん、分かった」

今日は大家である母親は残業だ。

瑤は1日置きに週3回ファミレスでバイトをしている。

バイトが無い日はこうして心結と料理を作る。

鍋に酒、みりん、砂糖、醤油、水を入れて沸かし始めた。

小松菜はさっと湯通しして食べやすい大きさに切った。

カレイを煮る。

最後に小松菜を入れて少し煮る。

これがさくら荘の定番だ。

「心結ちゃんは手早いね」

「瑤ちゃんに言われると何か嬉しいね。料理人の卵だしね」

「心結ちゃんは、もう将来の夢とか決めてるの?」

瑤が言うと心結は照れたように笑った。

「何?」

瑤も釣られて笑う。

「私、料理人になりたいの。それでいつか自分の店を持ちたい。このさくら荘が父さんと母さんの夢。私は私でちゃんと夢を持ちたい」

「そっかあ!心結ちゃんも同じ夢を持ってたんだな」

「うん、そうだね」

「俺は洋風料理のレストランを開くのが夢。心結ちゃんはどんな店にしたいの?」

「みんながあったかくなれる店がいいな。家庭料理のお店とか」

「心結ちゃん、お母さんの思いを引き継いでいるよ。だってさくら荘のお母さんの味がそうだもんなあ」

「ありがとう。瑤ちゃん」

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