第55話

長谷部はなけなしの勇気を総動員して辻本佳奈をデートに誘った。

返事は……OKだった。


「女の子はスィーツは外せないから、美味しい喫茶店とレストラン、後は映画も最初なんだからラブストーリーとか。後は彼女と話すんだ。趣味の事でも何でも……最初のデートでお前が緊張して喋らなかったから上手く行かなかったんだろう?だから今度は」

泉野が熱心にアドバイスする。

「彼女の話を熱心に聞く事も大事だよ」

瑤もそう言って力づける。

「大丈夫。今度は絶対に上手く行く」

暖希が長谷部の肩に手を乗せた。

「みんないい子だよ」

大家が居間からそっと台所を覗いて言った。

心結は部屋で勉強中だ。


長谷部と佳奈の2度目のデートは次の日曜日だった。

心結は奈緒と買い物しながら、暖希はCMの撮影の合間に、泉野は小説を書きながら、瑤はバイトしながら心の中でデートの成功を祈った。


「映画でも見る?あの……今話題の映画」

「ああ、朝にまた咲くですか?私、見たかったんです」

佳奈は楽しそうに笑った。

映画を観た後は、美味しいケーキのある喫茶店で映画の感想を言い合った。

「私、ミルフィーユ大好きなんです」

佳奈はまた笑顔になる。

その度に長谷部は動悸が激しくなった。


その日の夕食に長谷部の姿はなかった。

佳奈と食事をして帰ると電話があったからである。

「真ちゃん、帰って来ないんじゃないのか?」

暖希が野菜の煮物を食べながら言った。

「いや……いきなりそこまでの度胸はないだろう」

泉野が返事をする。


長谷部が戻って来たのは午後10時前だった。

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