第52話

長谷部には好きな人がいた。

1年後輩で彼女が入社した時からずっと見ていた。

長谷部は彼女の指導係だった。

勇気を出して一度だけデートに誘った。

彼女はデートに応じてくれた。

だが途中から彼女は黙りこくってしまい、楽しいものにはならなかった。

結局夜の食事の後、彼女を送る事になった。

でもその後も諦める事が出来ない。

泉野からは根暗オーラが漂っているといつも言われるが、女の子は苦手だ。

佳奈を除いて。


「長谷部さんとデートなんてボランティアでも出来ない!」

同じ庶務課の女子達が休憩時間に噂話をしている。

「でも長谷部さんって佳奈に気があるんじゃない?」

「えー!あり得ない。あれはない。根暗だし、喋るのもボソボソ言ってよく分かんないし。関わりたくないって感じ?」

その女子グループの中に佳奈がいた。

長谷部はお茶を取りに行ったのだが、そのまま自分の席に戻ってしまった。

「どうぞ」

長谷部が仕事に取り掛かった時、机の上に湯呑みが置かれた。

顔を上げると佳奈が立っていた。

「あ、ありがとう。辻本さん」

「昼休みなのに熱心ですね」

佳奈はそう言って笑顔を見せた。


「ちょっと佳奈!何で長谷部にお茶なんか淹れるのよ!」

「さっき給湯室を覗いたけど、私達がいたから諦めたみたいで」

「そんなの関係ないよ」

「もしその気になられたらどうするの?」

女子社員達はヒソヒソ話をしている。

長谷部は、気付かないふりをして話を聞いていた。

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