第32話

暖希はドラマの撮影も終わり、次のオーディションを受ける事になった。

今度のオーディションは大きなものだった。

映画の主役をオーディションで決めるものだった。

高井秀という監督の作品だ。

主人公は20歳の大学生。

応募資格は18歳から22歳までの男子でプロアマ問わずである。

約3500名の応募があり、殆どの人が悲しい勘違いで書類審査で落とされた。

そして暖希は書類審査に合格して、2次審査を受ける事になった。

2次審査に進めた者は50名である。

そこから最終審査に進む5名に絞られる。

暖希はその中に残った。


暖希は最終審査には大抵残る。

だがその先には何故か進めなかった。


「惜しかったな」

「何でだろうな…… 」

暖希はコーヒーカップに砂糖を小さじ半分入れて、スプーンでかき回していた。

「イメージが違ったのかもな」

河添拓也が言った。

暖希はジッと河添を見る。

河添拓也は同じ劇団時計坂の団員だ。

暖希と同じくオーディションを受けて役を勝ち取っていた。

「イメージか…… 」

「こればかりはどうにもならない」

「そうだな」

「元気出せよ」

ファミレスで2人でコーヒーを飲んでいた所に突然暖希のケータイが鳴った。

劇団の演出、藤本からだ。

「はい。春名です」

『暖希、今、何処にいる?大事な話がある。直ぐに劇団に戻ってくれ』

藤本の声は昂ぶっていた。

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