第7話 僕と君の物語に続きがあるなら
「でも私にとって君は特別だよ」
「幼馴染だからな」
逆に言えば彼女が僕の前にいる理由はそれだけ。
君を見るのを辞めたのは、売れ始めて世間に認められて嬉しいと思った反面、彼女に抱いてしまっていた醜い感情も自覚してしまったから。
「こっち来て一緒に座ろうよ、夜景が見えるよ」
心地の良い夏風が吹いて長く綺麗な髪と服を優しく揺らし通り抜け、彼女は乱れた髪を直す。
でもどうしようも無く人を惹きつける魅力が彼女にはある。
音が意識の外から聞こえたら見てしまう様に、熱い物に触れた途端手が動く様に。
その一瞬を永遠にしたくてスマートフォンを構え、彼女をフレームに入れる。
星空の中無邪気に笑う姿はまるで映画のワンシーンその物だ。
「あれ林也のマンションじゃ無い?」
「いま行くよ」
ビデオをオンにした状態でジャングルジムを登り始めるが物を掴んだ状態は始める中々大変だ。
やっとの思いで横に腰を掛けて座る。
なるほど、下にいる時は木に隠れて見えなかったが中々の夜景だ。
住んでいるとちっぽけで何も無い様に感じてたけど、こうして見ると何でもある様に見える。
「あそこ」
指さす方にスマホと視線を移すと見慣れたマンションが建っていた。
「僕の住んでる所だな。こうして見ると意外とデカいな」
「あっちは昔一緒に通ってた小学校」
「グランドがあるから分かり安いな」
「あそこは市民プール」
「忍び込んで入ったこともあったか」
「大晦日に一緒に行った神社」
「混みまくるのが嫌で最近は行って無いんだよな」
「昔一緒に行ってたデパートは…あれ?」
「あれはもう取り壊されたよ」
「そっか。さすがに全部一緒ではないよね…」
少し視線を落とし、苦手笑いを浮かべ肩を落とす。
「全部一緒では無いかもしれないけど、昔の思い出は2人の中でそのままだ。僕らなら同じ景色を見られるよ」
「…」
元気ずけようと思ったらけどさすがにカッコつけすぎたか?
やべー、雰囲気に飲まれてやらかした!
しかも何も返してくれないし。
「あのー寒いセリフだけにさすがに反応無いとキツイんですけど」
冷汗恐る恐る彼女にカメラを向けると手を両手で覆って震えていた。
「そんな笑わなくてもいいじゃん!元気づけたかっただけなんだよ!」
「いや、ごめん。そうゆうのじゃなくて…
分かってる分かってるから」
「忘れてくれ」
やっぱりカッコつけるもんじゃ無いね。
早くそんなセリフが似合う大人になりたいよ。
街に視線を戻し景色を眺めていると柔らかい感触とふわっとした花のような匂いがする。
「ちょ、こんなの撮られたらヤバいだろ」
「平気だよ、それに昔よく逸れないように手を繋いで歩いたじゃん」
「昔の話だろ?親が逸れないようにってさせられてた」
「ここまでガッツリ変装してれば平気だよ。今日はそんな気配も無いし」
「いやでも…」
「お願い、少しだけだから。今日だけは昔のままの私達で居させてよ」
まあどのみち振り解くことが出来るほど僕は気が強く無い。
「分かったよ、僕の負けだ」
「ありがとう」
昔に比べて空の手がずいぶんと小さく柔らかくて感じるのは僕らが成長した証拠なんだろうな。
スマートフォンを星空へと向ける。
「なあ空星座って分かるか?」
「ぜんぜん分かんない。みんな同じに見えるよ」
「じゃあまずは夏の大三角からだな」
「えっとデネブとかアルタイルだよね」
「そうそう、あれがデネブであれがアルタイル。そして少し離れた所にある少し青いのがベガだ」
スマートフォンの録画を押したままポケットに一度しまい、順に指を刺して行く。
感心した様子でその先を見つめて追って行く。
「こんないっぱいの星の中から見つけれるなんて凄いね!」
「ごめん嘘。実はぜんぜん分からないんだ」
横を見るとポカンとした様子でこちらを見ているのが面白くてクスッと笑いが溢れる。
「ちょっとー。本気で感心して覚えようとして損しちゃったなー」
「ごめんごめん、でも一度言ってみたかったんだよ。次はちゃんと覚えて来るから」
「約束だよ?」
「ああ、約束だ」
握っていた手を解き小指を僕の目の前にむける。
「いつもこれだったな」
大切なことは指切りげんまんで約束する、これが僕らの昔からの習慣だった。
「「指切った」」
懐かしい歌を口ずさみ小指が離れた。
改めてスマートフォンを取り出して彼女にカメラを向ける。
「じゃあそろそろ容量が無くなるから締めに一言どうぞ」
「えー無茶振りすぎるんじゃないかな?」
とは言いつつも慣れた様子とばかりに軽く咳払いをして笑顔を浮かべる。
「今日は待ちに待った幼馴染の林也の家に来て最初の日で、ここに来るまでに色んな人と色んなことがありました。これから何が起こるか、何があるかはぜんぜん分かりません。いつかこの動画を見てる私が今日の日の思いを忘れずに、自分の大切な人と一緒に居れますように」
思わず見入ってカメラを向けていると彼女の手が伸びて来てカメラを奪われる。
「いやいや、待って!」
「えー、ではカメラマンさんからも一言どうぞ」
さっきのお返しだと言わんばかりにニヤリと笑いながらカメラを向ける。
軽くため息を吐いて諦めて言葉を考える。
「…僕は凡人で何も無い人間です」
とりあえず集まった言葉を吐いてみる。
「でも今日を過ごして少し背伸びしたくなりました。彼女が何か見つけた、この地この場所で僕も何か一緒に探してみたいと思います。
どうかいつかの僕が彼女の隣にたって恥ずかしいく無い人になって欲しい…、いや次もう一度会う時はなっています」
インカメに切り替えて笑顔で話し始める。
「…はい、カメラマンさんからは以上です!
さて2人にどんな未来が待っているのでしょうか?次会う時までさようなら!」
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