第4話 少女の描いた未来
僕は彼女の近くにいたかったけどでもそうはならなかった。
小学生だった僕らを繋ぐ方法なんて思い浮かばなくて気がつけば君はアイドルになっていて僕の手の届かない所にいた。
「理由かぁ」
「別に話したくなかったらいいんだけど」
「話したくない訳じゃないけど、ちょっと恥ずかしいかな」
「そんな恥ずかしがるような理由なのか?」
「うーん、恥ずかしい」
もうすぐ沈みそうな夕日が最後の輝きと言わんばかりに差し込み、彼女と部屋を赤く染めあげる。
「じゃあ今の質問は忘れてくれ」
「うーんでもでも、話してあげなくもないってゆうか、話したいってゆうか」
「なんじゃそりゃ」
「乙女には色々あるんです」
「乙女は大変だな」
「大変なんです」
「じゃあ聞くのはやめとくよ」
「辞めちゃうんですか?こうもうちょっとグイグイ来て欲しいですね」
「だからどっちなんだよ」
「女の子のダメはもっと押さなきゃダメなんです」
指で×マークを作って不満げに僕を見つめる。
女の子って難しいなぁ、どこかに取扱説明書か攻略本がないのだろうか。
あるなら今すぐ購入したいのだが。
「じゃあダメって言われたグイグイ行けばいいのか?」
「時と場合によります。今回はグイグイ来て欲しい感じですね」
「訳が分からん」
「とゆうことで学びを生かしてもう一度どうぞ」
「そう言われるとやりずらいな」
コホンと咳払いをして改めて空に体を向ける。
「えっとじゃあ、そこをなんとか教えて欲しいなぁ」
「そこまで言われたら仕方ありませんね。あれは私がまだ林也君くらい小さい頃でした」
「いつか分かんねーよ」
「少女は学校に行って友達と遊んで美味しいご飯を食べて楽しい毎日を送っていました。しかしある日のことです、少女は楽しいこの街を離れて違う街に行かなくてはいけなくなってしまいました」
「この物語っぽい話のまま続けるのね」
「行きたくない、ここにいたいと少女は駄々をこねていましたが、そんなワガママが叶うはずも無く慣れ親しんだ町を離れました」
確かに引っ越しの日の彼女はずっと泣いていた記憶がある。
部屋に差し込んでいた夕日が部屋が徐々に部屋を薄暗く染めていく。
「そしてついにドキドキですね新しい町での生活が始まり、新章スタートです」
「以外と余裕ありそうだな」
「転校して登校初日、ドキドキして学校に行くと常に知らない人から話しかけられ、色んな目で見られました」
「転校生ってだけで注目されるもんな」
「人見知りの少女は人と話すのが怖くて、知らない感情を向けられるのが怖くて逃げ始めます。そしていつしか逃げ続けた少女に話しかけようとする人はいなくなり、望んだ通りの静かな日常が続きました」
まるで楽しかった記憶を思い出すように笑顔を浮かべ物語を語り続ける。
僕と別れた空はこんな思いをしていたのかと思うとなんだかやるせない気持ちになり、それにつられるかの様に日が傾き始める。
「しかし少女の中にモヤモヤが生まれ始め、日がたつに連れて次第にそれは大きくなりました。ある日の帰り道、一人の男の子と女の子が遊ぶんでいるのが見え、前に住んでいた町のことを思い出し忘れていた違和感の正体に気がつきます。ここで問題です、違和感の正体について答えてください」
「いきなりすぎるだろ、えっと友達の大切さとかか?」
「ちなみに採点方法は道徳の授業方式なので、なんて答えても正解です」
「一瞬でも真剣に悩んだ俺の労力を返してくれ」
クスっと肩を揺らす。
「さてとある違和感に気づいた少女でしたがその頃にはクラスに話しかけられそうな人はもう綺麗さっぱりいなくなってしまいました。どうすれば友達が出来るのか、誰にも話しかけることも出来ないまま、内気で陰鬱で平凡で平坦な日常が続きます。週刊誌なら間違いなく打ち切りですね」
「暗い物語を週刊誌に連載しようとしないでくれ。まあでもそこからきっと何かあったんだろ?」
「その通で起承転結の転でここから始まって大逆転が始まります。ある日、家でテレビを見ているとあるライブの一部がテレビで流れました。お姫様に憧れちゃうようなメルヘン少女の私はテレビに釘付けでそこから友達も出来てアイドルに興味を持ち始めた感じかな」
「なにそのこれを買った瞬間に全て上手く行くみたいな怪しい商材の広告みたいな感じ」
「怪しい広告みたいだけどそこから色々あったからね」
「色々って?」
「例えば次の日にその話題を話していた人と友達になったり」
「ボッチ脱却編か」
「芸能界の人からスカウトされてそれが詐欺だったり」
「なにそれ大事件じゃん」
「ストーカーに付きまとわれたり」
「いやもう色々ありすぎだろ!」
「色々あったね、本当に毎日が一瞬で過ぎていったな~」
そう話す彼女の顔は笑顔だけどどこか含みがあって、懐かしむように目を閉じてゆっくり味わっている。
確かに彼女の年齢とメディアに出ている量を考えれば立ち止まっている時間なんて無かったはずだ。
僕が怠惰に意味もなく休日にゲームをしていた日も、僕が怠慢に勉強をサボっていた日も彼女は走り続けてここまで来た。
僕と彼女の人生が等価であるはずもなく、そんな風に人生の深みを味わえるほどの経験も感性も持ち合わせてはいなかったので、腹いせに彼女の作ったカレーを一口味わう。
「うん美味しい」
「そう言ってくれると頑張ったかいがあったね」
そんな僕できるのは誰にでも言えるこんな言葉で彼女をこんな風に笑顔にするくらいだろう。目の前の彼女が笑ってくれるならこれからはこんな言葉を毎日言おう。
…毎日ってことはもしかして?
「なあ空、今日どこで寝るんだ?」
「もちろんここだけど?」
「親御さんの許可は?」
「二つ返事でオッケーです」
危機感を持ってー!空のご両親、若い男女がひとつ屋根の下だぞ?檻の中にライオンとウサギを一緒に入れる様な物だぞ?なんでオッケーなんだよ!!!
一人娘だろ?箱入娘だろ?
「でもほら寝る場所も俺のベットしかないし…」
「そんなの昔みたいに1つのベットで寝れば良くない?」
「いい訳あるか!」
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