第2話 ゲームとアイス

 土曜日の朝方、まだまだ暑さが残る蒸し暑い時間帯。ニュースを見ながら、朝ご飯を作る。昨日のプロ野球の結果を報じていた。贔屓のチームはまた負けたらしい。溜息を吐きながらご飯を盛り付ける。そういえば球場なんてもう2年ぐらい行けてない。


「スイちゃん、おはよう」


睡蓮が目を擦りながら起きてきた。平日は朝から家事を手伝ってくれた彼女だけど、今日は少しお寝坊さんだ。


「おはよ、お兄ちゃん……お父さんは?」


「まだ寝てるよ~」


 父は夜遅くに帰ってくると、夕食に手も付けずにそのまま爆睡してしまった。僕らにあまり関心がないから、多分睡蓮の誕生日も絶対忘れていたはずだ。


「そっかぁ。お仕事忙しいのかなぁ。最近あんまり喋れてないよね」


心配そうに呟く睡蓮。母さんが出て行ってから、以前からいいとは言えなかった父さんの生活はさらに悪化した。学校帰りに、パチンコ屋に入っていくのを見たこともある。仕事をサボったり、数日家に帰ってこないなんてこともあった。


「う、うん。どうなんだろうね。たぶん疲れてるだろうから、寝かしといてあげよっか!」


「うん、そうだね。お父さん頑張ってるんだもんね」


「じゃあ顔洗っておいで」


「はーい」


睡蓮に余計な心配をさせたくない。僕は父さんの分の朝食にラップをかけ、エプロンを外した。

『お前何でも出来て、すげぇな』とは去年、父さんが僕に言った一言。どうしてそうなったかと言えば、父さんがちゃらんぽらんなせいなんだけど。睡蓮は父さんが、家族のために、がんばって働いていると思っている。僕には、それが辛い。




「今日は約束通り、ソフト買いに行こっか。欲しいの買ってあげるからね」


「うん!」


嬉しそうな睡蓮。生暖かい風が窓から吹き込む中、いつものような楽しい朝食だった。




 自宅から徒歩5分ほどの場所にあるレンタルビデオ屋。顔なじみのお兄さんがアルバイトしていたこともあって、ウチにそこそこ余裕があった頃は利用していたが、最近ではすっかりご無沙汰になっていた。



冷房が心地いい店内。アニソンが流れ、アニメのポスターが張られた賑やかな店内。今日はビデオレンタルが半額ということもあってか、若者や、親子連れで賑わっていた。

ゲームコーナーには色んなソフトが棚に並び、僕と睡蓮は思い思いにパッケージを手に取った。


「これ、お兄ちゃんが欲しいって言ってたやつだよね」


睡蓮が手に取ったのは、僕が小学生の頃にやっていた野球ゲームの最新作。ゲーム機が壊れた後も、部屋にポスターを張ったり、ストラップをランドセルに付けたりするぐらいにはハマっていた思い出のゲーム。


「そうそう~2作前を友達とよくやったんだよ!どれどれ!」

 

この数年の進歩は恐ろしく、パッケージによると野手の動作や投手のフォームがよりリアルになっているらしい。と言っても……高い。父さんがああだからそんなにお金は使えない。今日は睡蓮のソフトを買うために来たんだ。今は我慢!そう思ってソフトを棚に戻した。


「お兄ちゃん買わないの?」


「ああ……うん、それよりスイちゃん、欲しいのは見つかった?」


「う~んとね。これ!」


そう言うと棚の中からあるゲームを取り出した。ゲームセンターでおなじみの音楽ゲームのソフト版だ。前に睡蓮を買い物ついでにゲーセンに連れて行ったら、かなりハマっていたし、CMでもやっていたから欲しかったんだろう。


「いいね!兄ちゃんも興味あったんだ!これで退屈しないね」


「うん、お兄ちゃん、帰ったら一緒にやろうね!」




そう言って、睡蓮はさっき僕が棚に戻したソフトを取り出した。


「これ買わないの?お兄ちゃん欲しかったんでしょ?」


「ああ、うん。いいよ。ちょっとしたら中古で買うから。今日はスイちゃんの誕生日プレゼントを買う日だからね」


「お金が足りないの?」


そう言うと睡蓮は少し俯いた。僕は少し慌てた。また睡蓮に気を使わせてしまう。


「あのね、昨日も言ったけど兄ちゃんはスイちゃんが喜んでくれるのが一番なんだから。そんな顔しないで」


「ごめんね。お兄ちゃん。私、いっつもお兄ちゃんに貰ってばっかりで」


「そんなことない。家事は手伝ってくれるし、6月にインフルになった時、スイちゃんが家の家事をやってくれた。すっごく頼もしかったよ。それに昨日は誕生日。遠慮するほうが変だよ」


睡蓮は少し考えてから、僕にある提案をした。


「……じゃ、じゃあさ……」











「うん、美味いな!」


「お兄ちゃん、私のも食べる?交換しよ!」


「いいよ!」


「お兄ちゃん、はい、あ~ん」



コンビニ近くの公園で僕らはアイスを食べていた。「じゃ、じゃあさ、お兄ちゃん私がアイス買うから一緒に食べよ?」 そう言ってくれた彼女の好意を受けることにした。二人でちょっと高めのカップアイスを買った。一口食べると濃厚な甘さが口一杯に広がり幸せな気持ちになる。



「お兄ちゃん。今日は買ってくれてありがとう!一緒にたくさんやろうね」


ニコニコしながらアイスを食べる妹に、満ち足りた気持ちになる。睡蓮も僕が美味しそうに食べるのが嬉しいみたいだ。


さあ帰ったら早速、一緒にゲームをしよう。睡蓮とするならなんだって楽しいはずだ。


 



















































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