第53話
お風呂から上がると、スマホにメッセージ着信が来ていた。
買い物かー。どうしようかな。
バイト代は結構残ってるし、服ぐらいは買っておきたい。
東京はさすがに、往復三時間くらいかかっちゃう。
でも行ってみたいなぁ。
よし! 明日は渋谷だ!
久しぶりに女子三人で遊んでこよう!
私はスマホを枕元に置くと、布団に潜り込んで目を閉じた。
****
早起きをしてシャワーを浴び、服を考える。
薄いブルーのブラウスに青い膝丈のフレアスカート。
アウターにグレーのカーディガンを添えて、パステルブルーのバケットハットをかぶってみた。
白いトートバッグを肩にかけて、姿見の前で確認する。
東京に行っても、浮かない……よね?
まだ寝ているお母さんに「行ってきまーす!」と告げて家を飛び出す。
電車で
「早いね、
「十五分前行動なんて、当たり前でしょ」
アウターはライトグレーのジャケットで、いつもより大人びて見える。
足元はベージュのパンプスで、長い髪にはシルバーのバレッタを付けていた。
小ぶりの黒いショルダーバッグが、なんだかお姉さんっぽく見える。
「……
「いつもみたいに、時間ギリギリじゃない?」
少し待っていると、本当に八時ギリギリに
レモンイエローのフリルブラウスに、太ももが見えるライムグリーンのプリーツスカート。
足元は白いスニーカーで、アウターには白いパーカーを着込んでいた。
小さなライトピンクのリュックサックを揺らしながら駆け寄ってくる。
「ごめーん! 待った?!」
「いつものことよ。
それにしても、二人ともすっかりおしゃれしてきたわね」
私は思わず突っ込む。
「それ、
「あはは! それより早く電車に乗ろう! 遅れちゃうよ!」
「誰のせいよ!」
私たちは笑いながら、改札を通ってホームに上がった。
****
横浜駅まで出て、そこから渋谷に向かう。
渋谷で降りた私たちは、早速迷子になっていた。
「なにこれ、駅が広すぎない?!」
「とにかく、外を目指しましょう」
人混みの中をかき分けるように進んで行く。
平日だっていうのに、なんでこんなに人が居るの?!
「東京って、異次元だね……」
「人が多くて、看板が見えないわ。
ちょっと端に寄りましょうか」
私は帽子を手で押さえながら、二人について行く。
なんとか外に出てみると、やっぱり人がわらわらと歩いていて驚いた。
「すごい……テレビで見たより人が居るみたい」
「そう? 通勤ラッシュの映像に比べたら、だいぶ人が少ないわよ?」
「ここが渋谷かー! 何があるかな!」
私たちは
****
交差点の信号待ちする人数も、見たことがない数だ。
噂の『渋谷スクランブル交差点』の信号が青になる前に、人混みが動き始める。
――なになに?! 信号無視?!
驚いている間に信号が青になり、
向こうから歩いてくる人たちは、ものすごい勢いで近づいてきては私たちをよけていく。
「なんか、川の中にいるみたいな気分」
それは同感かも……。
なんでこれだけの人間が、この速度で動いていてぶつからないんだろう?
しかも東京の人たち、歩くの早すぎ!
後ろから来る人たちに追い抜かれながら、私たちはスクランブル交差点を渡り切った。
後ろを振り返ると信号が変わって、車が交差点を行きかっていく。
上を見ると色んな看板が自己主張をしてきて、どれを見ていいかわからない。
あちこちの店から音楽が流れてきて、目にも耳にもうるさい街だ。
「これが……東京」
「当たり前でしょ、東京に来てるんだから。
マルキューはあっちよ」
歩きだす
****
歩いて行くと、遠くに立派なマルキューのロゴが付いたビルが見えた。
高鳴る胸を抑えながら、三人でそのビルに吸い込まれて行く。
おしゃれなお店やポップなお店は、
「さすが渋谷だね、お店も気合入ってる……」
私たちもそれにつられるように、自分たちの好みを探して試着していった。
拍手をしてほめたり、「ちょっといまいちじゃない?」と言いあったり、「それは過激だよ?!」と突っ込んだり。
そんな風に何店か回って服を選んだあと、アクセサリーショップも覗いて行く。
ちょっと背伸びしてイヤリングや指輪を選び、意見を言いあいながら買っていった。
すっかり両手が荷物で埋まった頃、
「そろそろお昼だし、どこかカフェにでも行きましょうか」
私たちはうなずいて
****
マルキューを出て、
さすがにお昼時は、どのお店も混んでるみたいだ。
「満席ですって。ここは諦めましょう」
歩きだす
「どこに行くの?」
「この時間じゃ、どこも混んでるでしょうね。
それでも入れる店を探してみましょう」
三人で当てもなく歩いて行くと、私たちの前に大学生くらいのお兄さんたちが立ちふさがった。
オーバーサイズのTシャツに、ちゃらちゃらしたアクセサリーをあちこちに付けてる。
なんだか、よくない人たちに感じた。
「君たち、高校生? お腹空いてない? 俺たち美味い店を知ってるんだけど」
「なんですか? 迷惑なので帰ってください」
男性の一人が
「重たいだろ? 持ってやるよ」
「やめてください! 警察を呼びますよ!」
一瞬、男性たちがきょとんとしたあとに大笑いをし始めた。
「純情だなぁ! 大丈夫、怖くないって!」
いや、充分に怖いですけど?!
私たちが後ずさりしていると、背後から声が聞こえる。
「すまない
――その声、マスター?!
振り返ると、マスターが優しい笑顔で近づいてきた。
私たちはマスターにすがりついて、大学生くらいの男性たちを睨み付ける。
マスターがにこやかに告げる。
「お前たち、俺の連れに何か用か?」
一瞬怯んだ大学生が、気を取り直して声を上げる。
「急に出てきて、何様だ! 横取りする気か?!」
大学生たちの背後から、ぬっと二本の腕が伸びてきて彼らの肩に乗せられた。
紫髪の男性――秀一さんがすごみながら告げる。
「お前ら、俺たちの
その冷たい声と共に、秀一さんから危険な気配が漂い始めた。
怒りより冷たくて恐ろしい目つきで睨み付けられた男性たちは、逃げるように走り去っていった。
秀一さんが男性たちを見やりながらつぶやく。
「意気地なしどもが。腑抜けた野郎どもの街だな、ここは」
私は戸惑いながらマスターに尋ねる。
「なんで二人が居るの?!」
マスターは優しい笑顔で私に告げる。
「僕らは神様だからね。
どこからでも現れることができる。
――緊急事態にはね?」
その微笑みに、私たちはぼんやりと見惚れていた。
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