第6章:私たちの青春
第49話
「――時間です。答案用紙を集めて」
中間試験、最後のテストが終わった。
先生が教室から出ていく前から、教室に楽し気な声が満ちる。
「ねぇ、午後からマスターを誘って商店街に遊びに行かない?」
今日は水曜日でお店はお休み。
誘えば来てくれると思うけど……。
「それなら、孝弘さんも呼ぶ?」
「え、嫌よ! なんであんな人を呼ぶのよ」
「どうせ遊ぶなら、大勢の方が楽しそうじゃない?
孝弘さんも勉強ばかりだと、息が詰まるだろうし」
「オッケー、孝弘には連絡しておくね。
あとは秀一さんとか桜も呼ぼうか」
私は思わず声を上げる。
「え゛、なんでその二人を?!」
「だって、男子二人に女子三人じゃバランス悪いじゃない。
美形は多い方が楽しいでしょ。
桜はどうせ、放っておいてもついてくるよ?」
それはそうかもしれないけど。
私は小さく息をついて応える。
「わかった、連絡は任せるね」
私は鞄を取り出し、帰り支度を始めた。
****
生徒の流れに乗りながら校門を出て、生徒たちとは違う方向に歩いて行く。
『カフェ・ド・ビジュー・セレニテ』は駅とは別方向の住宅街にあるから、こっちにくる生徒はほぼいない。
三人で歩いていると、
「……返事来たよ。みんなオッケーだってさ。
神社で待ち合わせようって」
「お昼はどうする?」
「ファミレスでいいんじゃない? 大人数だし」
「りょ」
「二人はテストの手応えどうだった?
私はいまいちだったわ」
「んー、自信がないかなー。
回答欄は全部埋めたけど。
――
「あはは! 私に聞くだけ野暮って奴じゃない?」
私はジト目で
「あんだけ教えたのに。
なんで開き直るかなー」
「いいじゃん、別に。
高校最初の中間試験なんて、大した意味ないよ。
まだ二か月しか勉強してないんだし。
期末で頑張れば、それでいいじゃん?」
私はため息をつきながら、神社に向かって歩いて行った。
****
神社前には少し大きなリムジンが止まっていた。
リムジンに寄りかかるように立っていた孝弘さんが、こちらに向かって手を挙げる。
「おーきたか。
クソ爺から車借りてきたから、これで移動しようぜ」
私は長細いリムジンを眺めながら孝弘さんに尋ねる。
「なにこれ、カーブを曲がれるの?」
「クソ爺の仕事用リムジンだ。
お前らも早く乗れよ」
孝弘さんがスライドドアを開けてくれたので、早速中に乗りこむ。
車内は部屋のようになっていて、中央にテーブルまである。
マスターに秀一さん、桜ちゃんは中でくつろいでるみたいだった。
「ごめーん、お待たせー」
私たちが乗りこむと、最後に孝弘さんが乗りこんでドアを閉めた。
「まずは昼飯だよな。
レストランで良いか?
クソ爺行きつけのイタリアンがある」
「ちょっと孝弘!
女子高生の予算を考えてよ!
ファミレスでいいでしょ!」
「別に俺が支払いを持つぞ?」
「バイトしてるのに、理由もなくおごってもらうなんて悪いわ。
それに孝弘さんだって、それは自分のお金じゃないでしょう?」
孝弘さんがつまらなそうにシートに体を預けた。
「耳に痛いことを言うなよ。
それならファミレスでいいか。
――おい、駅前のファミレスまでやってくれ」
リムジンが緩やかに動き出す。
私の隣に座るマスターが、嬉しそうに微笑んで告げる。
「
「んー、ファミレスで決めればいいかなって。
みんなで遊べる場所なら、それでいいんじゃない?」
秀一さんがフッと笑った。
「それなら、ファミレスの後は『大人の遊び』を少し教えてやる。
おそらくお前たち高校生じゃ、まず行こうと思えない場所だ」
「――え?!」
私と
『大人の遊び』って、どういうこと?!
思わず顔を赤くしていると、楽しそうに秀一さんが微笑む。
「まぁ、楽しみにしておけ」
桜ちゃんが横から告げる。
「じゃあそのあとは、夕方からカラオケでいい?
ネットでフリータイムの予約、とっておくね」
神様の癖に、スマホを使いこなしてる?!
私たちは午後から何が起こるのか、ドキドキしながら車に揺られていた。
****
ファミレスで、私はいつものチーズが入ったハンバーグをパクパクと食べていく。
サイドメニューの鶏肉のグリルもパクパク食べる私に、
「本当によく食べるわね。まさか、また『自動ダイエット』なの?」
「んー、そうかも?
車に乗ってから急にお腹が減ってきたし」
私はパンもお替りして、結局二人分以上の昼食を食べていた。
「なんでそれだけ食べて、春より痩せてるの……」
「そんなこと言われても、お腹が減るんだからしょうがないじゃん!」
ようやくお腹が満足した私は、オレンジジュースを飲みながら反論していた。
マスターが穏やかな笑顔で告げる。
「今は僕と秀一、それに桜が一緒にいるからね。
孝弘さんも大盛りのライスを食べ終わり、一息ついていた。
「それで、葛城さんの言う『大人の遊び』ってやつは高校生でも払える金額なのか?」
秀一さんはコーヒーを飲みながらフッと笑った。
「少し高いが、無理な金額じゃない。
ドリンクを付けても、一時間で千円もしないさ」
私は胸をなでおろして告げる。
「なんだ、それくらいなら問題なさそうですね。
――桜ちゃん、カラオケの予約は何時から?」
「んーと午後四時だよ。
だからそれまで、二時間ぐらいは遊べるかな」
二時間で二千円。確かに無理じゃない金額だ。
そんなに安いなら、『いかがわしいお店』じゃないだろうし。
秀一さんがクスクスと笑みをこぼす。
「お前ら子供が『いかがわしい店』など、入れるわけがないだろうが」
「あ、そうですね。はい」
私たち、学生服だしね。
お昼を食べ終わった私たちは、徒歩で秀一さんが案内するお店へと向かった。
****
向かった先は、小さな雑居ビルだった。
「ここがそうなの?」
秀一さんは何も言わずに階段を上がっていく。
マスターが「さぁ、行こうか」と手をつないでくれた。
私もマスターと一緒に、何が待っているのか不安に包まれながら階段を上った。
階段を上った先で扉をくぐると、そこは――ビリヤード場?!
静かな洋楽が流れる中、広々としたスペースに余裕をもってビリヤード台が置いてある。
秀一さんがカウンターに行き、店員さんと話をしていた。
マスターが私に告げる。
「まずはキューを探そうか」
キューって何……。
マスターに手を引かれて壁際に行く。
壁に並んだたくさんの棒の中から、マスターが一本を取り出した。
「
私はそれを受け取ると、しげしげとながめてみた。
ニスが塗られたみたいにテカテカと輝く棒は、片方がちょっと重たくなっていた。
反対側は少し細くなっていて、先っぽに青いものが付いている。
マスターが「その青いのはチョークだから気を付けて」と告げた。
おっと、学生服につかないようにしないと。
秀一さんが
孝弘さんや桜ちゃんは、自分にあったキューを探していた。
マスターが告げる。
「それじゃあ、二グループに分かれようか」
私たちはうなずくと相談しあって、二つのテーブルに散った。
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