第4話 ダンジョンでのバトル

「連携だ? んなかったるいことやってられるかよ!」


 そう言って真っ先に飛び出していったのは、やっぱりアレックスだ。

 あのモンスターって、相当強いことで有名なミノタウロスなんじゃ……。

 そんな化け物数体に、一人で飛び込んでいくなんて……しかもすごい!

 たった一人で善戦してる。


 アレックスは複数のミノタウロスが仕掛けてくる攻撃をかわしながら、剣で確実に斬っていく。

 さらに剣へ炎をまとわせ始めた。


「へぇ、魔法剣まで使えるのか。さすがは学園一の天才。彼はすでに、ベテランの卒業生以上の強さだな。末恐ろしい子だ」


 悔しいけど、レオナルト様の言うとおりだ。

 俺なんか、どう背伸びしたってアレックスの足元にもおよばない。


 他の生徒も、アレックスの戦いぶりに見とれている感じだった。

 しばらくしてハッとした表情を見せてから、みんな一斉にアレックスへと続いた。

 俺はどうしていいかわからなかったが、支給された剣を鞘から抜いて、みんなの後ろをついていく感じで走り出した。


 くそ!

 やっぱりみんな、なんだかんだすごいよ。

 それぞれが連携しあいながら、ミノタウロスを相手にしている。

 俺も戦いに参加しなきゃと思うけど、どう動けばいいかまったくわからない。


 そうこうしているうちに、戦いは終わってしまった。

 ミノタウロス五体。

 そのうちの三体は、アレックスが一人で倒してしまった。

 しかも生徒たちがみんな息を切らしている中、アレックスだけは全然余裕の顔をしている。


「はっはっは! みんな、素晴らしい戦いぶりだったぞ! いやぁ、実にいいもの見れた。なぁ、ヴァンサン!」

「フン。みんな、まだまだだね。一人だけ、まあまあのやつもいたけどね」

「ヴァンサンったら、生徒相手に辛口ねぇ。大人げないわよ」


 レオナルト様たちがバトルの感想を言い合いながら、こちらへやってきた。


「実はこのダンジョン、学園の卒業試験や卒業生の訓練場としても使われているところなのさ。さっきも見てのとおり、かなり強力なモンスターだったろ? ちゃんとモンスターが外へ出れないように結界も張ってるので、そういう場所としてうってつけってわけ」


 レオナルト様が得意げに、解説を始める。


「卒業試験ではね、四人一組でさっきのようなモンスター一匹とバトルすることになっているのよ。それをまだ学業真っ只中の時点で倒しちゃうなんて、やっぱりみんな優秀ねぇ」


 エノーラ様がそう言うと、アレックスがものすごく不満げな顔で俺をにらんできた。


「みんな優秀? 一人だけ戦いに参加もできず、おたおたしてるやつがいたじゃねぇか。その言葉、腹立つんで取り消してもらいたいんすけど」


 返す言葉もない。

 本当に、なんで俺はここに来れたんだ?

 昨日の褒められたときの嬉しさなんて、もはや残っていない。


「うふふ。アレックスちゃん、そう嚙みつかないの。この子の魔力は、本当にありがたいものなのよ。あなたも感謝するときがくるわ」


 エノーラ様はそう言ってくれるけど、気を使ってるだけなんじゃないか。

 うつむいて黙っていると、レオナルト様が俺の頭に手をのせてきた。


「リヴィアス君、昨日言ったろ? キミは間違いなく、人類を救う存在になれるってね。はっはっは!」


 本当だろうか……。

 なんだかもう、完全に自信がなくなった。


 と、そのときだった。

 今度はミノタウロスだけじゃなく、別のモンスターまでもが通路の奥から迫ってきた。


「ま、まじかよ! もう戦う体力残ってねぇって」

「いや、俺はさっきのバトルでレベル上がったからいけるかも」

「そういや俺も! 魔力が回復してるぞ」

「で、でもあの数! しかもミノタウロスより強いモンスターまで混じってねぇか?」


 生徒たちが慌てふためく。


「けっ! 俺はまだまだ余裕だぜ。さっきのバトルじゃレベルも上がらなかったし。あのモンスターの経験値、全部俺によこせや」


 さすがというべきか、アレックス一人だけが前に出た。

 すると、ヴァンサン様がさらに前へ出る。


「おまえなんかのレベルじゃ、あの数はムリだね。まあ、ここは僕に任せておいたほうが身のためだね」

「な、なんだと?」


 そう言われてアレックスがヴァンサン様に掴みかかろうとした。

 しかしヴァンサン様は一瞬で消えてしまった。

 本当に、フッと消えたんだ。


「な?」


 アレックスも驚きの声を上げている。

 そのすぐあと、モンスターたちの叫び声が聞こえてきた。

 いつの間にかヴァンサン様は、モンスターの群れの中にいたのだ。

 そしてアッという間もなく、モンスターたちを細切れにしていた。


「エノーラ! いくつか残してやったんだよね。優秀な優秀な生徒諸君に、おまえの魔法も見せてあげたらいいよね」


 ヴァンサン様の言うとおり、数体のモンスターが斬り残されていた。

 その残ったモンスターが、こちらに向かってくる。


「ヴァンサンったら、張り切っちゃって。本当に大人げないわねぇ」


 エノーラ様はそう言うと、人差し指を唇へと持っていった。

 そして投げキッスの動きをとる。

 

 すると指先から、渦巻き状の炎がモンスターたちめがけて一直線に放たれた。

 一瞬だ。

 一瞬でモンスターたちは黒い炭と化し、サラサラと崩れていった。


「す……すげぇ!」

「やっぱり勇者パーティーはレベルが違いすぎる……」

「ヴァンサン様の動き、見えたか?」

「エノーラ様の魔法……なんか火と風混ざってなかった? 複数の属性が使えるってこと?」


 生徒たちのざわつきが止まらない。

 そりゃそうだ、あんなすごいものを見せられたんだから。

 アレックスだけは会話に混ざらず、「ちっ!」と舌打ちしていた。


「ヴァンサンはああ見えて、地上最強の剣士と言われてるのさ。神速の騎士、なんて異名もあったよね。そしてエノーラは世界最強の魔術師。なんと七つの属性を使いこなす天才だ」


 エッヘン、とまるで自分のことのようにレオナルト様が鼻を鳴らす。


「あらあら、出たわね。レオナルトの褒め殺し」

「フン! おまえに褒められても、嫌味にしか感じないんだけどね」


 言いながら、エノーラ様とヴァンサン様がこちらへ戻ってきた。

 よーし、と声を張り上げて、今度はレオナルト様が前に出る。


「それじゃあ俺も、腕前を披露しちゃうおうかなっと! モンスターども、いつでも出てこーい!」


 ダンジョンの中を、レオナルト様の声が反芻する。

 しかし数分ほど待ってみるも、静寂が過ぎていくだけだった。


「ふふ、もう出てこなようね。それじゃあ先を急ぎましょうか」

「おいおい、そりゃないぜ。二人だけ強さひけらかして、ズルいぞ!」

「拗ねるのはよくないよね、レオナルト。大人げなくて恥ずかしいからね」


 結局レオナルト様の戦いを見ることなく、一行はダンジョンの先へと進むのだった。


 それから小一時間ほど歩いただろうか。

 長い通路が終わり、広々とした空間が姿を現した。

 中央の床には魔法陣が彫られている。


「さあ、着いたぞ! 諸君、ここがこのダンジョンの最深部だ!」


 レオナルト様が振り返って、得意げに腕を組んだ。


「着いたと言われても……魔法陣があるだけで、何もないんすけど」

「今はそうね。でもここは魔界の入り口なのよぉ。しかも、魔王城のすぐ側のダンジョンにつながる、危険度MAXな場所」


 衝撃の言葉に、生徒たちの中から小さな悲鳴が聞こえてきた。


「ははは、安心したまえ。今はこのとおり封印されている。もしこの入口が開いていたら、もっとやばいモンスターがうろついてたところさ。もしかしたらこのダンジョンの結界すら通じない、強力な魔力と知恵を持った魔族までもが出入りしてしまうかもね」


 魔王城へと続くダンジョンのことは、おとぎ話で読んだことがあった。

 かつて初代勇者が魔王と戦い、勝利した場所。

 ラストダンジョン、とおとぎ話には書かれていた。

 ここが、その入り口だったんだ。


「じゃあ、さっそく始めようか。そうだなぁ……。じゃあ、リヴィアス君。ちょっと手伝ってくれるか?」

「え? 俺ですか?」


 いきなり名指しされて、つい声が裏返る。


「ああ。キミが最も適任だ。鍛え上げられたキミの魔力が必要なのさ」


 いきなり俺なんかが勇者様の役にたてるなんて!

 案の定、アレックスが睨んでいるのは気になるけど、嬉しさが勝ってしまっている。


「あの、何をすれば……」

「魔法陣の中心に立ってくれ。それだけでいい。あとは私に任せなさい」


 俺は指示に従い、床に刻まれた魔法陣の中心へと移動した。

 振り返ると、レオナルト様がにっこり微笑んだ。

 その側にいるエノーラ様とヴァンサン様も口角が上がっているが、なぜかそれは笑顔というより薄ら笑いに見えた。


「我が光よ、闇を裂きその扉を閉ざせ。犠牲を捧げ、聖なる枷を刻み込め……」


 レオナルト様が印を結んで詠唱する。

 すると、魔法陣がうっすら光りだした。


「え?」

「セイクリッド・バインド!」


 その瞬間、魔法陣から光の柱が一気に立ち昇った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る