第6話 ラストダンジョンでの出会い
徐々に目が慣れてきて、あたりが見えるようになってきた。
ここはおとぎ話に登場した魔界の、魔王城へと続くラストダンジョンなのだろうか。
あたりを見回してみる。
洞窟のような場所だが天井は見えないほど高く、とても広い空間にいるようだ。
一応、まったくの暗闇というわけでもなく、ちゃんと壁や岩を目で見ることができる。
恐怖でドキドキしてきた。
ここには、超強力なモンスターがウヨウヨいると言っていたけど……。
戦う術も持たない俺に、生き残れる可能性はあるのだろうか……。
いや、生き残るんだ……。
死んでたまるか!
あいつらに復讐するんだ!
とにかくここを移動しよう。
もしかしたら、出口が他にあるかもしれないし。
そう思った瞬間、バッサバッサと大きな羽音が聞こえてきた。
ものすごい風に、吹き飛ばされそうになる。
「グルルルルル……」
羽音のする方を見上げて絶句した。
翼の生えた巨大なドラゴンが翼を大きく羽ばたかせながら、ギョロっとした目を俺に向けていたのだ。
やっぱりここは、おとぎ話にあったラストダンジョンなんだ。
それにしたって、いきなりドラゴンはないだろ!
しかも完全に俺を獲物として認識してる、そんな顔にしか見えない。
震える足をじりじりと後ろへ動かす。
死にたくない……死にたくない……。
「死にたくない!」
叫びとともに、走り出した。
「ゴアアアアァァ!」
ドラゴンの咆哮で、激しい風が巻き起こる。
俺は吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がった。
それでも素早く立ち上がり、必死に逃げた。
後ろからは巨大な羽音が鳴り響き、俺を追ってきている気配を感じた。
あれだけ大きなドラゴンだ。
きっと小回りが利かないに違いない。
そう考えて、素早く岩陰に身を隠す。
ドラゴンはそのまま通り過ぎたが、すぐさま旋回してこちらに軌道修正してきた。
逃げるしかない!
とにかく逃げて逃げて、生き延びるしかないんだ。
俺を利用するためだけにひどいことをしてきた人間どもが!
俺の本当の親の仇が!
あんな奴らがこのままのうのうと生きているなんて、我慢ならない!
ドラゴンに背を向けて、再び走り出す。
しかし、なんてことだ。
正面には数体のモンスターがいた。
二足歩行の巨大な骨組みのようなバケモノだ。
しかもデカい!
五メートルはありそうだった。
そのうちの一体が、こちらに気付く素振りを見せた。
くそ!
クソクソ、なんてひどい人生なんだ!
神はいないのか。
いや、神は人間にひいきしてて、家畜扱いの俺なんか眼中にないんだ。
それでも俺はあきらめきれず、方向を変えて逃げ回った。
とても長く逃げ続けていた気分だったが、実際には一分もたっていなかったかもしれない。
ついに俺は気味の悪い巨大な骨組みのモンスターどもに囲まれて、壁際に追い込まれた。
その後方からはドラゴンも向かってくる。
「死にたくない! 死んでたまるか!」
魂の叫びと同時に、突然ドラゴンが爆発した。
「え?」
いったい何が起きたのか……。
黒焦げになったドラゴンが、頭から地面に落ちて地響きを上げる。
「ふふふ……気に入ったぞ。おまえのような者がここに来るのを、長年待っておったのだ」
女の子の……声?
にしか聞こえないが、なんだ?
俺を取り囲んでいたモンスターたちが、おびえるように逃げ出していった。
モンスターがすべて四散し、一人の少女が姿を現す。
銀色のロングヘアが背中まで流れ、頭には大きくて黒い角が生えている。
漆黒のマントを羽織っていて、立ち振る舞いも権威にあふれているように感じた。
だが、俺よりも年下にしか見えない少女だ。
「最後まで生への執着を捨てない。そなたの覇気、見事であった。これまでここに来た者は早々に絶望し、抗うことを放棄する連中ばかりであったからな」
「か……神様?」
「ふむ……神には違いないな。もっとも余は、魔界の神を名乗る者。かつて、魔王と呼ばれていた存在だ」
「ま、魔王だって? もしかしてあなたが、おとぎ話にでてきた魔王ゼイン?」
「いかにも、余が魔王ゼイン。ふふふ、何を驚いておる……ここは魔界。魔王がいてもおかしくはなかろう」
いや、そうじゃなくて、どうみてもかわいい女の子にしか見えないんだけど。
おとぎ話に出てきた魔王のイラストは、もっとおどろおどろしい姿だったような。
「とは言うても、今の余は魂のみの存在。数百年前の勇者との戦に敗れ、肉体を滅ぼされた身なのだ」
「で、でもさっき、ドラゴンを倒したんですよね。あれ、あなたがやったんですよね。肉体がないのに、どうやって……」
「侮るでないぞ。魂だけの存在でも余ほどの魔力があれば、あの程度のモンスターに遅れを取ることはない。むしろ生前の威力を思えば、悲しくなるほど弱体化したのだ」
それが本当だとしたら、魔王はとんでもない魔力の持ち主だ。
それに打ち勝った初代勇者って、いったいどれほど強かったんだろう。
「して、おぬしは
そう言ってゼインが、俺の頭を指さす。
「その帽子……不快な魔力を放っておる。魔属性の魔力を抑え込んで操作する代物であろう」
な、なんだって?
くそ!
そういうことだったんだ!
父と思っていた親の仇。
だけどこの帽子をプレゼントされたことが、妙に俺の心に
ひょっとしたら父と思っていたあの男は、ほんのわずかにも俺への愛情が芽生えていたんじゃないかと。
愛情とまでは言わなくても、同情くらいはあったのかと。
だが、そうじゃなかった。
帽子はプレゼントなんかじゃなく、俺の魔力を押さえつけて、暴走や反抗をさせないためのものだったんだ。
そんなもので愛情の飢えをごまかしてきたなんて。
俺はバカだ!
帽子を脱いで、地面に叩きつける。
これでハッキリした!
今の今まで他人にされてきたことはすべて、俺が人間どもに利用されるためだけに行われたものだったのだ。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。世間話をするために、おぬしを助けたわけではないのでな。実はおぬしにお願いがあるのだ」
「お、お願い?」
「単刀直入に言おう。おぬし、魔王となって外界を支配するという余の野望を、引き継ぐ気はないか?」
一瞬、耳を疑った。
俺はただの人間だし、ここのモンスターどころか地上の弱いモンスターにすら勝てるかどうか。
「まあ、すぐに返事をくれとは言わぬ。まずは、これを受け取れ」
魔王ゼインが手のひらを俺に向けてきた。
すると、俺の体が数秒ほど紫の光に包まれだした。
「では、余は少々この場を去る。地上でいうところの一日ほど時間が経ったのち、また会おう」
「え? ちょっと待ってください! ここであなたがいなくなったら、俺は今度こそ死んでしまいます!」
その言葉もむなしく、魔王ゼインはスゥーっと姿を消してしまった。
マジか……一日だって?
ここに来て数分で死にそうな体験をしたというのに、あと一日。
生き残れるだろうか。
とにかく、ここにずっといても仕方がない。
どこか安全そうな場所はないだろうか。
あたりをきょろきょろ見回してから、俺は歩き出した。
しかし、案の定じゃないか!
来た来た来た!
あの不気味な骨組みモンスターだ!
骨のくせに、俺が一人になったことを察知したようなタイミング。
鼻が利くのか、耳がいいのか、勘が鋭いのか。
とにかく逃げなきゃ!
俺はモンスターを背にして走り出した。
「え? な、なんだ?」
ものすごく速い。
一歩踏み込むだけで、とんでもない加速がつく。
まるで自分の体じゃないみたいだ。
試しに上へジャンプしてみた。
「な! どうなってるんだ?」
あのモンスターの頭上より、はるかに高いところまで飛び上がっている。
もしかして、さっき魔王ゼインが何かしたからか。
その考えがよぎった瞬間、魔法が使えるような気がした。
なぜかはわからないが、ゼインがドラゴンを撃墜した魔法が頭の中に浮かんでくる。
「ダークフレア!」
無意識にそう叫び、空中から骨組みのモンスターたちへ手のひらを向ける。
すると、黒い球体が手のひらから飛び出していった。
その球体がモンスターの群れの中心で、爆発を巻き起こす。
爆発の煙が晴れ、数体ほどの骨組みモンスターが破裂した状態で転がっているのが見えた。
「俺が……やったんだよな……」
地面に着地し、自分の両手を見やる。
顔を上げると、今度は数体のドラゴンまでもがこちらに向かってくるのが見えた。
だが、さっきとは気の持ちようが全然違う。
もう負ける気はしない。
「ふふふふふふ……。くっくっく……。あっはっはははははは!」
自分の笑い声なのに自分じゃないような、不思議な笑いが込み上げてくる。
できる!
この力があれば、あいつらに復讐することができる!
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