011:「冬物語(Ⅳ)「愛衣の祖父母」」//aid point2

 久しぶりに真理亜さんと同じシフトになった。二人の関係は公には出来ない、当然と言えば当然だが。

 俺はニヤけそうしなる顔を必死で真顔に固定する。


 制服姿の真理亜さん、まさに天使の如く輝いていた、相変わらず人気者だ。


 真理亜さんがシフトに入る日は店舗が激混みになるという都市伝説が生まれた。

「綾一君、オーダー大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「三番テーブルの準備を願いします」

「了解しました」


 まだ一ヶ月位しか働いていないと言うのに真理亜さんはバイトの中心として活躍していた。とても優秀である。大変そう。俺も全力でサポートしなきゃ。


 二人の息も合っている。勘の良い奴等ならば二人の関係性が変化している事に気付いてしまうかも知れない。

 俺はチョットしたスリルを満喫していた。


 今のところは大丈夫。同じシフトに入ることも希だ。だけど……発覚ばれたら俺達の関係はどうなってしまうのだろうか?

「いらしゃいませぇ」


 中年? いや老夫婦といった雰囲気の二人が入店してきた。服装から見ても地元民だろう、大分くたびれている様子だ。それにしても……


 平日の夜、忙しさのピークは過ぎていた。静かな店内。客も数名ほど。


 たまたま俺が夫婦の接客を担当することになった。

「こちらの席にお座りください」


 夫婦を席に案内する。

「ご注文がお決まりになりましたら……」


 俺が注文を聞こうとした時、いきなり夫の方が話しかけてきた。

「あの……このファミレスに「國杜真理亜」が務めていると聞いていたのだけど」


 いきなり真理亜さんの事を?

「申し訳ございません、アルバイトの個人情報をお教えすることは出来かねますので」

「俺達は関係者、愛衣の親族だ。國杜真理亜にここに来るように言ってくれ」


 少しだけ声を荒げる夫。不安そうな表情の妻、動揺している。

「……」


 愛衣ちゃんの? 俺が一瞬沈黙すると。

「ああ、悪いね。君には関係無いことだ」


 夫は作り笑顔で誤魔化した。何か焦っているのか?



 いきなり現れた謎の夫婦。どうやら真理亜さんの知り合いらしい。

「ではこちらへ」


 夫婦は店長の計らいでスタッフルームへ。休憩室に通す、いきなりバイト先に押しかけるなんて非常識な奴等だ。


 休憩時間、真理亜さんもスタッフルームへ。プライベートな話しなのだろう、部外者は外に出る。


 俺が中の内容を知ったのは、彼等が帰宅した後の事であった。



「久しぶりだな、真理亜さん。五年ぶりか。益々美人になったな」

「世間話をしにバイト先に押しかけてきたのですか?」

「悪いが國杜の所には行きたくないのでな。あの老人にはこっぴどく説教されたしな」


 真理亜さんは何時ものゆるふわな雰囲気は消え、かなり緊張していた。

「どの様なご用件でしょうか?」

「どうもこうもない。愛衣を引き取ろうと考えている、あの娘は俺達の孫娘だ」


 真理亜さんを見つめる夫婦。夫妻……愛衣ちゃんの『祖父母』が話を続ける。

「娘は……愛衣はモノではありません。いきなり現れその申し出は少々身勝手過ぎるのではありませんか?」


 落ち着いた様子の真理亜さん。それでも手が震えている。彼等が来ると言うことは愛衣ちゃん絡みでしか、親権問題でしか有り得なかったのだ。


 妻の方が真理亜さんに話しかける。

「真理亜さんはまだ大学生、しかも来年には就職じゃないですか。子持ちで就職なんて大変でしょう、採用してくれる企業だって少ないし、まだ若いんだから……」

「良いのです、わたしが決めたことですから」


 だが、祖父母は食い下がった。

「あの時は色々あって孫娘、愛衣の養育をに任せてしまった……だが今は俺達の生活も落ち着いてきたし、娘の……メイの娘を引き取れる余裕が出来た」

「…………」

 赤の他人、その言葉は真理亜さんにとって途轍もなく重い一言だった。



 愛衣ちゃんは真理亜さんの実の娘では無かった。



「愛衣は「メイ」の娘だ。あいつが……メイが死ぬ直前、真理亜さんに娘を託すと言われたから仕方なく……だが、もう五年が過ぎた。そろそろ本当の家族の元に孫娘を帰しても問題ないとは思わないか?」


 妻の方が話を続ける。

「真理亜さんのお爺さんも入院中だって聞いているわ。子育てと介護なんて絶対無理でしょう、別に愛衣ちゃんを貴女から取り上げる事なんてしないから……ねっ」


 真理亜さんが泣きそうになっている。だが、二人は愛衣ちゃんを引き取る要求を取り下げようとはしなかった。

「愛衣ちゃんの……愛衣の意思だってあります。それに今後の事だってちゃんと話し合わなければならないと思います」


 その場では真理亜さんは「祖父母」夫妻の申し出をキッパリと断る。

「今回は引き下がらないからな」


 帰り際、愛衣ちゃんの祖母夫婦、夫はそう吐き捨て帰って行った。

「…………」


 祖父母夫婦を見送る真理亜さん。目に涙が溢れていた。バイト先では俺達の関係は秘密、ただのバイト仲間として真理亜さんを遠巻きに見ている事しか出来なかった。


 ******


 その後愛衣ちゃんの祖父母達は親権を取り戻したいと、しつこく真理亜さんに迫る。話し合いは何回も続いた。




 結論から語ろう。愛衣ちゃんは「祖父母」に引き取られることになった。真理亜さんは最後まで反対したが。本人、愛衣ちゃんがそれを望んだのだ。


 何故愛衣ちゃんがそれを望んだのか……それは、あまりに賢すぎるからだ。

「もう、マムは呪われていない。マムは自由。そう伝えて」


 愛衣ちゃんは自分が真理亜さん(ママ)にとって負担である事を知っていた。自分がいなくなれば真理亜さんが自由になれる事を知っていた。

 それ以上に、自分が真理亜さんの本当の子供では無い事も知っていたのだ。


 もしかしたら「俺との結婚」の話しすら…………いや、間違い無く真理亜さんの負担を減らしたいという願いからだったのだろう。



 愛衣ちゃんが「祖父母」に引き取られる日。雪が降っている。真理亜さんはこの場にいない、別れる事が辛すぎるのだ。部屋に閉じこもる。

「愛衣ちゃん……」


 俺一人で愛衣ちゃんを見送る。愛衣ちゃんの決断は間違っている。そう思わずにいられない。もし、愛衣ちゃんと真理亜さんが本当の親子では無かったとしても、俺はずっと見ていた。二人は本当の親子と変わりない、素敵な親子だった。

「俺は」

、ういとずっとママゴト遊びしてくれてありがとう」

「……愛衣ちゃん」


 愛衣ちゃんはとても賢い。だから「俺との結婚」もお飯事(ママゴト)にして、終わりにしようと考えていたのだろう。

「うい、ワガママばかりいってごめんね」

「そんな事無いよ」


 愛衣ちゃん祖父母、妻は何とかその場を取り繕うとする。

「もう会えなくなるわけじゃ無いから……ねっ、ね」

「早くしろ! 行くぞ!」


 祖父母、夫の方は車に乗ったままイラついている。この夫妻に愛衣ちゃんを託して良いはずが無い。なのに。


 現在の俺は「部外者」と言う立場だ。この話し合いに、家族の意思に関わる事は難しい。そして今この状況は御老人から託された「約束」を果たす時じゃない。


 俺は愛衣ちゃんに問いただした。

「愛衣ちゃん、本当にこれでいいのかい?」


 真っ直ぐ前を見つめる、愛衣ちゃんは制服姿、三つ編みまんまる眼鏡。表情はよくわからないけど。多分、俺の事を見つめ返してくれているだろう。


 現実リアルには都合の良いラストシーンは用意されていない。

「愛衣ちゃん?」


 愛衣ちゃんを見つめる。今俺はどんな表情かおしているのだろうか?

「うい、かなしくない。うれしいの」

「うれしい。何故?」


 愛衣ちゃんの隠されている表情は解らない。無表情のまま俺の問いに答えた。

「お兄ちゃん、「月兎」の絵本、覚えてる?」

「ああ」


 俺は愛衣ちゃんがよく読んでいた絵本「捨身月兎」を思いだした。焚き火に自身を捧げた兎。だが聖者に自身を捧げた兎は幸せな人生だと言えるのか? 

「ういはね、兎はとっても幸せだったと思うの。だって大切な人の為に尽すことが出来たんだもん」

「……」

「お兄ちゃんはどう思っているの?」


 愛衣ちゃんの問いに俺は答えた。

「愛衣ちゃんは真理亜さんの事が本当に好きなんだね」

「うん、大好き」


 愛衣ちゃんはとても賢い女の子だ。でも無力で小さな子供が自らを犠牲にするなんて選択はさせちゃいけない。

「愛衣ちゃんと真理亜さんは一緒に暮らす方がいいと思う」

「違うよ」


 無表情なまま他淡々と語る愛衣ちゃん。

「子供がそんな事を言っちゃいけない」

「うい、子供じゃ無いよ」

「違う! 子供だ! 愛衣ちゃんは子供だよ!! 小さな女の子だよ。愛衣ちゃんは……子供はワガママ言って親を困らせなければいけないんだよ。笑って、泣いて、親を困らして、迷惑かけて……親子ケンカして、怒られて、そして……そしてずっと一緒に生きて行くんだよ、子供が親にしてあげられる事だと思う」


 愛衣ちゃんの表情はよくわからない。

「ごめんね、お兄ちゃん。ういは子供でいたくないの。お兄ちゃんのになりたくないの。教えてダーリン。うい、あと何年待てば本当のお嫁さんになれるの」


 五歳児が俺よりもずっと年上の大人に感じた。切なさを感じた。それでも俺は叫んだ。

「愛衣ちゃん! ダメだ」

「お兄ちゃん。ういが大人になったら迎えに来てね、お願い」

「……愛衣ちゃん」


 愛衣ちゃんは何時も無表情、でも少しだけ微笑んでいたような気がした。

「またね」


 祖父母の車に乗り込む前。振り返る愛衣ちゃんは一筋涙をこぼした。

「まだ……愛衣ちゃんはまだ子供で居て欲しい……なのに」


 俺は「傍観者」として親子の悲しい離別物語ストーリーを読み続ける事しか出来ないのか。



---------------------------------------------------------------------------☆☆☆---♡-------

【AID POINT2】

「百恋物語 ~ストーリーズ~」


 011:まで読んでいただき本当に!! 本当にありがとうございました。

 週一連載でここまで読んでいただけた。感謝の限りです。


 是非是非コメントしていただけますよう宜しくお願い致します。


 物語はここから大きく変化、ミッドポイント、佳境へと突入していきます。

 愛衣と真理亜さんを苦しめる祖父母。

 これからどう展開していくのか!?



 まずは、お楽しみいただけたのか?


 読みやすかったのか?


 気に入ったキャラはいたのか? どんなキャラが見てみたいのか?


 この作品のレビューをお願い致します。


 

 評価・質問疑問・ご意見・ポイントを設定した方が良いとの判断から、切りのいいエピソード終了の最、補給所(aid point)を設置しようと思いました。

 ☆☆☆・♡・ご意見・更に熱い罵倒(?)を賜りますよう。宜しくお願いします。


                       QUESTION_ENGINE









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