第8話 虎に育てられた赤子(紀元前700年頃? 楚)

 荘王(そうおう)の即位よりも、100年ほど前のことでしょうか。


 その頃、に若敖(じゃくごう)という王様がおりました。

 若敖じゃくごうの息子である闘伯比(とう・はくひ)は、幼い頃に父を亡くし、母の実家である鄖(うん。地名。䢵とも。小国?)で育てられました。


 しかし成長して年頃になると、伯比はなんと鄖子(うんし。読み方注意。うんの国主?)の娘とできてしまい、しかも子供までできてしまったのです(上手いこと言ったつもりか)。

 娘の母である鄖子うんし夫人はこのことを恥じ、孫が産まれると南の雲夢沢(うんぼうたく。昔、今の湖北省から湖南省にかけて存在した大湿地)にてさせました。


 その後鄖子うんし雲夢沢うんぼうたくへ狩りに出かけたところ、草むらの中に驚くべきものを見ました。なんと、虎が人間の赤子に乳を与えていたのです。


 こりゃまたとんでもないことだ、とうんに帰った鄖子うんしが夫人に出来事を話すと、夫人が顔をしかめて言いました。

「あれはうちの娘が伯比とちちくりあって産んだ子ですよ。恥ずかしいことですから、雲夢沢うんぼうたくてさせたのです」


 娘が妊娠して子供を産んだことは鄖子うんしも知ってたでしょうに、孫の姿が見えないことを疑問に思わなかったのでしょうか。実におおらかな時代です(そうかなあ)。


 ともあれ、話を聞いた鄖子うんしは再び雲夢沢うんぼうたくへ向かい、赤子を連れて帰りました。

 楚の方言では「養う」ことを「穀(こう)」といい、虎を「於菟(おと)」といいます。そこで鄖子うんしは孫に「虎に養われた者」――「穀於菟(こうおと)」と名付けました。

 また、娘を正式に伯比の妻としました。……夫人はどんな心境だったのでしょうか。


 闘穀於菟(とう・こうおと)少年は成長すると字(あざな。正式な名前とは別に名乗る通称)を子文(しぶん)と名乗り、楚に仕え、令尹(れいいん。宰相)にまで出世しました。


 紀元前664年、子文は令尹れいいんになると、家財を投げ出して国の危機を救いました。そのため、すっかり貧乏になってしまいます。

 そこで当時の楚王は子文の俸禄を増やそうとしました。しかし子文はそのたびに令尹れいいんを辞めて下野げやしてしまいます。なので仕方なく命令を取り消すと戻ってきました。

 こんなコント、もといこんなことが何度も繰り返され、ついに楚王は諦めたということです。


 こういう清廉な人柄から民衆に慕われ、一方で楚に服属しない周囲の小国を滅ぼし領土を拡げました。


 これらにより、子文は「春秋戦国時代」(前770年~前221年)において、歴代の令尹れいいんの中でも名宰相の代表格と言われるほどの名声を博したのです。

 子文のおかげで、若敖じゃくごう氏は王族(過去の楚王から枝分かれした一族)の中でも最大勢力となったのですが、かえって荘王からは目の上のたんこぶとなってしまったのです……。



※どうでもいい呟き

 春秋左氏伝より、子文が令尹れいいんになったのが前664年。引退したのが前637年。その後、前633年までは記述あり。

 楚についての最も古い記述は、前706年。

 当時の楚王は、若敖じゃくごうの孫で荘王の高祖父にあたる武王ぶおう。伯比は存命。伯比が若敖じゃくごう最晩年の子供なのは確かなので、甥の武王とそれほど年齢は変わらないのかも。


 そして史記によれば、若敖じゃくごうの在位は前791年(春秋時代が始まる二十年前……)から前764年(子文が令尹れいいんになるちょうど100年前)。

 武王の在位は前741年から前690年。


 ……えーっと?(思考が停止した模様)

 在任期間から、子文は三十歳前後くらいで令尹れいいんになったイメージだったけど、「荘王の即位よりも100年ほど前」ってレベルじゃねーぞこれ。


 逸話の通りとしたら、子文は伯比が十代半ばくらいの子だろう。

 まず前706年当時で伯比は何歳だ? 幼い頃に若敖じゃくごうが死んでるから、前770年頃の生まれと考えても六十代半ば? そうなると子文は五十歳くらい?


 で、前664年まであと四十二年。そこから少なくとも三十年ほどは生きている。


 ……。

 …………。

 \(^o^)/オテアゲ

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