「俺が悪いんです。喧嘩って言うんでもなかった。彼が、俺に愛想つかしたってだけ。俺が、重すぎたんです。家族との縁は、ゲイだってばれて切れてる。友達も、ゲイばれするんじゃないかと思って作れない。ほんとに、そいつだけだったから。」

 白いシャツに黒のエプロン姿でカウンターの向こうに立つ慎一郎さんが、俺の人生に全然関係のない人だから、そして、これから関係ができるとも思えない人だから、自分の内面なんて語れたのだと思う。そうでなくては俺は、ずっと亀みたいに首をすくめて、なにもかもをやり過ごすことしかできなかった。そしてその態度がずっと恋人を苛立たせていて、今夜、その苛立ちはピークに達したのだろう。

 「亮輔は重すぎる、付き合いきれない、って言われました。」

 また、涙が少し出た。彼だけだった。大学の同期で、ゲイであることを隠しもせずに、自分の魅力をよく承知し、性的にも奔放にふるまっていた彼。あんたもゲイでしょ、と、ひとけのない校舎裏で言い当てられ、そのままキスをした。その後は彼の部屋に移動して、身体の関係を持った。多分彼は、それだけのつもりだったのだと思う。俺と付き合うつもりなんてなかった。それでも俺が、縋ったから、みっともなく縋って、愛情を乞うたから、お情けで付き合ってくれた。そのままずるずる関係が続いて、もう5年になる。その間に、彼がしばしば他の男と寝ていることくらい、馬鹿な俺にも分かっていた。それでも、構わないと思った。俺には彼しかいなかったから。その縁が、今日切れたのだ。

 そんなようなことを、俺は途切れ途切れに慎一郎さんに訴えた。慎一郎さんは、静謐な表情で俺の話を聞いていた。懺悔を受ける神父みたいだと思った。

俺が一通り感情を吐き出し終えると、慎一郎さんは今日の雪くらいしんと静まった声で、珈琲が冷めてしまいましたね、と言った。そして、俺が遠慮をする前に、手際よく珈琲を入れ替えてくれた。

 「……ありがとう、ございます。」

 ぎざぎざに荒れた心の中に、慎一郎さんの親切は痛いくらいに染み入った。慎一郎さんは、いいえ、と首を振って、今日寝るところはあるんですか、と訊いてきた。俺は、素直に首を横に振った。なにもかもを、恋人と住んでいた部屋に置いてきていた。

 

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