第48話 俺と彼女の運命

【スキップした方向けのおさらい】


 浚われたダスティンは、男体化したクラウディアに襲われます。その時、婚約中の不誠実な態度を責められ、知らないうちに彼女を傷つけてきた……と、ダスティンは胸を抉られます。


 ギリギリのところでダスティンは逃走に成功し、リオと合流します。その時、改めて恋を自覚したリオとキスを交わし、恋の聖剣が生まれます。


 恋の聖剣でクラウディアと互角の戦闘をしたところで味方が援護にやってきます。去り際に、クラウディアは「次に会った時はあなたの首をもらいます」と言ったのでした。

----------------------------------------------------------------------------


 宿に帰り、今回の騒動を団長と姉ちゃん、バイロニーの二人、そしてハンゾーさんへ話した。


「次に会う時は首を取ると言われたのですね?」


 ハンゾーさんは厳しい顔でそう言った。


「クラウディア嬢――というより、チャンドラー公爵家が王家へ仇為あだなすという意味に取れます」


「……それはどうだろう。傍から見て、俺は王家の爪はじきものでしょう。父上もアレックスも、俺を邪魔に思ってるっていうのが定説のようだし、俺個人を殺すという意味ではないかと」


「そう思いたいのでしょうが、それは違います。あなたは王家のれっきとした第一王子。あなたを害することは、王家に仇為すことを意味します。あなたは王太子殿下の右腕です」


 本当にチャンドラー家が王家を裏切るのだろうか。確かに、チャンドラー公爵は、王家を侮っているようにも見受けられる。いつでも取って代わってやるという意思も見えるが。


「そもそも、バイロニー殿を狙っているのも、イバキラ王国のヒルダ公爵に恩を売るためです。そんなことをしてなんの得になるのか、といえば、謀反を起こす際の援軍を得るためです」


 無意識に拳を握りしめていた。クラウディアに言われた言葉、ひとつひとつを思いだしていた。首すじを噛まれた痛みも消えない。


 俺は長年彼女を傷つけていた。もうわかりあえないのだろうか。


「ダスティン、国に戻りなよ。僕だけで大丈夫だよ」


 団長にそう言われても頷けない。またクラウディアは、バイロニーを狙うかもしれない。というよりあの様子では、団長にも憎しみを募らせている。


 それに、仮にチャンドラー家が謀反を起こしたとしても、俺にできることは少ない。


「王太子殿下に命じられた任務を途中で放棄するわけにはいかないが、副官数名を国元に帰らせて今の話を王太子殿下へ伝えます」


 ハンゾーさんは俺にそう言った。


 最近では、父に代わってアレックスが指示出しをしている。アレックスが実質的な国のトップとなっている。


「王太子殿下へよろしくお伝えください」


 国元へ帰る隠密の人へ頭を下げた。



◇◆◇



 みんなが部屋から去った後、窓からずっと月を眺めていた。繰り返し繰り返し、クラウディアから言われた言葉が蘇る。


 初めて会った時、嬉しそうに笑っていたクラウディア。一緒に王宮の薔薇園を散歩して、薔薇の花ことばを教えてくれた。


 それなのに、俺は彼女を恐ろしい女だと恐怖心を募らせて、会話が頭に入ってこなかった。気もそぞろな俺に、彼女は心底失望しただろう。そんな俺を好きになってくれたのに――。


「ダスティン、まだ気にしてるの?」


 団長が俺に寄り添ってくれた。


「俺、最低な婚約者だったんです。彼女に怯えてばかりで、彼女のことを好きになる努力をしなかった。いいところを見ようともしなかった。酷く傷つけた。彼女が闇落ちしてるのも俺のせいなんです。お尻くらい好きにさせてやってもよかったかもしれない」


 込み上げた涙を乱暴に拭うと、団長は俺の頬をつねった。


「彼女が暴走してるのは、彼女の責任。もう大人なんだから、自分の行動を誰かのせいにするのはおかしい。他人の行動を自分のせいだと思うのもおかしい」


 つねった後は優しく頬を撫で、頭を撫でてくれる。可愛い団長が甘い微笑みを向けてくれる。こんな最低な俺なのに。


「団長……赤い薔薇が欲しいって彼女は言ったんです。赤い薔薇ってどんな意味があるんでしたっけ?」


 団長は少し迷いながら答えた。


「情熱とか愛情とか、そういう意味があって、好きな人にあげる花かな。プロポーズの時に、男性から薔薇の花束をあげるの。彼女は真剣にダスティンが好きだったんだね。でも、だからといってダスティンがお尻をあげるのは違うと思うよ」


 抱きよせられて団長の肩にあごをのせた。好きな人に抱き締められるのは、なんて甘美なことだろう。


「仕方のないことだよ。これが政略結婚の弊害なのかもしれないね。でも、今の君にできることは、彼女が謀反を起こすなら、討ち取る。シンプルにそれだけだよ。お父上や弟君を守るために、ね」


 そうだ。今は乱世だ。


 主家に忠実に、なんて絵空事。油断をすれば取って代わられる。それが俺達王家の宿命。


「わかりました。明日からはもっとしんどい修行を課してください。俺はまだ彼女に及ばない」


 聖剣の力を持ってしても、まだ足りない。彼女には主人公補正という、チョイ役にすぎない俺には超えられない力がある。


「そんなに背負わないで。僕がいるんだから。僕が君の上官なんだから、僕が彼女を討ち取るよ」


 しかし、団長の謎の刻印の力は、団長ではなく俺に影響を与える。聖剣も、俺が握れば圧倒的な桃色のオーラが放たれるが、団長だと何も起こらないのだ。


 クラウディアは俺が討ち取らなければならない。それが俺と彼女の運命のような気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る