第47話 恋の聖剣

「これは、あの忌々しい騎士団長の……っ」


 クラウディアも、前回のバイロニー襲撃を覚えていたのか、このオーラが団長から放たれたものだと感じたようだ。


「近くに来ているっていうの? 許せませんわ。あの女の前でダスティンを犯してやるわっ」


 ベルトを外し、ズボンを脱がせようとする。しかしその体勢チェンジは俺にとってもチャンスでもあった。馬乗りの姿勢が解除される。その隙にクラウディアを蹴りあげた。


 ズボンを奪われ、パンツ一丁のみっともない姿だが、最後の一線だけ守れればいいのだ。くるりと起き上がり、出口に向かってダッシュで駆ける。


「逃がさなくてよ!」


 クラウディアも追いかけてくる。クラウディアの部下と思わしき女も俺に立ちふさがるが、容赦のないとび蹴りをかけて失神させる。しかしそこで追いついたクラウディアに腕を掴まれた。思いっきり壁に叩きつけられる。


「ぐぅ……っ」


 一瞬、意識が飛びそうになった。クラウディアのムキムキの胸板が淡く扇状に光り始めた。真紅の一騎当千の刻印だ。


「大人しくなさい!」


 力が抜けそうになる身体を反転させられて、最後の砦であるパンツに手をかけられた。


「ついにダスティンの処女を手にいたしますわっ! あなたはわたくしのものになるのです!」


「嫌だってば!」


 頭突きがクラウディアの顎にかすかにヒットする。その中途半端な衝撃が功を奏し、軽い脳震盪を起こしたようだ。クラウディアがよろめいてうずくまる。


 慌てて起き上がり、砦を抜けて必死に走った。身体が吸い寄せられるようにある一点へ向かってる。俺にはわかる。身体のオーラが導いてくれる、力の源へ。


 馬の蹄の音が聞こえる。暗闇の中、桃色の光が見えた。


「団長ーーーッ!」


 団長は馬から華麗に飛び降りた。


「ダスティン……!」


 力強く俺を抱きしめてくれた。心なしか団長の身体が震えている。団長は嗚咽を漏らして泣いていた。


「良かった……ダスティン……! 生きていてくれて、本当に……」


「貞操もギリギリで守りましたからね」


 俺も涙が込み上げてきた。団長は剣で腕を縛っていた縄を切ってくれて、俺からも抱きしめることができるようになった。


「ダスティンが連れ去られた時、本当に怖かった……っ! 改めて思った。僕は君が好き。大好き」


 そう言って団長からキスをしてくれた。甘く温かな気持ちが伝わり、俺を覆うオーラの熱も高まる。高まった熱が俺の右手に集まった。


「え?」


 右手に一層濃い桃色のオーラが集まる。それが鉄製の塊になり、やがて一つの剣を形作る。


「うぇぇっ!? 愛のパワーで武器が生まれたっ!?」


 ピンク色に光る剣だ。この剣が俺を勝利へと導いてくれる気がする。


 そんな時だった。後ろから恐ろしいほどの殺気が迫ってくる。脳震盪から復活したクラウディアが鬼の形相で追いかけてきたのだ。


「おのれ、騎士団長! あなたさえいなければ……!」


 クラウディアは団長の姿を見て殺意を燃え上がらせる。


「え? 誰、この人?」


 半裸の筋骨隆々とした男を見て、団長はギョッとした。


「男体化したクラウディア嬢です」


「男体化!? そんなことできるの!?」


「さぁ……」


 剣を構える。団長にだけは手だしさせない。


「俺の課題――無駄な動きが多い、でしたっけ?」


 この剣があれば負ける気がしない。たとえ、無敵の女、クラウディアであっても。


「僕が――」


「いえ、俺が戦います。俺は男の子ですから、好きな人を守らせて下さい」


 そんな俺を見て、クラウディアが嘲るように笑った。


「ダスティン、あなたにそんな台詞、似合わないですわ。パンツ一丁ではありませんの」


「……ッ!!」


 そうだった。俺はパンツ一丁なのでした。恥ずかしい、が!


「あなただって半裸じゃないか!」


「半裸はまだセクシーですわ。あなたは単なるまぬけですけどねっ!」


 クラウディアが扇子を旋回させて襲いかかってくる。それを真っ向から受け止めた。受け止めた瞬間、桃色のオーラが放たれる。


「ぐ……この……っ!」


 クラウディアも扇子から真紅のオーラを放つ。二つのオーラがぶつかり、地面が抉れる。


 一旦後方へ飛びあがって下がり、再びクラウディアの喉元に向けて剣を突き出す。無駄な動きを一切せずに、仕留めたい。


 しかしクラウディアは華麗なステップでかわし、逆に扇子を俺の首元へ振りおろす。転がってギリギリでかわし、すぐに起き上がり剣を薙いで扇子の波状攻撃を跳ね返す。


 俺にはわかっている。純粋な腕ではクラウディアが上だ。でも気持ちでは上回っている。絶対に負けない。


 そんな時だった。団長が来た方角から多数の馬の蹄の音が聞こえる。味方の援護だ。


「ダスティン、最後に一つだけ聞きますわ。婚約期間中、一度でもわたくしを好きだと……思ったかしら」


 クラウディアは静かにそう語りかけてきた。


 こんな台詞を吐かせて、俺は本当に最低な婚約者だった。


「ごめん……本当にごめん。でも、今はあなたの強さを心から尊敬してる。あなたとちゃんと向き合って、友達になりたい」


 これが偽らざる俺の気持ち。


 クラウディアは泣いていた。その涙が俺の胸を抉る。


「わかりました。もう結構です。次にお会いする時は、あなたの首をいただきますわ」


 そう言って目くらまし爆弾を投げてきた。煙幕が去った時、彼女はどこにもいなかった。

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