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「ご存知の方もいるかもしれませんが
さて。そんな今や誰もが知る能都カンパニーですが、実は創立当初はただの金属を加工するだけの小さな会社だったのです。では、なぜそんな金属加工会社が今では多岐にも渡る事業を展開し成功を収めているかと申しますと、それは今から五十年前、研蔵様がとある孤島で金の鉱脈を発見なされたからです。そして、研蔵様はその島をまるごと購入致しました。そうです。その島こそ、これから皆様が行く
心霊島は沖縄県の四分の一くらいのとても小さな島。今はもう鉱脈から金を取り終え、島の中心部に位置する屋敷
美和さんの話に少なくともわたしは驚いていた。そんなすごい会社の社長である能都研司さんが、どこの馬の骨かもわからない雉間に依頼を出したことにだ。そっと盗み見れば手紙をくれた能都研司さんが社長という事実に驚いている人は誰もいなかった。どうやら有名な人なのね。
美和さんの話を聞いて、「ところで」という感じで広瀬さんが話を切り出す。
「確かに能都カンパニーという会社は僕でも知っていますが、さっき美和さんはこのクルーザーを『手配した』と言っていましたけど、このクルーザーの値段は見た限り二億八千万円ほど――」
言われた値段に思わず目を見開く美和さん。その反応からわかる。つまりは広瀬さんの言った値段はビンゴなのね。……それにしても、さらっと値段を言い当てるなんて流石鑑定士ね。
「――そこで聞きたいのですが能都カンパニーならこのくらいの船、わざわざ手配せずともいくらでも購入することができるのになぜ手配なのですか?」
広瀬さんの質問に美和さんは小さく頷いた。
「それはわたくしも、研司様も、千花様も、そして研蔵様も、誰も船舶免許を持っていないからでございます。確かに能都カンパニーの財力ならこのクルーザーは買えるでしょう。ですが、研司様も研蔵様も一度もクルーザーを買おうとはしませんでした。それには研蔵様が常日頃からこうおっしゃっていたからです。
『物はその価値のわかる人が持つべき。価値のわからない人は価値のある物を持つべきではない』と。
要は誰も運転ができないのにクルーザーを持っていても仕方がないということです」
美和さんがにこりと笑った。その笑みはまるで悟りを啓いた仙人のよう。
「それにこのクルーザーは本当に物の価値がわかる広瀬様のような方が持ってこそ似合うと思います。価値がわかっていればこのクルーザーも大切に扱われますしね。あ、ちなみに今このクルーザーを運転している方は、昔から我々が心霊島と本島を行き来する際にお世話になっている陽和観光グループの職員です」
なんと。
美和さんはさらっと言ったけど、陽和観光といえばと市運営の組織じゃない。私用に市までも巻き込むなんて、能都カンパニーに余程の財力があるのかコネがあるのかはわからないけど、それほどまでにすごい権力はあるのね。
「さて、それでは……」
すべての段取りが終わったのか美和さんは時計を見た。
「心霊島に着くまでの暇つぶしに、皆様にはわたくしの手品をお見せしましょう。こう見えてもわたくし実は昔マジシャンに憧れておりまして、アメリカのニューヨークで修業を積んだほどなんです。ささ、どうぞ宜しければ皆様あちらのバカラ台にお集まりください」
そうしてクルーザーが心霊島に着くまでの間、わたしたちはホールで美和さんの手品を見ることとなった。
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