7 クラス企画

 実行委員会は、テンプレ通りに役職を決め、実行委員長となった三年生の人が、配られたプリントをさらっと説明して終わった。

 そのもらったプリントというのは、A4用紙が五枚くらいホチキスで止まっていて、一枚一枚細かい文字で文化祭についての注意事項が書き連ねてあるという活字の読めない俺には目を通す気にもなれないものだった。

 けど、隣を見ると鳴坂さんは至極真剣な表情でそのプリントを読んでいた。


「うん、まあ大体わかったかな!」


「ほんとに?じゃあそのままクラスでの報告よろしく」


「任せなさいっ!」


 鳴坂さんはわざとらしく敬礼のようなポーズをとる。


「それより、海翔くんはわかった?」


「全然。俺理解力ないからさ」


「そんなこと言ってるけど、ほんとは目通してもないんでしょ?」


 図星だった。


「いいよ、もともとこういう作業は私が責任持ってやるつもりだったし。それに海翔くん役に立たなそう」


「うるさいな……」


 失礼な奴だ、と思った。


(それならなんで俺なんか選んだんだよ……)


 鳴坂さんの考えてることはわからない。

 けど今それについて問い詰めたところで、ろくな答えが返ってくるとは思えなかった。



◇◇◇



 翌日のLHRロングホームルーム では、予定通り鳴坂さんが仕切って、文化祭についての説明と、余った時間でクラス企画は何をやりたいかについて話し合いをした、らしい。

 らしいというのは、それが聞いた話だったから。

 HRなんていうのは、成績にも関係しないし、居眠りをするのに絶好の時間。

 俺の認識はそんな感じだから、俺は実行委員にもかかわらず、ほとんどの時間を寝て過ごした。


「……ので、…の…は拍……しま…」


 遠くで、鳴坂さんの声が聞こえてきて、ほとんど間を置かずに拍手が鳴った。


(なんか決まったのか…)


 ぼんやりとした意識が徐々に覚醒してきて、次第に周りのざわざわとした声がはっきり聞こえるようになってくる。

 俺はおもむろに黒板を見た。


 そして後悔した。


 黒板には、俺たちのクラス企画として、『コスプレ喫茶』と書かれていた。

 それだけならまだいい。

 問題はそのあとの議題で、接客担当についての多数決だった。


 シフト制で全員コスプレをやるらしい。


 多数決の結果であろう数字が、いくつかの候補の下に書かれていて、一番多かったその選択肢と、その次に票が多かった項目の票数が、たったの一票差だった。

 俺がもし後者に手を挙げれば少なくとも同数になって、今とは違うもう一つの選択肢、有志がコスプレをやることに収まったかもしれない。


(でもさ…こんな接戦になることってあんまなくない?)


 あきらめ悪く心の中でつぶやくが、目の前の結果は変わらない。

 そんなこんなで、俺は文化祭でコスプレをする羽目になった。

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君を救うためなら、俺は何度だって繰り返す 佳乃叶 @kanoto_0416

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