5 戦いの翌日

 1日ぶりの学校は、特に久しぶりというわけでもないのに、何故かひどく疲れた。

 昨日は1日中体がだるく、思考もままならなかったので、学校を休んだ。


 だから疲れたのかと言うと、そうではない。

 原因は別にあったのだ。


 昨日のほとんどは寝ていたから、初日とは一転、いつになく爽快な気分で学校に行った。

 でもそんな気持ちも長くは続かず、朝のホームルーム前、隣の席の鳴坂さんにあるものをもらった。


 俺のパーカーだった。


 その正体がわかった途端、冷や汗が止まらなくなった。

 鳴坂さんはこれが俺のパーカーだと知っていた。

 つまり、一昨日の夜の様子を見られていた可能性が高い。

 そこに爆弾発言。


「聞きたいことあるから、放課後残ってもらっていい?」


(……終わった。完全にバレてる)


 俺の脳内で終了のお知らせが鳴り響いた、気がした。


◇◇◇


 授業は、その言葉のせいでほとんど集中できなかった。

 せっかく今日は寝不足じゃなかったのに。


 でもそれに怒りを覚える気力もない。

 もう放課後のことで頭がいっぱいだった。


 放課後、殆どの生徒が部活に行ったり、帰宅したりして、教室にいるのは俺と鳴坂さんの二人だけになっていた。


「あのさ、もしかして海翔くんてさ」


 鳴坂さんがそう切り出したので、俺は全力で言い訳の言葉を探した。


 鳴坂さんは言っていいのかどうか悩んでるのか、しばらく口を開きかけては閉じる、という動作を繰り返した。

 その間、心臓の鼓動はどんどん早くなっていく。


「えっと……、なんか武術とか、やってたりする?」


「あ、いやそれは違くて……ってあれ?」


 用意していた言い訳を口走りかけて、ふと鳴坂さんの言葉の意味が俺の思っていたものと違うと気づく。


「昨日の夜こっそり見ちゃったんだけど、熊相手にすっごいきれいな背負い投げしてたよね!私今まであんなの見たことないよ」


「え、や、まぁ……?」


 戸惑いを隠せない俺の反応を違う意味に受け取ったのか、鳴坂さんは言葉を続ける。


「ん…、もしかしてばれるの嫌だった……?」


「……」


 一旦整理しよう。


 とりあえずは、俺の能力はばれてない、らしい。

 あの背負い投げも、俺本来の身体能力によるものだと思われている。


 …なら、それを利用させてもらうか。


「別に嫌ってわけじゃなかったけどさ、あんま言わないようにはしてるんだ。ほら、なんか見せびらかしてるみたいにならないようにさ」


 それとなく話を合わせてみる。


「なるほど、海翔くん頭いいね!じゃあさ、このことはみんなには秘密だね」


 そう言って鳴坂さんは人差し指を立てた右手を口元に寄せた。

 その仕草にわざとらしさは感じられず、むしろ可愛いとさえ感じた。


 それと同時に、俺はこの人を騙しているんだという自覚が、胸の奥を微かに痛めつけた。

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