第10話 必殺の拳
「そんな雑魚じゃ話にならない」
ウツロが差し向けた、特級怪異。
上級怪異“百体分”とも言われる化け物を、凪夜は一撃で
怒りを込めた拳の威力は、今までの比ではなかった。
「御神楽さんは、返してもらうぞ」
「……っ!」
それにはウツロも顔をひきつる。
また、驚いたのはウツロだけではない。
(いやいや師匠、雑魚って! 今の特級っすよ!?)
疾風も驚きを隠せなかった。
呪力の拳は自分に向けられたわけではない。
それでも、一瞬ゾクっと背筋が凍った。
(あんな化け物を一撃で祓うなんて、討魔師全体で何人いるか……)
疾風はごくりと
隣に立つ人物の恐ろしさを再認識したのだろう。
(やっぱりこの人は最強だ……)
すると、ウツロもようやく口を開く。
焦る気持ちを、笑いで
「はは、いきなり特級を祓うとは。さすがのボクも驚きましたよ」
「いや、別に強くはなかったんですけど……」
「……」
「……」
だが、すぐに口を閉じる。
ならばと、歯を食いしばったウツロは両手を上げた。
「チィッ!」
それと共に
「じゃあこれはどうですかねえ!」
「「「グオオオオッ!」」」
「「……!」」
一体がダメなら、物量で押すつもりだ。
怪異を操るその姿に、凪夜は確信した。
「お前だったのか! 街に怪異を出現させたのは!」
「ええ、そうです。ついでに前の
「……!」
「せっかく育てたのに壊してくれちゃって。後悔しても遅いですよ!」
邪悪な笑いを浮かべ、ウツロは手を前にやる。
その指示通り、怪異は一斉に凪夜たちに襲いかかった。
「「「グオオオオッ!」」」
「「……!」」
対して、凪夜と疾風は背中を合わせる。
「疾風さん、そっち側をお願いできますか!」
「了解っす!」
師匠からの言葉に、疾風は強くうなずく。
同時に、胸元からチャキっと二丁の呪力銃を出した。
「ここでやれなきゃ、弟子は名乗れねえ!」
「「「グオオッ!」」」
「オラオラあああああ!」
正確かつ十分な威力の二丁銃だ。
みるみるうちに、怪異は
その力は見事と言う他ない。
小さい怪異だけに限れば、凪夜よりも早いほどだ。
(師匠……!)
“早撃ちの疾風”。
彼はそう呼ばれ、九州では有名な討魔師だった。
だが、関東ではそれほど知られていない。
同年代に“凪夜”という、圧倒的な存在がいたからだ。
それが悔しく、かつての疾風は凪夜にライバル心を抱いていた。
(今思えば、師匠に勝ちたくて必死だった)
だが、凪夜を知れば知るほどに、その功績は
結果、凪夜を調べ尽くす過程で、大ファンになっていたのだ。
(だから今は、応えたい……!)
「この程度で苦戦してたら、弟子の名が折れてしまうっすよ!」
「「「グオ、オ……」」」
「討魔完了っす」
銃口から出た煙を、フッと吹く。
その前方には、怪異の姿はなかった。
(疾風さん、すごい……!)
素直に感心しながら、凪夜は前に出る。
疾風が切り開いてくれた道を、真っ直ぐ突き進むように。
「次は僕の番だ!」
「ぐっ!」
飛びかかってきた凪夜に、ウツロは両腕でガードする。
だが、凪夜は構わずに呪力の拳を放った。
「うおおおおおお!」
「こ、こいつ!」
両者の呪力は、
「がはぁっ……!」
凪夜のあまりの力に、ウツロが一方的にぶっとばされた。
(な、なんなんだ、こいつは……!)
凪夜の
右腕に
だが、その単純な攻撃は、理不尽なほどの呪力量で最強の攻撃と化す。
その必殺技の名は──。
「【呪力パンチ】」
「「「……」」」
だが、誰しもが思ったことがある。
全員の気持ちをウツロが代弁した。
「なんだそのふざけた名前は!」
「ぼ、僕だって言いたくないですよ! でも!」
対して凪夜は、カシラの言葉を思い出す。
────
とある日。
カシラは、凪夜に必殺技の修行をつけていた。
「いいか凪夜。必殺技名は、ただかっこいいから付けるわけじゃない」
「え?」
「その時の成功体験と結び付けて、
「なるほど……」
思ったよりまともな指導に、凪夜はうなずく。
だが、カシラはやはりカシラだった。
「ゆえに、直感的で分かりやすい方が良い。特にお前は頭が良くないからな」
「ひどい!」
「じゃあそうだな、それは『呪力パンチ』だ」
「だっさあ!」
──
「これは上司と作った必殺技なんです」
「……!」
「だから、負けられない!」
「……ッ!」
凪夜の呪力が上昇していく。
まずいと直感したウツロは、
「──【呪力パンチ】!!」
「「「グオオアアアアア!」」」
「……!?」
だが、盾にした怪異は消滅。
凪夜の右腕から放出された呪力が、全ての怪異を一撃で
「あなたの怪異は祓いました。もう手札はないはずです」
「……ははっ」
「?」
「あーはははははっ!」
対して、ウツロは声を上げて笑い始める。
なんとも不気味な笑いだ。
「そうですか、これなら討魔師は
「どういう意味ですか」
「これ、見たことありますよね」
「それは……!」
ウツロは一つのバッジを取り出した。
凪夜も疾風も見覚えがある物だ。
それもそのはず、バッジには“討魔連盟”と刻まれている。
つまり──
「あなたも討魔師だったんですか……?」
「ええ、そうです」
ウツロも元討魔師ということになる。
「じゃあどうしてこんなことを!」
「……ボクが逆に聞きたいですよ」
「え?」
「あなたたち、討魔師が裏でどう呼ばれてるか知ってますか?」
ウツロは、恨み辛みを持った眼差しで口にした。
「──
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