第2話 ノノケンは絶対に負けない


 日本。


 スクランブル交差点は、いつにも増して混雑していた。生中継されている『宇宙人 vs 地球人』のぽよぽよ決定戦。通行人はスクリーンに釘付けになっている。


 突如、乱入した『ぽよぽよ星人』。地球の危機が訪れたかと思いきや──




 ◆




 「おーっと、ここで対応!」


 地球代表は、世界チャンピオンである『ノノケン』こと、野ノ村ののむらケンゴだ。本人は「いやタッキーくんの方が強いでしょ」と抗議したが、そうはいかなかった。


 「グッ・・・・!」


 宇宙人の盤面フィールドに、致死量の『おじゃまぽよ』が降る。


 「これには宇宙人もお手上げだ!」


 実況席は、すでに対戦相手が未知の存在であることを忘れている。地球人は強すぎたのかもしれない。我らが『ノノケン』、たとえ宇宙人が相手でも臆さない。


 (形は綺麗だけど、仕掛けが遅いんだよな)


 野ノ村ののむらは見抜いていた。もしもこれが、過去のレギュレーション『ぽよぽよツー』での対戦なら、互角の勝負かもしれない。だが、現在のレギュレーション『ぽよぽよeスポーツ』は、『ぽよツー』に比べてゲームスピードが早くなっている。


 つまり、『ぽよぽよ星人』の戦術は、時代遅れなのだ。


 「この試合、どうですかタッキーさん」

 「そうですね。ノノケンさんの連鎖が、かなり安定しているので、この調子を維持できれば、地球は大丈夫だと思います。あとは連戦が続いているので──」


 瀧原たきはらに至っては、いつの間にか解説席に座らされている。


 「あーっと、今度は『つぶし』だ!」


 ──結果、50対24というダブルスコアで、地球陣営は勝利した。




 ◆




 「てか、『わたし達』とか言ってたけど、一人だったね」


 スクランブル交差点から、だんだんと人だかりが少なくなる。電信柱の近くでしゃがんでいた金髪ギャルは、アイスをかじりながら、呟くようにそう指摘した。


 「地球が勝ったから、ぽよぽよ星の土地くれるのかな?」


 話しかけられた黒髪ギャルは、素朴な疑問をていした。


 「たしかに。ウチら引っ越す?」

 「え、ぽよぽよ星?」

 「うん」

 「可愛いからアリかも」




 ◆




 「認めましょう、わたし達は負けました」


 宇宙人は、あっけなく敗北を認めた。


 「あのー、おれが地球代表らしいので聞くんですけど、これって勝った場合はどうすればいいんですか?」


 野ノ村ののむらが、司会のマイクを借りて発言する。


 「そもそも、これは侵略行為であり、あなた達の勝利とは、あくまで抵抗にすぎません」

 「よくわかんないんですけど、『ぽよぽよ星をくれる』とかはない?」

 「大胆な発言です」

 「まあ、欲しいわけじゃないんですけど、ルール的に」

 「ありません。その場合は、あなた達が、わたし達の惑星へ侵略行為をおこない、かつ、わたし達が負けなければいけません」

 「ぽよぽよ星ってどこにあるんですか?」

 「教える理由がありません。今、あなた達に攻められたら、確実に負けます」


 そりゃそうだ、と瀧原たきはらがはにかむ。


 「つまり、これは防衛戦であって、勝っても得るものがないと」

 「簡単に言うと、そういうことになります」

 「もしかして、ぽよぽよ星人が来るたんびにコレやるの?」

 「あなた、だんだん舐めた口調になってませんか?」


 宇宙人が、咳払いをする。


 「安心してください。わたし達の惑星から、この地球へ来るためには、それなりのリソースが必要です。だからこそ、侵略はコンパクトな設計が望ましい」

 「えーっと?」

 「つまり、侵略はビジネスであり、これは出張です。今この瞬間にも、わたし達より弱い惑星は、わたし達の属国になりました。属星、と言うべきかも」


 野ノ村が、首を傾げる。


 「ちょっとわかんないかも」

 「宇宙の歴史を話しましょう。文明は、有限な惑星資源を使い切ると、他の文明を侵略します。文明と文明が総力を尽くし争うと、それらは例外なく、両方とも滅ぶ。その過ちが繰り返され、歴史から学ぶことを理解しました」

 「はい」

 「侵略とは、主観的には支配ですが、客観的には統合です。戦争とは、主権がどちらにあるかを決めるだけの、ゲームにすぎません」

 「なるほど?」

 「破壊は、最も非合理的なゲームです。しかしながら、破壊は、宇宙の共通言語であったがために、あたかも合理的な手段として安易に採用されました」


 宇宙人は続ける。


 「宇宙法スペース・ロウは発明でした。侵略を目的とする場合、その惑星に対して、破壊以外の共通言語を見つける必要がある。そして、様々な惑星との共通言語を増やすためには、文明を発展させる必要がある。結果、文明が発展していない惑星は、文明の発展している惑星へ『統合』される。わたし達の惑星と、あなた達の惑星には、共通点がありました」

 「それが、ぽよぽよ」

 「はい。誤算だったのは、あなたが強すぎたことです。ですが、このような誤算は珍しくありません。つまり、誤算であり、誤算ではない。プランAがほとんど、だから宇宙船を建造しても採算がとれる。ですが、このままでは採算がとれないので、プランBに移行する必要があります」


 その瞬間、宇宙船が動き始めた。つるりとした金属質の曲面が割れ、中から砲身が現れる。いや、砲身ではない。巨大なアンテナが、空へ空へと伸びていく。


 「ルール説明です。あなた達の惑星、この尊い地球が、太陽をちょうど三周する頃、二回目の『出張費用リソース』が貯まります。そしてまた、我々は戦争ゲームをします」


 アンテナの先端が、ラスベガスの夜を貫く。


 「ただし、戦うのは『ノノケンあなた』ではない」

 「ああ、その時にはもう引退してるかな」

 「そうではありません」


 閃光。光の速さで『なにか』が地球を覆い、そして消えた。


 「なんだ今のは」

 「キラッとした?」

 「電気つけてないよな」

 「なんか、雷みたいな」

 「馬鹿、屋内だぞ?」


 ラスベガスだけではない、世界中の人間が『光』を感じた。


 「戦うのは、この地球上に存在する『どこかのだれか』です」

 「・・・・どういうことだ」

 「そのままの意味です。この『ランダムマッチング光波』は、実に公平なシステムです。なぜなら、たった今、わたし達の惑星、つまり『ぽよぽよ星』にも同じ光波が放たれ、『ぽよぽよ星人』の一人が対戦相手として任命されたから、です」

 「なっ・・・・!」


 瀧原たきはらが動揺する。


 「つまり、どこにいるかもわからない、誰かもわからない人間を探し出して、しかも、世界レベル、いや、宇宙レベルまで鍛えなきゃいけない・・・・?」

 「その通りです。わたし達の惑星には、『ぽよぽよ』ができない人間は存在しません。そして、『惑星代表』に任命されることはほまれの極みです。それはそれは喜んで修行にいそしむことでしょう」

 「素人かもしれない『どこかのだれか』を、たった三年で・・・・?」


 野ノ村ののむらが天を仰ぐ。


 「そんなの、無理だ」

 「これがプランB、言ったでしょう」


 宇宙船が離陸する。未確認飛行物体はラスベガスの空へと消え──


 「これは、侵略行為です」


 ──『0日目』が終わった。

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パズルゲーム未経験のオレは、地球代表として宇宙人と戦うらしい。~三年後に『ぽよぽよ星人』が攻めてくる!~ みらいやまさると最強の生活。 @msr3018

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