出会いの始まり⑤

ここ一週間で一気に気温が下がり、長袖が丁度良くなった。約二ヶ月振りの名古屋駅に到着し、お渡し会の会場へと向かう。

 正直、あの生放送からブルームを応援する気持ちが薄れかけていた。SNSでもカナン、さららの二人を推したいのではないかという意見も少なくなかった。


 そんな意見を見かけ、俺の推しがそういう扱いを受けていると思うと素直に応援する気持ちもなくなっていった。すべて憶測の話だから、真相はわからないのだが―――


 名古屋に来るかも迷った。ただ、先週会う約束もしてしまったし、ホテルもキャンセル代がかかるので行くことにはした。

 会場に着くともう整列が始まっていた。自分の整理番号を確認し列に入れてもらう。

「遅かったじゃん。こっちは朝から名古屋観光してたよ」

 俺の前の番号は花林だ。花林は夜行バスに乗り、朝の時点で名古屋に着いていたそうだ。

 モーニングを食べたとか、有名な和菓子屋に寄ってきたとか話していた。少し羨ましいとは思った。ただ、仕事終わりに夜行バスに乗って移動する時間的余裕も体力も俺にはないのだ。普段からこんな感じで遠征をしているのだろうか。

 そんな話を聞きながら待ち時間を過ごしたが、先週のラジオについての話はできないでいた。


 十三時、イベントが始まった。イベントの流れは秋葉原と同じだが、今回の進行はしずるんだった。

 慣れてはいないだろうが、特に大きな問題はなく進んでいった。驚きだったのは思った以上におしゃべりだったことだ。

 控えめで大人しく、四人で会話しているところでは一歩引いている印象だった。ただ今日は司会という役割のせいもあってか、よく会話に混ざる。

他の三人の気になるワードを拾って、それを広げたりもする。いつも以上に四人が仲良く、楽しそうに見えた。

 トークも終わりお渡し会に移る。四人全員にこの間のラジオの感想を伝えた。しずるんには「今日はたくさん声が聞けて嬉しかったです。この間のラジオはあまり声を聞けなかったので」

と伝えると、

「フカジロウさん、ありがとうございます!この間のラジオは全体的に控えめするよう指示されてたので、話したい気持ちを抑えてたんです。これからも頑張りますね!」

 と言ってもらえた。それに名前も覚えてもらえた。

前の推しには七度目のお渡し会で名前を覚えてもらったが、今回は三度目だ。案外、こうして名前を覚えようとしてくれるのかもしれない。

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