出会いの始まり③
一回目のお渡し会が終わり、店舗の外に出ると花林がさっきの小太りの男性と話していた。少しムッとしながらも声をかける。
「おーいこっちは終わったぞ。これからどうする?」
「オッケー。あっ、えーっとアンタ、ネットではなんて名乗ってるんだっけ?」
「えっ、『フカジロウ』だけど」
「そっか。じゃあフカジロウ紹介するね。この人は『ナマガルシップス』さん。私の知り合い」
そう言って隣にいた小太りの男性を紹介した。
「初めまして。『ナマガルシップス』でござる。『ベアリン氏』とは時々現場であっては話している仲でございます」
「あっ、初めまして『フカジロウ』です。よろしくお願いします」
お互い挨拶をし、数秒経ってから気づいた。
この人、ラジオでよく名前を聞く人だ。前の推しが出ている作品のラジオでこっちが必死こいて何十通もメールを書いて一通だけしか採用されなかったのに、何通も読まれていた人だ。すごく悔しかったので覚えている。
他のラジオでもよく読まれているというのをネット掲示板で見かけたことがある。周囲が少しざわついていたのもこの人の名前が出たからなのだろう。
「フカジロウ氏は誰推しなのですか?拙者は、まあさを推しです」
「自分はしずるん推しです。まあさも人気ですよね。声の露出が多くて羨ましいです」
「しずるん推しですか!こういうのも今のうちだけですから。楽しんでいきましょう。まあさとしずるんは大きい事務所ですからこれからの活躍も期待ですな」
このナマガルシップスっていう人は話し方が特徴的だな。よくアニメとかドラマで出てくる『オタク』のような話し方だ。花林が仲良くしているんだから悪い人ではないんだろうが……
「立ち話だと疲れますし、喫茶店でも入りませぬか?次の回まで1時間くらいありますし、今日は後ろがありますからね」
「そうですね。近くの喫茶店で休みますか。アンタもそれでいい?」
ナマガルシップスの提案に花林が乗ったので、俺もそれに付いていくことにした。他のオタクと関わりを持って来なかったで、こういう経験も大事だろう。
近くの空いている喫茶店に入り、アイスコーヒーを頼む。十月とは言え、この時期はまだ少し暑い。花林はアイスティー、ナマガルシップスは俺と同じアイスコーヒーを頼んでいた。
飲み物を飲み席に着いた後、飲み物に口を付けた後、ナマガルシップスが口を開く。
「いやー、ブルームの出だしは上々ですな。ただ、今のファンがずっと付いてくるとは限りませぬからね。メンバーもですが運営も頑張ってほしいですな」
「わかる。かなり力を入れている声優ユニットが久しぶりに出てきたから、『とりあえず最初は追ってみるか』っていう人達も多いみたいよね。そういう人達ってだいたい少しだけ追ったら離れていったりするんだよね。売れたら売れたで『俺はこのユニットの最初のイベント行ったけど君は?』みたいなことい言い出すから腹立つ!」
「まあまあ。そう言わないでください。彼らはそういう人間ですから仕方ないのです。これから『ブルーム』が多くの人を魅了できればファンは付いてきますから」
なんか色々酷いこと言っている気がするが、俺はその会話をただただ聞いているだけにした。何か意見できる立場でもないもんな。とは言え、誰が聞いているかもわからないのでちょっと話題を変えてみよう。
「そういえば今日の夜九時からのラジオ番組にゲスト出演ありますよね。どんな感じになるんですかね」
「ラジオ楽しみですね。1stシングルの宣伝ですけど、四人でラジオゲスト出演というのも初めてですからね。生放送ですけどパーソナリティーの二人が上手くやってくれるので心配ないですよ」
今日、ブルームが出演するのは男女の声優二人がパーソナリティーを務める二時間のラジオ番組だ。内容としてはアニメ、ゲーム、声優の情報を主に取り上げている。もう十年くらい続いている番組で、パーソナリティーは何年かで代わっていくが、みんなトークが上手い。
毎回ゲストが来て番組や曲の宣伝をしていく。今日はそのラジオにブルームの四人が出演するのだ。今からもう楽しみだ。
「これでブルームの事を知ってくれる人が増えるといいけどね。声優の人気がユニットの人気に直結するわけじゃないし、アニメが人気になって人気になった人達もいるからね。こういうのばかりは私達だけだとどうしようもないわ」
「そうなんだ。声優ユニットって奥が深いんだな」
よくわからん上に余計な心配までしている。声優ユニットを追っているオタク達って色々面倒なんだな。
その後も十月から始まった、さららのラジオの話やまあさがアシスタントを務めているラジオについての話等、ナマガルシップスと花林はかなり盛り上がっていた。
俺も時々話に入れてもらったが、正直少し場違いな感じはあった。同じオタクでもかなり住んでいる世界が違う、そんな気がした。
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