第9話 勝利の自覚

「勝った…?」

 ドームの中、自分の落とした氷塊の近くで仰向けになってソラがそう呟く、しかしそれには誰も答えず瓦礫が沈黙を貫くのみだった。

 もしまだ倒せていなかったら…そんな考えが頭に浮かび慌てて起き上ろうとしたが、体に力が入らないが頑張って上半身を少し起き上がらせた後、すぐにまた仰向けへと戻ってしまう。

 ソラが困ったなと苦笑いを浮かべて上を向き深呼吸をすると天井が割れドームがバラバラに解体され始めるのが見える。

 幸い瓦礫が崩れてくることはなく、崩れたところから逆再生のように元の位置へと戻っていく。

 その崩れていくドームの天井とそれ先にある夜明けの空をぼんやりと眺めていたソラは誰かに話しかけられる。

「ソラ!無事だったか?」

 ソラがその声の方向に顔を向けると、メグが折れた腕を押さえながら心配そうなこちらへと向かってくるのが見えた。

「まあ…なんとかってところです。倒せましたかね?」

「倒せたと思う。悪魔の能力はその使用者が気絶するか消滅すると解除される。ドームの状態がその証拠。」

「ふーっよかったぁ~っああっホントに怖かった…」

 そんなソラの不安にメグが安心させるようにそう答えるとソラは大きく息を吐き、いままで我慢していた気持ちが溢れだしたかのように横顔に涙が伝う。

「んっソラは良く頑張った。えらい!えらい!」

 メグはソラの脇に腰を下ろすと泣いている彼女の頭に手を伸ばしポンポンッと優しく撫でる。

「メッメグ!ちょっちょっと恥ずかしいですよ…子供じゃないんですから…」

 ソラは撫でられている自分が子供っぽいと思ってしまいちょっとだけ恥ずかしくなる。

しかしメグの手を退けようとは思わなかった。

「んっでもソラはすごく頑張った。ちゃんとした実戦なんて今日が初めてなのに頑張って勝った。だからえらい。頑張った仲間は褒めてあげるべき。」

 なおも頭を撫でながら褒めてくるメグにされるがままなソラは嬉しそうに笑いかけ自分に言い聞かせるように頑張った事実とお礼を呟いた。

「そうですね私…頑張りましたよね…ありがとうございますメグ!その言葉しっかり受け取っておきますね!」

「んっどういたしまして。」

 それに対して小さく頷くメグ。

 そんな二人のやり取りを少し離れた場所で見守る二つの影があった。

「ねえカレン…あなたの仲間、なんだかいい雰囲気よ。アレの間に入っていいのかしら?」

最初に口を開いたのはサーヤだった。

 サーヤは隣にいるカレンへ向けて首をかしげるポーズ付きで聞いてみる。

「そうね…まあ解決したみたいだし、ソラもメグも無事だったし良かったわ。それで入っていいか?ってそれを私に聞く?」

「だってあんた以外誰に聞けばいいのよ。」

「たぶんいいんじゃないかしら。」

 なぜかカレンの態度は不満げだった。

 少し離れたところで相変わらずの光景を垂れ流している二人を見つめながら話しかけている サーヤを一瞥もしないまま返答してくる。

「何でちょっと不満げ!?」

 そんなカレンの態度に驚きつつも突っ込みをいれるサーヤ。

「べっ別にそんなことないわよ!ただ先にその…」

 そして不満げなことが図星だったのか動揺し始め、うっかり不満げな理由をしゃべりそうになって慌てて言いよどむカレン。

 カレンの抵抗虚しく、不満げな理由に思い当たったサーヤは意地悪な笑みを浮かべ肘でカレンをつつきながら答え合わせを行う。

「ああ…なるほど話聞かない緑髪に先を越されたってことね。あれはあなたがやりたかったんだ…」

「ちょっと!全部言うんじゃないわよ!」

 正解だったのだろう、カレンはわかりやすく顔を赤くしてぽかぽかと隣にいるサーヤの肩を叩いて抗議する。

 するとそのワチャワチャ騒いでいた声で二人の存在に気づいたのかソラが声をかけてくる。

「ああっ!カレンさん無事だったんですね!」

 ソラの声に恥ずかしさなどどうでも良くなってしまったのか、サーヤへのぽかぽか攻撃を中断すると心配そうにソラのもとへ歩み寄るカレン。

「まあね…ってそれはこっちのセリフよ!そんなにボロボロになって…」

「えへへっ!私勝ちました…」

 そう心配そうに声をかけこちらへと歩み寄ってくるカレンに対してソラは頭を持ち上げて寝転がった体勢のまま、まっすぐと彼女を見て満足げな表情で持ち上げた片手にブイッと二本指を立てる。

 こうして今日精霊と初めて出会った白髪の少女ソラはあまりにも急がしすぎた戦いの最初の1ページ目を書き終えるのだった。

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