③ ret :

  どうしてかもらなければ、どうあれとすらわなくて、でもどうにかリリはおそらくのところれたみたいでした。


 んださきさきっぽがぎざぎざなあのとう足元あしもとにある小部屋こべやでした。


 のない、ものもない、からっぽのままめきられた部屋へやでした。


 まえにあるはずの自分じぶんえないくらいのくらやみです。


 リリはくらやみにつつまれています。


 でも、です。


 普通ふつうくらやみにつつまれている』なんてわれたら気持きもちがしずんでいそうですけれども、リリにとってこのくらやみは、ぬくぬくとめてくれているみたいで、不思議ふしぎととってもあたたかかったのです。


 リリはおもわずためいききました。


 それからしばらくのあいだ、リリはそこでじっとしていました。


  じつのところ、リリがこの書庫しょこたのはあの手記しゅきつづきをさがすためでした。


 というのも、リリがっていた手記しゅきは4かんけていたのです。


 まもけたのは3かんだけ。


 1、2、5かんはずいぶんまえかれてしまったので、もう記憶きおくがおぼろげでおもすことができても、おもすことしかできないくらいです。


 だからただしくうなら「つづき」でなくて「あな」をさがしにた、です。


  おもいきりはしってがりきったいきいてきたので、リリはポケットからぼうランプをして小部屋こべやからかおました。


 すると、もりのようにそびえたつ本棚ほんだなが、ひっそりと、不気味ぶきみなくらいにならんでいました。


 リリはまず『1』のふだかった本棚ほんだなひとつ、調しらべました。


 さがものはありませんでした。


 今度こんどは『3』のふだがついた本棚ほんだなひとつ、調しらべました。


 もとめるものはありませんでした。


 つぎは『7』の本棚ほんだなひとつ、調しらべました。


 そのつぎは『4』の本棚ほんだなひと調しらべました。


 そのまたつぎは『9』の本棚ほんだな


 そのさらにつぎに『0』の本棚ほんだな調しらべようとしたところでした。


 本棚ほんだなこうがわ人影ひとかげえました。


 リリとは反対はんたい方向ほうこういていたようでうし姿すがたくろかげになっていて、まるでとしあないているみたいでした。


 リリはとっさにぼうランプをして通路つうろかくれました。


 いやあせ背中せなかつたっていきました。


 ランプのひかりがゆらゆられて、ちかづいてきているのが分《》わかります。


 リリはもういきめてしまいたいくらいでした。


 つかったらかえされてしまいます。


 かえされて、しまいます。


 でもどうやら、もうとっくにつかっていたみたいでした。


 「ふうん。ずいぶん深刻しんこくなんだね。 きみのほしいほんつかったのかな?」


 視界しかい半分はんぶん時計とけいおおわれていました。


 それがリリをつけた大人おとなひとかおだとづくのは至極しごく簡単かんたんなことでした。


 しゃべらないほうがいいとおもいましたが、リリのくちかんがえなしでした。


 「あなたはだれですか?」


 「何者なにものでもないよ。 ここの管理人かんりにんだれであってもいいからね。 とにかく、きみのほしいほんつかったかい?」


 「いいえ?」


 「へえ、そうか。かならつかるよ。 ここにならどんなほんいてあるからね」


 「でも、」


 「それはないね。 ここのほんれない。どうしてかは知らないけどね。 その"どうして"のこたえもここにならあるんだろうけど」


 時計とけいひとうえほうゆびしめしてせました。


 リリにはくらやみひろがっているだけですが、時計とけいひとにはなにえているのでしょうか。


 「なにも……、えないですけど」


 「ああ、そうそう。どうしてぼくきみさがしていたかわすれるところだった。 あ、うん、そんなにおびえなくていいよ。おくかえわけじゃないからね。 ぼく忠告ちゅうこくをしにただけだよ」


 「ちゅう……こく?」


 「そう。忠告ちゅうこくをね。 しにたんだ」


 時計とけいひと間髪かんぱつれずにつづけました。


 「ただしくない真実しんじつ存在そんざいするということ。それと、つねひとつしかないのは現実げんじつくらいだということだよ」


 リリはよくかりませんでした。


 真実しんじつただしくないときがあるというのでしょうか?


 それに、まるで、ひとつしかないのが現実げんじつだけだとうのなら、まるで、みたいじゃないですか。


 「うん、ちょっとヒントをしすぎたかな。 ま、いずれにせよきみづいたんだろうけど。うん、いかんせん足りなくなってきたからさ、」


 ありません。


 真実しんじつはいつもひとつではなかったのですか?


 時計とけいひとがりました。


 「ねえ、おじょうさん?望遠鏡ぼうえんきょうってもどかしいですよねえ。ようとするともっとえなくなるんですからね。ええ、わたしてましたよ。」


 時計とけいひと足音あしおととおざかっていきました。


 よく、かりませんでした。


 リリは手記しゅき捜索そうさく再開さいかいしました。


 リリにしてはめずらしく、かんがえたくなかったからでした。

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