アレッサスV、合体せよ!

「ちっ、しつこいやつだぜ」


 飛行甲板から曇り夜空に飛び立った四機のアレッサス編隊はケンプの操縦するⅠ号機を先頭にⅡ号機、Ⅲ号機、Ⅳ号機と続き、敵機罡獣の迎撃に向かうはずだった。しかし解放軍によって奪われた魔力マナモビルの猛追を受け、バラランダから遠く引き離されてしまった。


 操縦席の前面に投影された画像には追尾してくる機体の情報が表示されている。外観は武装した鳥人間といった態であり、鉄の鷲と名付けられた魔力モビル・アイアドラだ。


 執拗に背後に張り付かれ、先程から魔力機銃による攻撃に晒されている。装甲の厚いアレッサスが機銃で落ちることはないが、相手の射撃は正確であり、油断はできなかった。


 アレッサス最大の特徴は四機の機体を一体化させて巨大な魔力マナモビルとなることだが、合体中は隙だらけなため今は実行できる状況ではない。そもそもアイアドラはアレッサスの支援機として開発された機体であり、これが敵をけん制することで合体魔力モビルに最大効果を発揮させるのだ。

 何とか敵と距離を取って合体に持ち込みたいところだが、アイアドラの操縦者は巧みにアレッサスの先々へ回り込んで射撃を見舞い、ケンプの企みをことごとく潰した。


「完全にこっちの機動を読んでやがる。一体、誰が操縦しているんだ?」


 ケンプは呻く。魔力マナモビルは魔法による優秀な操縦支援ナビゲート自動制御機構オートバランサーのおかげで誰でも動かせる設計だといっても、操縦には相応の訓練と経験が必要だ。

 民兵集団である解放軍に成せる業ではない。


 ケンプは編隊を一気に上昇させた。分離状態では攻撃力がほとんど無いうえに機動力も劣るアレッサスだが、限界高度はアイアドラに勝る。苦し紛れではあったが、そこまで上がることができれば合体の好機シュャンスが必ず訪れる!


 魔力炉心がうなり、四機の機体が一斉に垂直上昇を始めるや猛烈な荷重がケンプを襲った。魔法の生命維持術式がケンプの着る強化服にエネルギーバイパスをつなげると、胸部に魔王の紋章が浮かび上がる。これで体力は大幅に強化されたのだが、それでも意識が飛びそうになるほどの負荷にケンプは懸命に耐えた。一秒が無限とも感じる苦難の中でアレッサスはついに厚い雲を抜けて目標高度に達し、満天の星空の下で機体を水平に戻す。


 朦朧とする意識を必死に立て直し、周囲を確認すると自機と僚機以外の反応はなかった。今ならいける――ケンプは号令をかける。「アレッサス、合体隊形! 各機、動作確認……よし、いくぞ!」


 Ⅰ号機に搭乗するケンプの脳波が各機に伝わると、四機の飛行機は魔法の特殊な力場に包まれた。アレッサスの胴体部となるⅡ号機が変形し、力場に誘導されてⅠ号機の後ろについた。その上を飛んでいたⅢ号機は二本の腕が連なった形であり、分離するとそのままⅡ号機の左右に誘導されて平行に並ぶ。Ⅳ号機がM字に折りたたんでいた可動部を展開するとそれは脚となり、Ⅱ号機のすぐ後ろに待機した。

 アレッサスの各機体はそれぞれ魔力で牽引されながら合体状態に入ると、最初にⅠ号機とⅢ号機がⅡ号機に合わさって魔力マナモビルの上半身を形成した。

 続いてⅣ号機が接近しつつ合体のタイミングを計っていた時である。モニターに警告音と一緒に新しく魔窓が一枚開き、メッセージが表示された。


 ――ALARMアルアーム DERデア FEINDLICHEファインドリヒェ ZAUBERツァウバ HAT UNS ERFASSTハート ウンス エアファスト!――


「バカな、敵の魔力兵器にロックされた……⁉ ちょっと待て、今攻撃なんてされたら……うあっ!」


 上半身に敵弾が直撃し、アレッサスの合体プログラムを形成していた魔法の術式が途切れた。すると失速した機体は強制的に分離させられ、次々と雲海に墜ちていった。急激な荷重に押しつぶされそうになりつつもケンプは必死に操縦桿を引いて機体制御に心掛けたが、警報が鳴り止むことはない。苛立つケンプが重力に抗っているところへ新しい魔窓が開き、通信が入ったことを知らせた。

 アイアドラからである。


「女?」


 色付きの大きなゴーグルのせいで顔は判別できなかったが、魔窓には茶髪の女が映っていた。


Did ye think ディド イェ シンク ye'd no be bothered イェド ノー ビー ボザード up aboon the cloudsアップ アブーン ジ クラウズYe're stillイェア スティル a bit o'aア ビット オア daft ladダフト ラッドeh?」

(雲の上なら邪魔されないと思ったのか? 相変わらず詰めが甘い男だな、ええ?)


「こ、この北訛りのグランディア語……。まさか、そのアイアドラを動かしているのは……」


「私だ、ケンプ。元ポロランド王国軍装甲騎兵科狙撃小隊第三分隊長、シモン・バイパー軍曹」


 ケンプは反射的に背筋が伸びた。彼女は彼がポロランド軍にいた時の直属の上官であり、新兵教育の頃からケンプにあらゆる技術を叩き込んだ教官である。優秀な兵士であり、特に銃に関しては超人的な射撃技術を持っていた。協調性がなく、度々軍規を乱すケンプを配下に置いて狙撃手に育て上げ、同時に彼を生粋の銃オタクにさせた張本人である。

 この女ならアイアドラの限界高度からさらに上空に位置するこちらを狙撃することぐらい……いや、やっぱり無理だろ!


「ポロランド陥落後に行方不明になったと聞いていたが、解放軍に身を寄せていたのか。だからって魔力マナモビルの操縦なんてやったことないだろ」


「魔王軍の補助魔法ナビゲート機体制御バランサーの技術はなかなか素晴らしい。ほとんど座っているだけでいいから、私は射撃に専念できた。体にかかる負荷は思っていた以上だったがな」


 この女やはり人外かイッヒ カン エス ニヒト グラウベン! 何とかアレッサスを垂直噴射させて空中にとどめ、編隊を立て直してみせたが合体の手立てはない。アイアドラが目の前に迫り、主要武器である120ミリ長距離魔力砲を指向される。この至近距離であんなものを撃ち込まれればアレッサスとて無傷で済まない。ケンプの体に冷たい汗が流れる。シモンからの通信が続いた。


「さてケンプ・アメミヤ一等兵……いや、現在は魔王軍少尉であったな。貴官には連合軍への投降を勧告する。これを受け入れないのならば即時撃墜……と言いたいところだが、貴官の身柄確保こそが今作戦における最優先事項である。望む、望まざるに関わらず一緒に来てもらおう」


 おれが解放軍の目的? ケンプはその意味を理解しかねたが、この時アイアドラが不測の方向から攻撃を受けた。これにはシモンが超反応を見せて直撃を避けたのだが、これでアレッサスとの距離が開いた。驚くケンプに通信が入り、新たな魔窓が開かれると、そこには青い武装の魔戦士ディアゲリエが映っていた。


「アメミヤ少尉か。俺は魔王軍第九師団バングラス所属、冥硬星めいこうせい霹靂斬舞へきれきざんぶのブルガッサスだ。外部警戒中だったが、ボス(ギラザンガ)にお前の援護を頼まれた」


 ケンプとシモンの間をブルガッサスの戦闘機が高速で横切り、機体を反転させて激しい弾幕をアイアドラに浴びせかけた。卓越した操縦技術である。「そいつの相手は俺がする。お前はバラランダへ向かえ」


「……。感謝するダンケ


 一気に出力を上げ、燃えるバラランダに向かってアレッサスを急行させた。「――いくぞ、合体だ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る