リボルバー

 雑多ではあるが最低限の整備はされているバラランダ都市部の道路を高速で走る車があった。すでに時間は真夜中であり、通路には街灯がわずかに点灯しているだけで、ほぼ闇の中を車が照らすライトを頼りに進んでいる。車両は魔王軍が移動に使うもので外観は全体的に四角く武骨であり、屋根のないオープンカー仕様である。車高と地上高が高くスパイクの付いたぶ厚いタイヤはいかにも悪路走破オフロードに適した形状をしていた。

 その運転席にグリンセルが座ってハンドルを握り、隣には強化服を着たケンプが手にした銃をあれやこれやといじっている。


「おい、もういい加減に銃を返せ。十分に堪能しただろう」


 自分が言い出したこととはいえ、まさか非常事態の最中に武器を初対面の人間に渡すハメになるとは思っていなかった。先の戦闘で激しく魂力ヴェーダを消耗したため、魔王変化チェンジが使えない。だから拳銃は生身のグリンセルが頼る唯一の武器だというのに、それが自分の手にないとは何たる愚行であろうか!


「少しは信用してくれよ、俺も魔王軍の一員なんだぜ」


「そうして欲しければせいぜい仕事をして、このあたしを認めさせな」


 カチャカチャと回転軸シリンダーを出し入れしつつ、時折暗闇の中を流れていく街灯に狙いをつけるケンプだ。渡された時に弾はすべて抜かれてあったが、ならば遠慮はいらないと何度か引き金に指をかけ、シングルとダブルアクションにおける引き具合を試すようなこともしていた。


「しかし、本当に重いな。こんなものを、あんたよく片手で扱えるな」


魔戦士ディアゲリエをなめるな」


 ハンドルから片手を離すと、ぱっとケンプの腕から自分の銃を奪い取って見せた。そして今度は両手を離した一瞬で回転軸を解放して弾を込めた。


「おっ、スピードローダー*か。ポロランド軍には回転式リボルバーがなかったから、つい興味を引かれるんだ」


 ったく、とんだ銃オタクだ! 少しは黙っていろ、というグリンセルの願いは虚しく砕かれた。


「そういえば魔王軍て、各国で廃棄された武器を集めて使っているよな。その中には実用性がなくて開発が途絶えた回転式の擲弾砲グレネードキャノンなんてものも……」


 ギギギッ! 車は急ブレーキと共に方向を変え、その衝撃でケンプは危うく舌を噛みそうになった。荒っぽい運転に文句を言おうとしたが、同時に車のすぐ横で爆発が起こった。何が起こったのかケンプには理解できなかったが、車は爆発の衝撃で激しく煽られ、あっけなくひっくり返ってしまった。

 そのままごろん、ごろんと車体は路面を転がり、手近にあった建物の壁に突っ込んで爆発、炎上した。


「……!」


 炎で照らされた黒煙が闇の中に溶けていく様を倒れたまま呆然と見ているケンプだ。横転する際にグリンセルに腕を掴まれ、車の外へ一緒に飛び出した感覚だけは残っている。強化服を着ているおかげで地面を転がってもダメージはなかったが、体を起こすときには幽鬼にでもなった気分だった。

 だが、そんなものは拳銃ダブルオーの激発で直ぐに目が覚めた。


「あれは……」


 グリンセルの射撃で倒れたのは重装歩兵型ヴァイクロンで、胸部を撃ち抜かれて大穴を開けた箇所がバチバチと放電している。


 何故、バラズゥクの機械人形を撃ったのか、などと疑問に思う暇はなかった。


 闇夜の中から相当数の赤い光が浮かび上がり、それらがこちらに向かって来ているのだ。あれが何かはバラランダにいる人間ならば知らない者はいない。バラズゥクの尖兵であるヴァイクロン共が対象を駆逐すべく戦闘モードになっている時の光だ!


「あいつらは敵だよ。現在バラランダの警備システムの一部が敵に乗っ取られているんだ。奴ら、もう少し先で陣取っていると思っていたが油断した」


 車を横転させた攻撃は目の前で骸を晒すヴァイクロン兵からだったようだ。残骸の傍らには小銃よりも口径の大きい車両破壊用とみられる武器が落ちている。それにしても、まさかバラランダが敵のハッキングを受けるとは! だが通話でギルバンはテリヴルヒが体調不良だと言っていた。機械公爵と天元術士はバラランダそのものである。

 ケンプはこの移動要塞を支配する双璧の片方でも崩れることには半信半疑であり、ヴァイクロン兵にしても何らかの支障をきたして誤作動をしているのだと思っていた。


 その間にもヴァイクロン兵からの銃撃がケンプとグリンセルを襲う。車から投げ出されたのが丁度バラランダの大通りを構成する十字路で遮蔽物がまったくない。致し方なくグリンセルが自身の魂力を燃やして発生させた魔力障壁で攻撃を防ぐのだが、龍の機罡獣との戦闘で力を枯渇させた影響で非常に弱々しく、多勢から繰り出される弾幕を防ぐには心許ない。

 障壁が持ちこたえる間に少しでも敵を減らせれば死地を脱する機会もあるのだが、ヴァイクロンが発する赤光しゃっこうは海辺に打ち付ける波の如く押し寄せた。


 じゃらっと排莢し、スピードローダーで装弾して射撃を繰り返すグリンセルだったが、手持ちの弾はこれが最後である。障壁も限界だ。


 くっ、進退窮まったか!


 ……などと悲壮感に苛まれる間もなく、グリンセルの後ろにいたケンプが突然脇から飛び出すのを見て愕然とした。


「アミメヤ! 何をしている、すぐに戻れッ」


 だがケンプはそのまま上半身を低くしたまま弾幕を駆け抜け、ヴァイクロンの骸まで行くとその場に伏せ、傍らに落ちていた武器を確認した。彼らの車を破壊した大口径の火器である。


「これは……やはり六六ミリ対戦車擲弾砲グレネードキャノンだったか。よし、残弾もある! ちらっと見えただけだから確信がなかったが、これなら――」


 至近距離に敵勢力からの着弾が相次ぎ、何発かは体をかすめるような状況だというのにケンプは正確に兵器を操作する。レバーを下ろしてシリンダーを回し、バレルと弾を合わせて固定する。レバーを戻して薬室を密閉し、伏せたまま上体を起こして擲弾砲を肩に担ぎ、敵に照準をつける。狙いは赤く連なって蠢くヴァイクロン共の真ん中だ。安全装置を外し、引き金に指をかけた。


「うわっ」


 ケンプの射ち放った砲撃の反動で後方へ吹き出された噴煙を飛び退いてかわしたグリンセルだったが、続いて前方で起こった大きな爆発によって生じた衝撃もあったため、しばらくはその場に伏せたままの状態を強いられた。


「大丈夫か」


「……」


 気が付けばとなりにケンプが立っており、心配される始末だ。差し出された手を払いのけて立ち上がり、改めて敵方を確認するとヴァイクロン達はきれいさっぱり薙ぎ倒されていた。


「ふん。回転式リボルバーには触れてこなかったんじゃないのか」


「さっき散々いじらせてもらっただろ。回転式なら拳銃でも擲弾**でも構造は似たようなものだ」


「ついて来い。こっちに格納庫までの直通路がある」


 少しは見直したぞ、とは口が裂けても言うつもりがないグリンセルだった。






 *スピードローダー 回転式拳銃へ素早く弾を込めるための器具。シリンダーと同じ形に配列された弾丸を保持するものであり、使用時はシリンダーに合わせてカチッと操作するだけで弾丸が装填される仕組み。


**擲弾 てきだん。グレネード。炸薬などで破壊力を高めた弾頭。

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