自由と銃
けたたましい警報音がバラランダの都市部に鳴り響き、この音で眠りかけていたケンプも何事かと飛び起きた。遠くで爆発が起こり、銃声や喧騒まで聞こえてくると、流石にこれは異常事態であると認識して直ぐに窓辺に寄って外を見下ろした。
バラランダの中央司令棟の方で火災が発生しており、時折巨大な火球が花火のように上がり、その都度遅れて爆発音がケンプのいる部屋の窓を叩いた。それとは別に都市部の各地にも火の手は広がって夜空を赤く染めている。そこにはポロランドやその他の占領地から強制移住させられた労働者が寝泊まりする施設がある。彼らの安否が気遣われたが、むしろ彼らが反旗を翻した可能性もあった。
バラランダにおいて労働者の扱いは家畜以下であり、ひどい労働環境に耐えられず命を落とす者まで出る有様だ。いつかこんな日が来るのではないかとケンプは予見していたが、機械公爵バラズゥクの管理下にある中央制御術式が彼らを自由にさせるはずがない。
もしも本当に労働者がろくな武器もないまま立ち上がったところで、重装歩兵型ヴァイクロンや武力鎮圧ロボット群、そしてバラランダのありとあらゆる場所に仕掛けられた様々な罠によって殲滅させられるだろう。
ここは移動要塞バラランダ、機械公爵バラズゥクが悪魔の如く君臨する地獄の鉄牢。囚われた人間は奴の道具でしかない。バラズゥクがいる限り彼らに自由などない。
「……もちろん、おれにもな」
「そんなことないよ、ケンプ。自由は自分の手でつかみ取るものだからね」
「⁉」
誰かにそんな風に言われたような気がして、ケンプは部屋の中を振り返った。警報の音、時折聞こえる爆発の音、喧騒などが遠くで響いている他は誰もいない。しばらく呆然としていたが、まさかと思い当たってケンプはテリヴルヒから預かった機甲獣を探した。
机の上に雑に置いたままになった籠の中には、相変わらず奇妙な鳥がころんと横たわっている。これが動いた気配はないが、シェランドンから渡された
愛嬌のある見た目に反してルシファリアに一番の厄介者だと言わせしめるカノンの機罡獣。
籠の中に手を入れてもう少し調べてみようとしたところへ、ケンプのタブレットが鳴った。画面を見ると知らない番号であったが、一先ず出ることにした。バラランダにおいては有線だろうが無線だろうがすべてバラズゥクに傍受されている。魔王軍からの通話であれば、何故出なかったのかを後で問い詰められることになるからだ。
「はい、アメミヤ……」
「アメミヤ少尉か。私は第二十六師団、ジャニンドーのギルバンという」
「ギルバン? 諜報部のリーダーが俺に何の用だ」
ジャニンドーの名を聞いただけでケンプは嫌悪感に苛まれた。彼らはバラランダの目であり刃である。バラズゥク直属の部下ではないが、秘密警察のような存在であり、謀反を企んだ労働者が何人も彼らによって連行された。機械だけでは手が届かない場所を彼らが補うことでバラランダの治安が維持されているのだ。
「手短に言う。今すぐにアレッサスを起動させるのだ」
「なぜあんたに命令されなきゃいけない? テリヴルヒを出せ」
「公爵夫人は現在体調が優れず、休養している。事態は君が考えているよりも深刻だ。私の部下をそちらに向かわせたから、共に行動するように」
「なんだと……」
反論する間も許さずに通話は一方的に切られた。チッ、とケンプが悪態をつくのと同時に部屋の扉がガンガンと叩かれた。不精ながらケンプが扉を開けると、金髪をツインテールにした女が立っていた。
「あんたがケンプ・アメミヤ少尉だね。ほら、さっさと着替えな。時間がないんだ」
「
グリンセルは
「質問をするな。こちらの言うことだけを聞け」
だが、ケンプは撃たれたことにショックを受けるどころか、どこか目を恍惚とさせているように思えてグリンセルは不気味だった。「おい」
「……あんたのその銃、ジョー・コルテス社が一〇〇〇年に製造した
うっ、とグリンセルは身を引いた。なんだ、こいつは? ジャニンドーという情報に関する部隊に所属している彼女はもちろん天元術士テリヴルヒの子飼いであり、合体
「
大声で怒鳴りつけ、もう一度威嚇射撃をしてやろうかという衝動にかられたが、この男にそれをやったら余計に喜ばせるだけだとグリンセルは考えた。そして妙案を思いつく。「アレッサス専用の強化服ってのがあるんだろう。さっさとそれに着替えたのなら、あんたにこれを触らせてやってもいいけど」
ケンプは腕に填めたブレスレットを軽く指先で操作すると、たちまち魔法の結界が彼の体を覆って姿を変えさせた。寝間着姿から一転して、今グリンセルの目の前にいる男は全身を特殊な繊維で編まれた強化服に身を包んでいた。大部分は黒が強めの灰色、だが体の中心部や細かな部分には赤や青のラインが入っている。頭には頭頂部から顎の下まですっぽりと覆ったヘルメットをかぶっていて、顔を覆うバイザーは真っ黒く、その下にある表情を完全に遮断していた。
「……」
だがグリンセルには分かった。エサを前に「待て」をする犬のごとく、ご褒美にありつこうと目を輝かせているヤマモトとポロランドの
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