ネズミ狩り

 シェランドンは改めてルシファリアの前に並んでいる三人の魔戦士を眺めた。大柄ででっぷりと太ったアロウィンは東方人のようだ。その横にいるグリンセルは左右でまとめた長い金髪を肩まで垂らした白人の女で、大胆に胸元を開けた丈の短い段々仕上げの深紫こきむらさきのドレスを着ている。それをまとめるのが気品のある貴族風な男。


「東方人に金髪、それに黒人か。個性的な三人だな」


「いや、四人だ」


 なに? とシェランドンは隣にいるギラザンガを見る。巨漢は腕を組んだまま無精ひげを生やした顎で示した。「ギルバン……あの黒人の腕をよく見ろ。人形がくっついているだろう」


 そういえばそんなものがあったな。今一度それを見て思うことは、若い娘が好んでカバンなどにつけていそうな、マンガの登場人物を模したような造形だということだ。


「きゃあん! ルシファリアのドレス、かっわいい~!」


 な、なんだ⁉ シェランドンが見ている前で、男の腕にあった人形が嬉々として動き始め、金髪女の肩に乗り移った。


「おお、そうかのう」


「モチのロン! ねえ、グリンセルもそう思うよね」


「ああ、ギャルガ。なあ、ルシィ、一緒に写真を撮ろう。公爵夫妻も入る?」


「ほほ、あとで主人と一緒に写しておくれ」


「ふぉっふぉふぉ。苦しゅうない」


 機械公爵とその夫人がいちゃいちゃし始めるのは置いておくとして、ルシファリアはジャニンドーの女達の言動を咎めるでもなく、一緒になってタブレット端末による撮影に応じている。


「あ、ありゃあ一体……」


「おっと、姿や言動で惑わされるなよ。あんなていでも冥形星の魔戦士ディアゲリエで、死誘人形の二つ名は伊達じゃない」


 ルシファリアを交えた三人娘のきゃっきゃ、うふふ、とかしましい様子を間近で見ていたのが魔剣将軍で、ついに堪忍袋の緒が切れた。


「ええい、お前達! ルシファリア様から離れて、さっさと状況報告を始めないか!」


「なによデビラー、大きな声出しちゃってさ。あたし達にそんなこと言っちゃっていいのかな~? ねえ、グリンセル」


「そうそう。人にごちゃごちゃ言う前に、あんたはその女癖の悪さをどうにかした方がいいわよ」


「な、なんだと……」


「ほーら、こんなことになっちゃってさ」


 グリンセルが腰のポーチからタブレット端末を取り出し、画面をスワイプして写真を空中に映し出した。

 むむむっとルシファリアがこれに食いつく。

 写真にはデビラーと一緒に軽く波を打った紅い長髪の女が写っていた。そこから絵が再生されるとデビラーは満面に笑みを浮かべて紅毛髪の女に寄り添い、強引に肩を抱いて口説き始めた。ところが次の瞬間には女に平手打ちをかまされてその場にひっくり返ってしまう。女は男に見向きもせずそのまま去ろうとするのだが、デビラーは執拗に女を引き留め、半ば強引に建物の中へ連れ込んだ。


「やめろ!」


 たまらずデビラーは抜剣し、空中に投影された写真を魔窓ごと叩っ切った。「俺のことなど、どうでもいいわ! おいギルバン、さっさと連合軍の情報を出させろ。このままでは本当に朝になってしまうぞ」


 ふっと相好を崩す黒人の男は組んでいた腕を解放した。「まだ続ける気ですか、将軍。これだけの魔戦士ディアゲリエの中にあって、その度胸は大したものです」


 なんだと? デビラーは言葉の意味が理解できずに困惑した表情を浮かべた。シェランドンも同じだ。ギルバンの言葉から真意を測れない。ギラザンガが不敵に耳元で囁いた。「の時間だ」


 ガゴン! 勢いよく大会議室の扉が開かれると、物凄い形相をした男が飛び込んできた。その姿を見たシェランドンの口があんぐりと開かれた。それは壇上にいる男と瓜二つだったからだ。


「ええい、おのれ! どこの手の者かは知らぬが、よくも俺様に化けてくれおったな」


 怒鳴りながら腕を前に突き出すや、壇上にいた男の手から剣が離れて宙を飛び、乱入してきた男の手中に収まった。

 そして剣の柄に埋め込まれた黒い宝石に向かって叫ぶ――「ヴァイダムチェンジ!」


 剣から魔力が溢れ、たちまち男を鎧に包まれた魔戦士の姿へ変えた。兜には二本の曲刃を付け、肩当てや籠手、膝当てなどの至る所にも角が装着されている。全体的に黒と銀色を基調としており、大変に禍々しく、雄々しい。


「この魔剣ストームブリンガーの力を引き出せるのは魔王ハジュンより冥雄星の力を授かったこの俺、デビラーただ一人! 痴れ者が、正体を現せ」


 怒りに任せて剣を振り上げるや大会議室の中に嵐が吹き荒れた。そして嵐のエネルギーがデビラーの持つ魔剣に集約されると、壇上で立ちすくむ男に向かって打ち放った。男は咄嗟に腕を十字に組んで防御したが、それで防げる魔剣将軍の攻撃ではなく、あえなく壇上から吹き飛ばされて鉄の壁に叩きつけられた。


 何者かがデビラーに変装していたのか⁉ シェランドンは目の前で起こっている事件の概要を理解しつつあったが、それでも信じられない思いもあった。この魔王軍の本拠地ともいえる移動要塞の中に忍び込むのも大概だが、西方社会攻撃隊の副司令官に化けるとは。大胆不敵というか、畏れ知らずというか……。いやそれよりも気になることがある。


「おい、あんた達は最初からあの男が偽物だって知っていたのか?」


「ああ」


 ギルバンが答えた。「バラランダはこの通り大雑把な作りだ。物資の搬入などに紛れて、連合軍やら抵抗軍の間者が入り込むから困っている」


「最初からデビラーのことを張っていたのか」


「いや違う」 今度は破壊僧兵の二つ名である東方人アロウィンだ。「俺達が追っていたのは写真に写っていた赤毛の女だ」


 言われてシェランドンはデビラーに口説かれていた女の姿を思い出した。控え目に行って大変な美女だった。

 グリンセルとギャルガが標的の女を尾行して撮影されたものが先程上映された画像だ。しばらくして建物から出てきたデビラーの追跡はアロウィンに引き継がせ、グリンセル達が建物を調べた。

 そこで彼女たちは縄でぐるぐるに縛られたうえ、口に猿ぐつわをされて唸ってる魔剣将軍を発見したのである。


「女は見失ったのか」


「今はデビラーに化けたあの者から事情を聞きだすことが先決だ」


 答えるアロウィンの肥満体に目をやる。いや、違うなとシェランドンは直観した。この男の体は脂肪ではない。すべて筋肉だ!


「しかし、あれじゃミンチだぜ」


「いや。が外れただけのようだぞ」


 なに? ギラザンガの言葉に促されてシェランドンがよく見ると、バラランダの司令本部棟を揺らすほどの衝撃で叩きつけられたというのに、偽物はゆっくりと体を起こしているではないか。

 そしてその姿を変えていた魔法の術式がほどけ、文字通り化けの皮が剥がれていく。


ホ、ホントかオー・ラ・ラ……?」


 はらり、と結われていた赤い長髪が弧を描き、一人の女がそこに現れた。

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