第6話 食事という行為

「じゃ、二人とも元気でな」


 あれからエレは、シュウゲンやアルマだけでなくフェートの為にも時間を作り、何度も会いに来てくれた。


 そして、所属する組織のことや世界で何が起きているのか等、多くの情報を提供してくれた。


 エレの説明に拠れば、国境なき何でも屋と言うのは、ただの通り名で元々は協会の一部だったそうだ。


 歴史を軽く紐解くと数百年前に、とある神人が行っていた慈善活動が少しづつ賛同を集め、活動範囲が世界中に広がり多くの模倣者が現れた。


 しかし、活動規模が大きくなるに連れて、人材や金などがより必要となり、更には規範を求められる様になった結果、それぞれ活動していた団体を一つの組織にまとめ上げた。


 組織化されて一時は上手く行っていたものの、やはり慈善活動と金の相性が悪く、組織運営の為に国や資本家の協力を仰ぐことが提案された。


 だがそこで、本来の弱者救済という慈善活動の趣旨から外れてしまうのではないかという懸念を持つ派閥が生まれ、体制に身を委ねてでも安定した活動をするべきとする派閥と揉めたしまった。


 多くの話し合いの場が設けられたものの結論は出ず、このまでは活動に支障が出ることを心配した神人が反体制派を連れて組織を抜けていった。


 そして、そのメンバー達と新たに、純粋に弱者を救済するだけの団体を立ち上げ、それが後に国境なき何でも屋と言われる様になったそうだ。


 また、残った組織の面々はゴールが同じはずの同士と揉めてしまったことに反省し、体制に寄りながらも絶対に呑まれないという意思表示に、自らの組織名をただの協会とした、というのが今に伝わる話だそうだ。


「フェートは合流するのが春過ぎになるだろうから、それまでにこっちの世界に少しでも慣れておけよ」


 フェートは軽く頷き了承した旨を伝え、それぞれが別れの言葉を交わし終えた事で、エレは朝焼けの中、次の目的地へと足を向けた。


『春過ぎか…受け入れに際し色々あることはわかる。たが、それを加味しても半年近い時間が掛かるのか。予想出来ていた事だが、やはり物理的な距離が大きな壁になるな』


 アンナの計画の移譲式まで18年。エレ達への義理を果たしながら、多くの準備をしておかなければならない事を考えると、大した余裕は無いだろう。


 なので既に準備は始めており、今日もその内の一つである落涙草の除草作業に参加する予定だ。


 先日の救助活動が評価され、市からのオファーに即決した訳だが、報酬は今後の活動資金を考えると微々たるものだ。


 しかし、この活動はあくまでも地盤固めが目的で、協会所属とは言え根無し草の状態は回避すべきだ。


 それにアンナの考えに沿えば、エレ達と行動していく先々で自身の評判を広め実績を作る必要がある訳だから、この街での活動はそのモデルケースの構築に一役買うだろう。


 また、重要なのが世界中で猛威を振るっている怪異を観測出来るということだ。更に、落涙草に関しては今のところ脅威度が低いと思われるので、最初のデータ蓄積として都合が良い。


 この脅威度という話だが、共通脅威性評価システム:CTSSの評価基準のアップデートは、優先的に行っていきたい。


 何故なら、この世界で致命的なダメージを負った場合、修理は難しい…いや、ほぼ不可能だろう。


 早々に諦めるつもりも無いが、一部修理に関しては優先順位を下げざるを得ない。


 従ってシュウゲンやアルマ、エレ達協力者との連携は、大切にしていかなければならない。


 そして、それはこれから行う落涙草の、除草作業のチームにも同じことが言えよう。


 既に何度か作業を共にしており、その際に組んだのが現場復帰したあの三人だった。


「フェートさ〜ん」

 噂をすればなんとやら、その三人が少々遠めの距離から声をかけてきた。


 除草作業スタッフは本来であれば白羽山に現地集合するのだが、彼女達三人はジャヴァ家の兄妹でいつも街から一緒に行くらしく、それに誘われてた形だ。


 白羽山に行く途中にある集会所で、全体ミーティングに参加するのだが、それまでの間も歩きながら軽い打ち合わせを自主的にしていた。


 その中で、流車を使わないのかと聞いたのだが、個人で持てる価格ではないのだそうだ。


 もっと大きい都市に行けば、大型の流車が街の中や都市間を巡回してるのだとか。


 白羽山までそこそこ距離があったものの、徒歩でも時間通りに到着した四人は、直ぐに作業に掛かった。


 落涙草の除草作業と言うのは、基本的に2〜4名のチームで行う。


 日中の内は前日に確保していたセーフティエリアから、落涙草の分布をマーキングしながら潰せるところは潰していく。


 そして一旦、山小屋まで戻り持ち寄った情報を分析し、本日の除草エリアを各班に割り当てる。


 その間、除草メンバーには休憩が与えられ、日が落ち始め落涙草の蕾が閉じて花粉の排出が止まったタイミングから、日が落ち切るまでの短時間で一気に片付ける段取りとなっている。


 では、具体的にどう落涙草を除去するのかと言えば、各班にある程度一任されている。


 これは、マナコントロール力や使える術式は、個々によって大きく差がある為である。


 なので、それらを踏まえた編成になっており、ジャヴァ班では妹のネールが『遠見』の術式などを使い、二人の兄に指示するスポッター的な役割を担っている。


「セロ兄さん、あの岩…そこの影。その直ぐ後にかなりの数居るみたい、ここからでもいけるかな?」


 セーフティエリアから80m先にある、人の背丈程の岩を指差すネールとの間には、まばらに木が映えており、直接的には落涙草を目視出来ていなかった。


「多分、だいじょうぉぉっ、ぶ」


 次男のディールが手元に術式を展開し、岩の後に向かって『水塊』によって生み出した球体の水を、サイドスローで投げつけた。


 水の球は速度を落とすことなく木々を避けて進み、岩の裏手に到達すると弾けて、落涙草はずぶ濡れになった。


「兄貴、よろしく」


 既に準備万端、長男のセロの手には『氷霜』が展開されており、正に槍投げの様な格好で勢い良く放り投げると、氷の槍は放物線を描き狙い通り岩裏に突き刺さった。


 すると氷の槍を中心に一面、霜が降り落涙草を凍霜死させた。


「これで、回れるところは全部いったと思うから、一旦戻る?」


「じゃ、フェートさんに合図出すか」

 ネールが地図に観測情報を書き込みながら、山小屋に戻ることを提案すると、セロが『氷霜』を展開

 する。


 先程とは違い、真上の方へ投げると空中で破裂し、乾いた破裂音を鳴らした。


 左程大きな音ではなかったが、フェートが既に到着しているという事は、聞こえていたのだろう。


「フェートさん、そろそろ戻りましょうか」


「分かりました。ネール、マーキングをお願いします」


 周囲で単独行動していたフェートはネールと情報の共有をしながら、山小屋へと足を向けた。


「ここまでいったんですか…フェートさんが来てからどんどんセーフティエリアが広がってます、凄いです!」


「ホントにフェートさんには感謝っす!」


 弟妹が本気のよいしょをしながら、フェートとの雑談を楽しんでいるを見ると、長男である自分が二人を守れなかった事への後悔と、フェートへの感謝が溢れてくる。


「フェートさん、少し良いですか…二人は先に、席確保しといてくれ」


 山小屋の少し手前で、セロから声を掛けられ立ち止まると、弟妹は不思議そう顔をしながらそのまま進んでいった。


「どうしました?」

「あぁ…その、フェートさんには本当に感謝してるって、話なんですが…」


 わざわざ引き留めてそんな話か、とも言えない顔をしているので何度も繰り返したやり取りを更に繰り返す。


「もう十分、両手に持ちきれないほど感謝は受けてますよ。それに救助出来たのは、私だけの力ではありません」


「もちろん、シュウゲンさんにも医者の方達にも感謝しています。それでも、後遺症もなくこれだけ早く復帰出来たのは、フェートさんのお陰だと皆さん言っていますし、何より今こうやって一緒に居てくれる、それがなによりありがたいんです」


 フェートが効率の良い完全単独行動をせず、班を組んでいるのは彼らへの配慮があるのは間違いない。


 しかし、それもフェートだけの判断ではなく除草作業を管理している役所の判断でもあり、フェートはそれに賛同しているに過ぎない。


「本当に言葉には出来ないくらいで…それはアイツらも同じで…こんな事、命の恩人に頼むのは厚かましいのはわかっているんてすけど…フェートさんは今日も昼ご飯は食べないんですか?」


 いつもの過分な感謝の流れから、脈絡のない昼食の話を流石のフェートも想定していなかった。


 フェートは食事の場がコミュニケーションを深める場である事を理解していた為、これまで席を外すこともなかったが、特に食事をする必要もなかったので水分補給のみ行っていた。


「そのつもりですが…」


「そうなんですか…もし特別な理由が無いのであれば、実はその…ネールがフェートさんの為にいつも弁当を作って来ていて、一度で良いんで受け取って貰えないでしょうか」


「そうだったんですか。受け取るのは構いませんが、本当にそこまでしてもらわなくても十分です。もちろん、迷惑と言う訳ではありませんよ」


 ジャヴァ三兄妹との関係は既に良好だと判断していたフェートには、これ以上の感謝は不必要だと思っていた。


「いえ…違うんです。あの弁当はきっと、フェートさんとの繋がりに縋ったネールの、日常を取り戻す為に考えた手段なんだと思います」


「繋がりに縋っている?」


 セロは退院後、眠れずにすすり泣くネールが両親に慰められているのを見たのだとか。


 当然と言えば当然だ、あの事故がもたらした恐怖は三人の心を深く抉っただろう。


 まして、13歳になったばかりのネールには家族の支えがあっても辛い筈だ。


 それでも立ち上がろうとするネールが縋ったのが、命の恩人である自分だとセロは言う。


 ただ、恐怖に立ち向かうと言うのに、一方的に救われるだけの存在ではだめだと、フェートに肩を借りる対価として選んだのが弁当という事らしい。


 その幼さの残る対価は、彼女なりの精一杯なのだろう。


『思いを汲み取る事も、救った者の責務ということか』


 彼女達の様子から、順調に回復しているように見えていたが、それは彼女達の必死の戦果だったのだ。


 それを、フェートは軽く見積もっていたことに気づかされた。


 彼女らが自分に恩を返す事で、前に進めると言うのであれば、当然それに応えるべきだ。


「セロは兄妹思いなんですね」


「大切な家族ですから」


 夜中に寝れないネールを、セロは見た。それはセロ自身も、事故の恐怖に苛まれていたからだろう。


 それでもネールやディールの事を心配し、こうやって行動しているのは、それがセロの闘い方なんだろう。


 であれば、その家族愛をより発揮してもらうとしよう。


「セロ、それなら家族の為にも、いま借りを返してもらいます」


 セロは唐突な要求に驚きながらも、山小屋に向かうフェートの後に続いた。


「兄貴こっち、こっち」


 セロの指示通りに、ごった返す山小屋の中で4人掛けのテーブル席を確保していたディールが、手を振り合図を出していた。


「遅かったけど、何かあったの?」


「いや、大したことじゃないよ、除染場が混んでただけ。それよりもフェートさんが一旦街に戻りたいみたいなんだが、問題ないよな」


 フェートの脚力ならきっと問題無いことは分かるが、あまりあることでもないので二人の視線がフェートに集まる。


「今日は朝からエレの見送りなど色々ありまして朝食がとれず、いつも通り昼食を持たずに来てしまいました。なので一旦戻ろうかと…」


 フェートにしては歯切れの悪い言い方と、セロの熱い視線に気づいたディールが妹に的確なパスを飛ばした。


「フェートさん、弁当なら一つ余ってますよ。なぁ、ネール?」


「う、うん…」


 ネールは山小屋の管理人から返して貰ったバックパックから、円柱形の三段重を取り出しフェートに差し出す。


「そう言うことなら、お言葉に甘えまして」


 何故余っているのかなどと余計なことは言わず、さっさとネールの直ぐ横に座る。


 三人の視線が弁当を開けるフェートの手元に集まる中、三段重がばらされていき一番上には…濃いめのきつね色に焼かれガリガリとした表面を、後塗の油分が保湿しているセーグルが弁当の寸法通りのサイズで納められていた。


「それは、パン屋さんで焼いて貰ったもので、前日にお弁当箱を持っていくとその大きさで焼いといてくれるんです」


 日替わりで内容が変わるらしいパンの下、弁当箱中段にはローストされたであろう色とりどりの植物の可食部と、ヴァプールされた白身魚に赤いソースがかかっていた。


 そして一番下に入っていた料理には、見覚えが合った。


『ああ、これはレストランに行った時にシュウゲンが食べていた…』


 ムール貝と赤海老のマリニエールと、そのジュを吸わせたシューブレゼ、だったか。


 全段がオープンになり、ネールから渡されたフォークでクルリと丸まった赤海老を選択する。


 殻は剥かれており、そのまま口に含むと、酒蒸しされた身は冷えてなお柔らかく、噛むと旨みが香草の香りと一緒に口内で広がった。


「美味しいです」

 フェートの感想に、三兄妹の緊張は解け息を吐くと、それぞれ弁当に手を伸ばした。


「これは、ネールが作ったのですか?」


「はい、お父さんに前から教えてもらっていて」


 ほんの少し自慢げに話すネールの顔は、いつもよりも血色が良く、きっと自分のことを話せることが嬉しいのだろう。


 ネールの父、セージ・ジャヴァは雪割市北にある港湾部の西側にあるマリーナで、シーフードレストランを営んでいる。


 ここは富裕層から中流層まで幅広く支持され、市内でも人気上位に入る程だ。店で提供されるシーフードは新鮮で質も高い、それが相場より少し安く提供されランチ時は常に満席になっている。


 では何故、品質の良い物が安価で手に入るのかと言えば、答えは簡単でコリン・ジャヴァが漁師だからだ。ジャヴァ家は母方が代々漁師の家系で、今も中規模の船団を率いて漁に出ている。


「俺達も、普段は母さんと漁に出てて、休みの日に草刈りに来てるんですよ」


 雪割市の海産物を使った商品は、市外にも出荷され重要な資源になっており、それに関わっていることをセロとディールは自慢げにしていた。


「ネールも漁に?」


「私はまだ学生だから、学校の休みに来てるんです」


 フェートはなぜ三人が、中流以上の家庭に生まれながら、生命の危険を冒して除草作業に参加するのか分からず、素直に聞いてみることにした。


「言い出したのはネールで、俺たちは父さん達を納得させる為に使われたと言うか…」


「そうそう、ネールがどうしても参加したいって引かないから、母さんが兄妹三人で協力するなら良いって」


 そう言った提案が出されてから、セロとディールは漁にあまり関係の無い、攻撃的な遠隔術式を練習したそうで、なんとも妹思いだ。


「ん~、感謝してるよ…ほんとうに、おかげで当事者でいられるようになれたし…」


 ネールが落涙草の問題に積極的に関わる以前、母親に会いに港へ行った際に、数名の漁師がしていた話を偶然聞き、大きなショックを受けたのだと、除草作業にこだわる理由を話し始めた。


 その漁師達が話していたのは、落涙草の被害を受けるのは山の麓にある酪農業地帯で、ダメージを受け供給が減れば、その分の食の需要が自分たちのところに回りおいしい思いができる。


 だから、もう少しこのままでも良いんじゃないかと言う話だった。


 そんな完全に的外れで、危機感が皆無の漁師達を見たネールはその足で母親に問い掛けた。


 母親には、そんな人間ばかりではないはずだが、念の為に漁協組合に注意喚起するよう訴えると約束してもらい、ネールは落着きを取り戻した。


 しかしその時、他人事でいる漁師への怒りが、ふと自分にも向いてきたのだ。


 自分だって何もしていないではないかと、まだ学生だから、大人のやるべき事だから、そんな言葉に甘えて他人事になっていたのではないか。


 一旦そう考え始めてしまうと止められず、遂には除草作業に自ら参加することを決意した。


 それから二人の兄を巻き込み両親を説得し、協会の担当官にも雪割市の一員として、この問題の当事者であることを熱弁し、それに絆された大人たちは参加を許してしまった。


 フェートは話を聞き、ネールの評価からいくつかの単語を削除した。


 学生であることを考えれば、この考え方や行動力に特別な言葉を送りたくなるが、ネールがそう思っていないことは、既に理解させられている。


 従って、フェートは今かける最適な言葉をピックアップする。


「私も全力を尽くします。一緒に頑張りましょう」

 簡素な言葉ではあったが、きちんとネール達に思いが伝わった様だった。


「フェートさん…ありがとうございます。わたし、いつか山が元に戻ったら、前みたいに家族みんなで萌水湖にお花見に行きたいんです」


「ああ、いいなそれ…」

 思い出に耽る三兄妹と想いを共有出来たところで、休憩の終わりを告げる号令が発せられる。


 作業員達は直ぐ様意識を切り替え、続々と山小屋からでていくと暮れ行く夕日と競い合うように持ち場へと走り出していった。


 この日、最もセーフティエリアを広げたジャヴァ班の功績が、フェートの単独行動のお陰だけでない事は間違いないだろう。


 ーーー

 これは全くの余談だが、フェートには高性能な経口食機能と味覚センサーが搭載されている。


 何故、と言われればフェートが人類代理の役割を与えられた模造品だから…なのだが、それはそれとしてアンドロイドの食事機能に纏わる歴史を、少し振り返りたいと思う。


 アンドロイドが、一見して人と見分けが付かなくなった時代。


 食事をするという機能は義体産業において、売れ筋の部位で様々なメーカーが参入していたが、アンドロイド用となると一般義体流用のそこそこレベルの物だった。


 そんな中、一機のアンドロイドが過激な原理主義組織に潜入捜査することになる。


 当時はまだ、アンドロイドの単独潜入における諜報活動実績が世に出回っておらず、順調に原理主義者達の信頼を獲得し、組織内部へと深く食い込んでいけた。


 そして、組織の幹部が一堂に集まる宗教的儀式にも参加することが許された。


 ただこの儀式が行われるエリアは非常に強いジャミングが施されていて、バックアップを受けられないまま任務を続行すべきか諜報機関本部で待ったがかかった。


 しかし、こういった場面でこそアンドロイドのメリットが輝くのだと言う、エンジニア達の進言もあり結局、任務は続行となった。


 儀式では外様のアンドロイドはあくまで傍聴者であり、問題が起きようもなかったが、儀式の後に開催された食事会で事件は起きしまった。


 原理主義者達が親睦を深める中、懇意していた幹部からアンドロイドにちょっとしたサプライズが行われたのだ。


 それは、非常に郷土色の強い料理だった。


 現地の人間でも好みの分かれる癖の強い料理に、普通外部の人間は強い拒絶反応を見せながら気を遣って、味に言及せず暖かみのある感想を言うものだ。


 しかし、ジャミングのせいでオフラインとなったアンドロイドは、それが伝統的で大切な郷土料理だと判断してしまい味を含めてかなり好意的な感想をいってしまった。


 当然、外部の人間でも美味しいと感じる者はいるだろうが、状況からしてそれにユーモアが含まれていることに大抵気付くものだ。


 そんなほんの僅かな違和感、根拠の薄いなんとなくではあったが、一度生まれた不信感は簡単には消えず距離を取られてしまった。


 その客観的に見れば些細な出来事で、任務が失敗してしまいエンジニア達のプライドは大きく傷付き、他のアプローチも有った筈だがアンドロイド用の食事機能の開発に勤しんでしまった。


 この出来事は話題性もあり、世界中に拡散されていった。


 食事を勧めて感想を聞く、という安価で不自然さの無い方法は直ぐに浸透し、エンジニア達は更なる対策を求められ、いたちごっこになってしまった。


 そして疑心暗鬼になりすぎた結果、戦時下などにおいて食事に誘ったり、感想を求めることがタブー視され、結局残ったのは新たな食事のマナーと無駄に高性能なアンドロイド用経口食機能だけだった。


 まぁ、この技術は民間に下ろされ全体の技術レベル向上に貢献もしたし、何より今フェートが親交を深める手段として活用させてもらっている事を考えると、当時のエンジニアの努力も無駄ではなかったのかもしれない。






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