第43話 カードゲーム部の日常

 俺は荷物整理の為に部室に訪れると中には月ヶ瀬先輩、有栖川、それに黒崎先輩がいた。


「黒崎先輩、いたんですね」

「色々と動いていてね、さっきは生徒会室に同行できなくて申し訳ない」

「いえ、もともと俺が無理を言って部活に入ってもらったんです。 今まで付き合わせて、すみませんでした」


 俺が謝ると先輩は不思議そうな顔をする。


「おや、ヒロ君、まるで今日が部活最後の日みたいな言い方だね?」


 黒崎先輩はなぜかニヤリと笑いながら俺に話しかけてくる。


「月ヶ瀬先輩や有栖川に聞きませんでした? 部活は今日を持って廃部に……」

「それが、ならないみたいなんだ」

「……え?」


 月ヶ瀬先輩の言葉を聞いて俺は耳を疑った。廃部にならない? だってつい先ほど生徒会長からこの決定は変わらないと聞いていたのに?


「この人があの手この手を使って生徒会や教師を言いくるめたんだって」

「有栖ちゃんは私の事を時々妖怪みたいに言うねー」


 有栖川が黒崎先輩を指さし、先輩はその指を触りながら言葉を返した。 


「黒崎先輩が?」

「これ見て」


 有栖川は携帯画面を俺に見せてくる。そこに映っていたのは先ほど生徒会長に見せてもらった映像と全く同じものだった。


「黒崎さん、これを学校内のありとあらゆる生徒や教師に流したみたい」

「ど、どうやって?」

「方法はひ・み・つ」


 先輩はシーっと指を立てて静かにするような仕草をする。月ヶ瀬先輩と有栖川は顔が笑っていなかった。これ以上方法を聞いても教えてもらえそうにない。


「でもこれを拡散して何になるんですか?」

「相変わらずヒロ君は鈍いなー。 もしも例の噂が本当だとして、週末に被害者と加害者がこんなに楽しそうに遊んでいると思うかい?」

「天野君や私を含めて全員が私服姿、ご丁寧に時計まで映している。休みの日に遊んでいるのは一目瞭然だ」

「私が被害者って噂も広まっているわけで、この動画によって噂は嘘だって信憑性が高まったみたい」


 生徒会室を出た直後に月ヶ瀬先輩の妹は有栖川のおかげと言っていた。まさかこんな形で噂を真実で塗りつぶすとは……


「後は納得しなさそうな生徒会長と月ヶ瀬ちゃんの妹さんをどうにかするつもりだったけど……どうやらその手間も省けたみたいだし」

「省けた?」


 俺がこだまを返しても黒崎先輩は適当にはぐらかした。


「黒崎さん、あなた私の妹と近江生徒会長に何するつもりだったの?」

「それもひみつー」


 語尾に音符が付きそうな言い方で先輩は笑ってごまかした。月ヶ瀬先輩と有栖川は顔が真っ青になっているけれど何を想像したのだろうか。


「とにかく、これでヒロ君にとって大切な場所は守られたかな?」


 黒崎先輩は俺の方を向いて笑った。この人は俺の為にここまで動いてくれたのか……本当に彼女には頭が上がらない。


「黒崎先輩、ありがとうございます。 また大きな借りが出来ちゃいました」

「それならそろそろ返してもらおうかなー」

「今の俺に返せるものがあれば何でも」


 先輩はニヒッと悪い笑みを浮かべた。


「それなら私の事は今後、昔みたいに綾乃って呼ぶように、あ、あと敬語もやめてね」

「……本当にそれだけで良いんですか?」

「いいよー、ほら、早速敬語を使ってる」


 高校生になって女性を下の名前を呼ぶのに恥ずかしくないわけがない。それでも、恩を返すのにはまだ足りないぐらいだと俺は感じてしまう。


「わかった。改めてありがとう綾乃」

「うん、どういたしまして」


 なぜか月ヶ瀬先輩と有栖川の方を向いて先ほど見せたような笑みをする。


「あ、天野君、私も同じように話しかけていいからな」

「天野、私も!」

「いや、月ヶ瀬先輩は先輩ですし、有栖川は有栖川だろ」

「二人共、残念でした」


 黒崎先輩はなぜか手を振って二人を煽っていた。二人にはそれが想像以上に応えていた……時々この三人の関係はよくわからなくなる。


「それじゃ、私はバイトがあるから、またねー」


 黒崎先輩は部室を出て行った。嵐のように現れて嵐のごとく去っていく人だ。


「何はともあれ、これで一件落着なんですかね?」

「そう……だな」


 我を取り戻したように先輩は小さく咳払いをするとカバンからデッキを取り出した。


「それでは天野君、いつものように対戦を始めようか」

「もちろん、受けて立ちますよ」

「あ、ずるい! 私だって戦えますよ!」

「それなら順番をじゃんけんで決めようか」

「私は構わない」

「いいわよ、それじゃ、じゃーんけーん!」


 放課後、東校舎の三階、最奥の部屋内に楽しそうな声が響く。今日もまたそしてこれからもカードゲーム部は活動を続けていくだろう。

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