第27話 天才の片鱗
「これでとどめです」
「……参りました」
俺の攻撃宣言に合わせてハンバーグさんは敗北を認める。二回戦、俺にとっての一試合目はなんとか勝利で終わった。
「相変わらずお強いですね」
「いや、運も味方していましたよ」
序盤は優勢だったが中盤にハンバーグさんから展開に干渉されて俺の動きが鈍ってしまった。取り返しのつかなくなる一歩手前で神がかりの引きをみせた結果、勝つことが出来た。
「そうだ、ハカセさんは再来週の土曜日空いてます?」
「再来週ですか?」
「近くのお店で団体戦をやるみたいなんですよ。 もしよろしければ一緒にでませんか?」
「あー……ごめんなさい。 その大会もう組む人が決まっているんです」
「なんと……それは残念です」
ハンバーグさんは眉を下げて声が小さくなる。人に誘われるのは嬉しい事この上ないが、すでに先約が入っている。
「もしかして今日一緒にいた女の子二人と参加される感じですか?」
「いえ、つき……ルナ嬢ともう一人はオーガです」
「おぉ、あのオーガさんと」
ハンバーグさんは感嘆の声を漏らす。教師としては問題点しかないが、カードゲーマーと話すとオーガは有名プレイヤーなのだと再認識させられる。
「もしよければまた次の機会に誘ってもらえると嬉しいです」
「えぇ、是非とも」
ハンバーグさんと別れた俺はフリー対戦をしている大和田と有栖川の席に近づく。
「おぉ、ハカセ殿どうでした?」
「俺が勝ったよ」
「それは残念」
大和田の言葉に俺はうるせーよ、と言いながら肘で彼の肩を叩いて返した。
「アリス殿は荒削りですが、時折光るような才能を感じますな」
「ほーう?」
部員以外のメンバーと対戦するのは今日が初めての有栖川だが、大和田にそう言ってもらえるのは彼女にとって喜ばしいものだ。
「オタク君でいいのかな? ごめんね。 私のプレイ速度が遅くて……」
「誰しもそうやって強くなっていくものです。 自分もハカセ殿だって最初は初心者だったのですから」
大和田の言葉を聞いて有栖川は「オタク君……」と感動していた。オタクに優しいギャルならぬ、ギャルに優しいオタクというシュールな構図が生まれていた。
二回戦を終えて、先ほど集まったメンバーの中で勝ち残ったのは俺と月ヶ瀬先輩の二人だけとなった。ハンバーグさんとマー君、ユー君は試合を終えてもまだ時間があるらしく、大和田達とフリー対戦を始めていた。一人でも多くの人と対戦経験を積めるのは有栖川にとってありがたい。
その後、三回戦で俺は負けて月ヶ瀬先輩は勝ち上がった。続く準決勝も先輩は勝利を収め、決勝戦に到達した。最終戦は周囲に人が集まり、観戦状態となった。
「アリスさんに聞きましたが、ルナさんは大会に出始めたのは最近なのですか?」
「みたいです。 でも先週も大会に出て優勝したみたいで……」
「そうだとしたら彼女は相当な才覚の持ち主ですね」
ハンバーグさんの言う通り、月ヶ瀬先輩のカードゲームに対する実力と成長速度、そして環境に対する適応力は天才以外の表現は思い浮かばない。まさか生徒会長達の言葉をカードゲームという分野において強く実感するとは予想しなかった。
「カードゲームは基本自分の手札と盤面の確定した情報を中心に戦術を組み立てる。 けれども、ルナさんはまるで相手の手札や次に行うであろう手を読んで試合を進めていく。 同じカードゲームをやっているとは思えなくなりますね」
ハンバーグさんは先輩の戦術を的確に言葉に落とし込んでいた。先輩はカードだけでなく、相手の思考を読み取っている。だから一番やられてほしくない手を打たれて、今の対戦相手のように驚き、焦り、そして敗北するのだ。
「対戦、ありがとうございました」
負けた相手が頭を下げる。先輩は「こちらこそありがとうございました」と冷静に言葉を返すと広げられたカードを集めてデッキにしまった。
「優勝おめでとうございます、もしよろしければお名前と使用したデッキのキーカード、それから一言いただけますか?」
店員さんが月ヶ瀬先輩に駆け寄ってSNSに投稿しても良いか確認を取る。先輩は笑顔で了承すると、デッキの中から一枚のカードを選び、プレイマットに置いて撮影を促した。
「それでは本日の大会は以上になります。 お疲れ様でした!」
解散の合図を聞いて決勝戦を見ていた人たちも離れていく。優勝者の先輩は何人かに話しかけられていたので俺は先にフリー対戦を続けていた有栖川達の方に戻った。
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