第12話 意義と成果
「ハカセ殿、惜しかったですな」
「惜しかったなー、ハカセ!」
「でもかっこよかったよー!」
大会の決勝戦が終わり、三人のもとに戻ると各々が声をかけてくれる。結果から言うと今日の大会、俺は準優勝だった。最終戦はあと一歩の所で肝心のカードを引くことが出来ずに負けてしまった。ちなみに大和田は一回戦で見事に散ったのですぐにマー君たちの面倒を見る係になっていた。
「マー君のデッキも面白かったな、まさかあのカードが採用されてるなんて」
「そうだろー! これとっておきだったんだ!」
マー君が机の上にカードを並べて嬉しそうに話す。自分で考えたデッキを誰かに褒められて嬉しくないわけがない。実際に使われてかなり効果的だったので今時の小学生は侮れない。
「オタクに今日は三回も勝ったよ!」
「それはすごいな!」
「じ、自分は手加減をしただけで……」
「嘘をつけ、手が震えてるぞ」
「はうっ!」
「あはははー!」
マー君とユー君は無邪気に笑った。それを見て俺たちも笑い合う。
そんな感じでしばらく遊んでいるとマー君とユー君の母親が両手に買い物袋を持って戻って来た。
「今日は本当にありがとうございました。 おかげで食料品から薬、雑貨まで色々買うことが出来ました」
母親は袋を置いて財布を取り出そうとしたので俺は慌てて口を開く。
「こちらこそ二人が俺たちと遊んでくれて楽しかったです。 彼は最初の方に負けてしまったので、一人になっていた所を二人が対戦相手になってくれていたんですよ」
「そうだよー!」
「オタクに三回も勝ったんだ!」
ユー君が手をパタパタと動かしながら母親に話す。大和田に勝てたのがよほど嬉しかったようだ。
「で、でも何かお礼を……」
「それでは自分から二人にお願いよろしいですか?」
大和田は立ち上がるとユー君とマー君の肩を掴んだ。
「二人共、今日一日沢山遊んだから帰りはお母さんに優しくするんだぞ?」
「うん、わかったー!」
「お母さん、その荷物持つねー!」
大和田の言葉を素直に受け取った二人は買い物袋を持つと母親のそばに近づいた。
「じゃあなー、ハカセ、オタク!」
「またなー!」
「気を付けて帰るのだぞ!」
子供たちに連れられて母親は店の出口へと向かっていく。母親が一度こちらに振り返ると丁寧にお辞儀をしたので俺と大和田も軽く頭を下げて三人がいなくなるのを見送った。
「いなくなったでござるな」
「そうだな」
俺は隣にいる大和田を無言で見つめた。
普段俺と接している時の大和田はふざけている事が多いが、本当は俺よりもよっぽど常識人で気遣いが出来る。通っている高校は俺よりも偏差値の高い明大寺高校なので頭も良い。
ふくよかな体系ではあるが、清潔感も人一倍気にしているので不快感は一切ない。……あれ、大和田ってもしかして優良物件?
「それじゃ、話をだいぶ前に戻すけど、部活の件助けてくれるか?」
「え、無理でござるよ?」
訂正、こいつ不良物件だわ。
「と、いうよりも自分には出来る事がない……と言った方が正しいか」
「?」
「ハカセ殿はすでに答えを持っているではありませんか?」
「……なんか似たような台詞を昨日オガ先に言われたな」
「ほう、オーガ殿に」
そういえばハカセ殿の通う高校にはオーガ殿が教師を務めていましたな、と大和田が話す一方で俺は二人から言われた言葉の真意を考える。
いったいなんだ? 部活を続けるうえで今の俺に出来る事……今俺が持っているもの?
「ハカセ殿ってたまに鈍感ですな」
「それは女の子に言われてみたい言葉だな……すまん、わからない」
「ヒント、というかもうこれが答えになりますが、ほら」
大和田は携帯を取り出すとSNSを開いて何かを検索し始めた。すぐに目的のものを見つけたらしく、俺の方に見せてくる。
「これは……今日の大会結果?」
この前と同じようにこのお店の公式アカウントから今日の優勝者、準優勝の名前と使用したデッキの画像が公開されていた。
「…………あ」
そこに書かれていた「準優勝者 ハカセさん」という文字を見てようやく俺は理解した。
「そうか……これも一つの実績だ」
「そうでござる。 ハカセ殿はすでに部活動継続に必要な意義と成果を残しているのですぞ」
部室で先輩と対戦をしているのは大会で結果を残す為、そして今日であれば準優勝という成果を出している。
「なるほどな……ありがとう大和田。 おかげで部活は継続出来そうだ」
大和田にお礼を言う。なんだかんだといって大和田には世話になっている。
「礼など不要。 必ずや噂の美人さんを連れてきてくれ」
「ごめん、その約束を守れる保証はないかな」
「人生最後の言葉はそれでよろしいか?」
「だからカードショップを殺人現場にするんじゃねぇ!」
再び殺意の衝動に駆られた大和田からなんとか生き延びて週末は終わりを告げた。
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