第11話 困った時は友人に相談する
「……ってわけで、廃部にならないようにするにはどうすればいいと思う?」
「なるほどなるほど、ハカセ殿は今すぐに処されたいのですな」
「落ち着け大和田。今の説明のどこに死ぬ願望があるんだ」
握りこぶしを構えて興奮状態になった大和田を制して鎮める。土曜日の昼頃、俺は大和田と約束していたカードショップのある複合施設に訪れていた。大会が開かれる時間よりも一足先に来ていたので俺は対戦をしながら今の置かれている状況を大和田に説明し、相談していたのである。
「ハカセ殿~。 今のお主の立ち位置、分かっています?」
「せっかく部員を集めたのに廃部の危機に面している、だろ?」
「半分正解ですが、詳細部分が抜けておりますぞ」
「詳細部分?」
「年上と幼馴染の美人な先輩達、そして転校生の美人な同級生、そこにハカセ殿を加えた四人で結成した部活が廃部になろうとしているのでしょう?」
「あー、まぁそうなるな」
「可愛い女の子に囲まれてカードゲームをやっている男を見たらどう思います?」
「それは処すね」
「というわけでこれは正当攻撃、地獄に落ちろ!」
涙を流しながら鬼の形相で首を締めようとしてくる大和田の手を俺は両手で受け止める。
「待てって大和田、俺を殺しても何も問題は解決しない!」
「自分が嫉妬から解放されるのであります!」
「それしたら代わりに刑務所に投獄されるけどな!」
代償があまりにも大きすぎる。大和田の事は正直どうでもいいが、死にたくない俺は大和田の手から首を懸命に遠ざけた。
「そ、それに、もし部活が続けば、こういった場所に有栖川達が来るかもしれないんだぞ?」
「そ……それは確かに」
大和田の力が緩んだ、これはチャンスだ。
「この場で俺の命という希望の花を摘み取るか、それとも俺に協力して無限の可能性を追いかけるか、選べ!」
「……よし、ひとまずは停戦ですな」
大和田が俺から手を離す。危うく友人に殺されるところだったぜ……
無事生き長らえて一息吐くと同時に背中に衝撃が走った。え、もしかして背後から第三者に狙われた? 死ぬの俺?
「ハカセー! オタクー!」
振り返ると子供が元気よく俺の背中をバシバシと叩いていた。大和田の方を見ると別の子供が彼の豊満な体に抱きついて遊んでいた。
「は、離すのであります!」
「えー、なんでー!」
子供は無邪気に大和田のおなかを触っていじっていた。
「ご、ごめんなさい……うちの子供たちが迷惑を」
慌てた様子で子供たちの母親がこちらに寄って来ると俺たちに絡んでいた子供を引きはがした。
……そうか、今日はこの二人、母親とここに来たのか。
「気にしないでください。 いつもユー君とマー君とはここで遊んでいるので」
「そうだぞー!」
「ハカセ―! 今日は絶対に勝つからな!」
マー君が俺に無邪気な笑顔でデッキを見せてくる。
「お、新しいデッキを作ってきたのか。 それは楽しみだ」
ここは他のカードゲーム大会が開かれる場所と違って比較的幅広い年齢層のカードゲーマーが集まっている。ユー君とマー君はその子供達の筆頭で俺たちとよく遊んでいた。
「ほ、ほんとに大丈夫ですか?」
「オタクも……彼も口ではあぁ言っていますが、本心ではないので」
先ほどから子供たちが読んでいるオタクというのは大和田のプレイヤーネームである。大和田拓人から文字を取ってオタク。俺と同じ安直なネーミングであり、本人曰く、決して容姿から選んだわけではないらしい。
「オタクー! この中にデッキを隠しているのか―?」
「な、そんなわけないですぞ!」
ユー君にお腹を叩かれて大和田は否定する。小学校低学年の二人ならこの程度の粗相はむしろ元気があってよろしいと俺は思っている。
「もしよかったら俺たちが二人を見ているので、用事があれば行ってきてください」
ここに来る人のほとんどは他に目的がある。主婦ならスーパーやドラッグストアあたりが考えられた。
「そんなお気遣いまで……」
「ハカセとオタクがいるから大丈夫!」
「何かあったら電話する!」
ユー君がポケットからキッズ携帯を取り出した。この歳で携帯を持っているのか―、と感心しながらも俺は二人の母親を見て首を縦に振る。母親は「ありがとうございます」と言ってどこかに向かった。
「今日こそは優勝するぞー!」
「おー!」
二人は大会に向けて意気込んでいた。
カードゲームと聞くと大半の人はユー君やマー君のような小学生の遊びだと認識しているかもしれない。しかし、現代ではその道のプロがいるように、プレイヤーの平均年齢層は俺たちよりも若干上の二十代後半ぐらいらしい。
「それではこれより受付を開始します! こちらの名簿にプレイヤーネームの記入をお願いします」
店員さんの声を聴いて参加者たちが一列になって名簿に名前を記入し始めた。俺と大和田は広げていたカードを収納するとユー君とマー君と列に並んで登録を済ませる。
「今日はどんなデッキを使うんだー?」
「それは実際に当たってからのお楽しみだな」
「えー、教えてくれよー!」
マー君がぶーぶーと口をタコのようにして不満そうな表情をする。対戦が始まればすぐに使うデッキの中身なんてわかってしまうが、せっかく今日の為に作ってきたものを試合前に公開するのも面白くはない。宝箱は開けるまでのワクワクも楽しみの一つである。
「俺この前このカード当てたんだぜー!」
「なっ……そのカードは希少なもの! 少年、こちらのカードと交換しないか?」
「おいこら。 小学生にトレードを持ち込むな」
「じょ、冗談でござるよ~」
俺は大和田の頭にチョップする。基本的にこういった場所でのトレードは禁止されている。最近の子供はカードの価値を知っている子が多いとはいえ、大人げない事はするべきではない。
○
「それでは一回戦を始めます! オタクさんとバニラさんこちらで対戦をお願いします」
「では行ってくるであります」
「おう、頑張れ」
「オタクー! がんばれー!」
「負けんなよー!」
俺と少年二人の声援を受けて大和田は対戦卓へと向かっていった。その後も順番に名前が呼ばれていき、偶然にも俺は初戦からマー君と対戦する事になった。
「今日こそは負けないからな!」
「望むところだ! 手加減はしないからな」
マー君の挑発に俺は視線を交えて受け応える。ついさっきまで大人げないとか脳内で言っていたが、カードゲームが始まれば真剣勝負。子供が相手だからといって容赦はしない。手を抜いた相手に勝っても嬉しくはないからね……そのぶん自分よりも年上の相手に勝てたら喜びもひとしおというものだ。
「それでは対戦を始めてください!」
「よろしくお願いします!」
店員さんの合図と共に試合が一斉にスタートする。勝負の火蓋が切って落とされた。
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