第7話

背の高い痩せた髪の薄いおじさんが足利さんの前にでる。

「本田です。私は大学院終了後、大手ソフトウエア開発メーカーに就職、そこで15年の実績を積み、一橋機械に乞われて入社、いくつもの大規模ソフト開発プロジェクトをPMとして成功に導いてきました。

それだけではない、実は私はこの会社の設立にもかかわっているのです。設立時と会社の状態は大きく変わりましたが、私のもとで大規模プロジェクトをこなせる会社に戻れるよう、皆さんと頑張りたいと思います。

プログラマーはSEを目指し、SEはPMを目指し、pMはコスト管理、工程管理能力を向上させる。社員、支援者のスキルアップでプロジェクト受注を実現しましょう」


そう言ってから二宮さんに向かって

「二宮部長、明日、社員のスキル表を下さい。プロジェクト単位にPM、SE,プログラマーの経験回数が分かるものもあわせて。それと、ここ6カ月の全員の週報も用意願います」

「あの、ここでは、全員が、PMとか、SEとか、プログラマーとかを兼ねて仕事していますし、私を含めて20人しかいませんので、そう言ったものは作っていないのですが」

「ないだって、ダメだ、全くダメだ。あなた、プロジェクトの進め方を分かっていない。管理職失格。

管理できない管理職は会社にいらない。私が来た以上きちんとした管理を来週から始める。いいね」


そこに、あの山バカがにこにこしながらこっちに歩いてくる。

「やあ、本田さん、良くいらっしゃいました。今の話聞こえましたよ。ここの連中は全くダメですよ。

営業も日報すらない。今、管理を強化し全面的に作り変えているところです。本田さんと私で徹底的にやりましょう。いやあ、同志が出来て良かった。

それはともかく、本田さんと足利さん二人の歓送迎会を用意しましたんで行きましょう。二宮、賀屋、お前らも参加しろ。ああ、それとそこのお嬢ちゃんも」と、こちらを指さす。


えっ、私、いやだ、と言いかけて山バカの指さす先は、美馬さんじゃない。

賀屋さんをとみると、だめだ、顔色が変わってる。賀屋さんが何か言いかけた時、美馬さんが賀屋さんの前に出る。

「分かりました。お供させて頂きます。

ただ、今日は、弊社のシステムをご利用の多くのお客様でバージョンアップ後、初めて、週末処理と月末処理が重なっており、さらに数社では期末処理も予定されております。

営業とソフト制作が各お客様先で待機することは、山中本部長も御存知と思いますが、賀屋課長も私も万一を考え、社で待機の予定でしたので、短い時間でご容赦頂けますでしょうか」

「まあ、そうだな。それなら仕方がないが、ちょっとだけでもつき合え」と山バカがもごもごと口ごもりながら呟くように言う。


山バカ、営業のみんながお客さんの所に行ってる理由知らなかったんだ。誰も言わなかったんだ。

「それじゃ、未希ちゃん、ちょっと出てくるから、何かあったら連絡して」

そう言って、美馬さんは賀屋さんを促すように足利さん、二宮さんと4人で、山バカと本田の後と追いかけて行った。


それから30分位して、私以外のソフト制作のみんなもお客様の所に出かけたところで、私の席にある外線電話が鳴る。

「もしもし、誰かいますか」神田さんだ。

「はい、一橋ソフトウエア青木です」

「ああ、未希、よかった。今、丸山商事さんの月末処理の立会中なんだけどさ、処理が進まないって言うか、いつもなら15分位で終わる処理が30分経っても終わらないんだよ。

3日前に、未希に急な変更頼んだじゃない、この丸山商事さんのさ、あのプログラムなんだよ。変更も、テストも問題ないって言ってたよな。

ここ、ソフト制作いなくて俺だけなんだよ。未希、確認してくれよ。至急だよ、至急。確認できたら折り返して」


落着け、落着けと自分に言い聞かしながら、3日前の変更の内容とテスト結果のファイルを読み出し確認する。問題ない。

変更したところにエラーはない。テストも予定通りの結果が出ている。なんだろうなんだろう。他の原因はないか。思いつかない。

この変更の時、美馬さんが出かけていたので、テストまで一人でやって、神田さんに「これでお願いします」って渡した。

美馬さんに確認してもらってない。後で報告して「駄目じゃない一人じゃ。必ず二人でやりなさいって言ってるでしょ」と怒られたけど、「絶対大丈夫です」って私言った。

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