第6話
営業部長の玉木さんと、ソフト制作本部長の足利さんが、山中に、一橋ソフトのソフト制作方法なんかを、あらためてお客さんに説明するために、営業とソフト制作が一緒にお客さん回りをしましょうと話した。
話の途中で山中が怒り出したらしい。
「今、俺がここの営業を作り変えているんだ。
余計なことするな。おい、玉木、お前は誰の部下だ。勝手なことをするなら首だ。
それと、足利さん、俺の部署に首を突っ込まないで欲しいね。親会社で、余計な口を出して飛ばされたの分かってないの」
この話を玉木さんと足利さんから聞いた賀屋さんは
「私が余計なことを考えたばかりに御迷惑をおかけして申し訳ありません」って、玉木さんと足利さんに頭を下げてた。
足利さんは「いや、僕の力不足で申し訳ない」と言ってから、玉木さんに「あの人は一橋機械でも、あんなふうで、みんな困ってたんだよね。玉木さんには迷惑かけるね」と話しかける。
「私はいいんです。大きな所にいたこともありますから。
でも、現場のみんなが心配です。ここしか知らないのもいますから。
賀屋さん、何か方法を考えましょう」と言って戻って行く。
これはまた美奈ちゃんの話。この後、山中、いや山バカが社長にいろいろと言ったらしい。
「声がでかいから全部聞こえちゃうのよ」
足利さんが、営業の仕事の邪魔をしているとか、山バカの悪口を言いふらしているとかいろいろ言ってから、
「営業の立て直しが進まない。売り上げが落ちている。これはみんな足利が原因です。あいつを追い出して欲しい」だって。
社長は「そうか、彼の悪い評判は以前からいろい聞いている。ああいうタイプは企業には向かないのだよ。
ただ、上層部に評価している人もいるから、直ぐにとはいかないだろうが、動いてみよう」と言ったって。
それから、これはこの後2カ月位して、いろいろあった後に美奈ちゃんが「あのね」と話してくれた。
「山バカが足利さんを追い出してくれって言った日ね、賀屋さんのことも社長と話してたの」
「『黒幕はソフト制作の賀屋ッて課長らしいです。
課長の分際で生意気にも、部長連中に命令してるらしいんです。アメリカ帰りか何か知らないが、ああいう秩序を無視するやつが会社をダメにするんですよ』
『実は、賀屋課長が、ここ2、3年の業績アップを自分の手柄だと吹聴しているらしいんだよ。
前社長の所田さんの手柄の横取りだよキミ。
あんなのを置いとくと、僕やキミもいつ寝首を掻かれるかわからんぞ』」
だって。
「あの時、この話も未希ちゃんに言ったら、未希ちゃんブチ切れるじゃない。だから怖くて言えなかったの。ごめんね」
ブチ切れじゃすまない。
「ううん、美奈ちゃんのおかげで、私、人殺しにならなくて済んだ。ありがとう」
山バカとごちゃごちゃがあった日から2週間たった頃、二宮部長が賀屋さんの席に来て話をしているところに、どこかに出かけていた足利さんがやってきた。
「僕の異動が決まったよ。今、親会社に呼ばれて言われた。2週間後、7月1日付。
金型の下請け会社だって。ただ、相手会社の都合で1、2ヶ月親会社で待機らしいけれどね。こうなると、行き先もあやしいな。来てから、何の役にも立たないままで本当に申し訳ない」
「私が余計なことを言ったばかりに申し訳ありません」
「賀屋さんのせいじゃないよ。香川さんとはもともとダメだから少し早まっただけ」
「それにしても急ですね」と二宮さんが聞く。
「親会社の人事部の知り合いが教えてくれたんだけど、山中さんが、人事部に乗り込んで騒いだらしいんだよ。
人事部長が山中さんには前から困っててさ、あいつがここに来ないようにしてくれとなって、急遽決まったらしい。嫌われ者のごり押しが通る会社なんだよ」
「こんなことを聞くのは何ですが、後任は来るのですか」と二宮さん。
「うん、山中さんが何人か名前を出したらしい、自分と合う人をね。今親会社の業績が悪いでしょ。年配者の肩たたきが進んでいるんだよ。
一橋機械が、昔、ソフト開発を大規模にやろうとして、大手のソフト開発メーカーから大勢集めたけれど、結局うまくいかず縮小した。その時集めた人が結構残っててね。
山中さん、そこの営業だったんだよ。今も付き合いは続いているらしいし、彼らは今仕事は無いし、多分そこじゃないかな」
6月の最後の日の夕方、一人のおじさんが足利さんの所にやって来て何か話してる。
話し終えた二人が立ち上がり、足利さんが机の前に出る。
「ちょっと、皆さん、聞いて下さい。私は今日を最後にこの会社を離れることになりました。
短い間でしたが、皆さんと一緒に働けたことをうれしく思っています。本当にありがとう。で、私の後任として、この本田さんが7月1日付でソフト制作本部長に就任されます」
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